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第21話 監視王女
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隣を見ると、オリヴィアは膝に乗せた本をパラリと捲っている。
目が左右に動き、数秒も経たずに次のページが捲られている。あれで内容を完全に理解できているのだとしたら恐ろしい速度だ。
俺はというと、気まずい思いをしながらベッドで横になっている。
パメラであれば、ときおり話し相手になってくれたのだが、オリヴィア相手に話し掛ける勇気がない。
そもそも、監視しにきたと言っていたので、話し掛けても無視される可能性が高い。
しばらく見ていると、ふとオリヴィアの手が止まる。
目まぐるしく動いていた瞳が本の一点に集中し、身動き一つしなくなった。
何かわからない単語でもあるのか、彼女の様子を観察していると、オリヴィアは顔を上げ俺を睨みつけた。
「さっきからじっと見て、何か用?」
「いや、読むのが早いなと思って。それなんの本を読んでるんですか?」
向こうから話を振ってくれたので、ここぞとばかりに質問をすると、彼女は本を閉じる表紙が見えないように置いた。
「魔道書だけど、退屈しているのならあなたも読む?」
そう言って一冊差し出してくる。分厚く装丁も豪華な、いかにも難しそう内容の本だ。
「遠慮しておきます」
「……そぅ」
本を戻し、再び読書に耽ろうとするオリヴィア。せっかくなのでもう少し話をしてみたかった。
「それより、姫様の方はもう大丈夫なんですか?」
俺に絶対安静を強いているようだが、数日前まで意識を失っていたのは彼女の方だ。なんらかの不調が出てもおかしくはない。
「平気よ、説明したでしょう? 迷宮に籠もる前に徹夜していたから疲れが出ただけだって」
右手で髪を払うと、オリヴィアは気丈な振る舞いで俺に説明をした。
「それより、私の方も気になっていることがあるのだけど、いいかしら?」
「なんですか?」
「あなたの能力が説明と少し違う気がするのだけど」
「俺に死の危険が迫ると身体の一部が痛みそれを教えてくれる。間違ってないと思いますけど?」
オリヴィアが何を言いたいのかが良くわからない。
「最初にムカデが現れたとき、狙われていたのはあなたではなくて私だった。命の危険があったのは私なのにあなたは反応したじゃない?」
それに関しては俺も考えたが説明がつく。
「あの場にいたのは俺と姫様だけです。もしあのまま姫様が死……、倒されていたらムカデは即座に俺に襲い掛かってきた。だから察知できたんじゃないかと?」
『死』という言葉が出そうになり途中で止める。口にするとオリヴィアが死んでいた状況を生々しく想像してしまいそうで気分が悪くなるからだ。
「ふーん、そういう説明になるのね」
俺が言っていることが正しいのか検証するため、オリヴィアはアゴに手を当てて考える。
「でも、それだけじゃ説明がつかない部分があるわよ。あなた、毒を受けた状態でムカデに向かって行ったわよね? あの時一撃も攻撃を受けなかった。あなたの実力から考えるとあり得ないし、後ろで動きを見ていて妙だと思ったわ」
しばらくして、彼女は俺の行動の奇妙な点を指摘してきた。
「あの時は、とにかく嫌な気配を感じるたびにそっちに剣を向けただけなんですよ。多分、攻撃を受けたら死ぬはずだったんじゃないでしょうか?」
実際、どこから攻撃が来るかわかっていた。だが、どれか一つとっても即死する威力の毒があったとしたら反応しても不思議ではないのではなかろうか?
「もしかして……成長している……いや、でも……」
俺のことを完全に無視してオリヴィアはなにやらぶつぶつと呟いている。
「あの、姫様?」
「なんでもないわ。私の勘違いかもしれないし」
彼女は首を横に振ると会話を打ち切った。
その後、本を手に取ると再び読書を始めてしまう。
結局、彼女が何も言わなかったので俺はそのあとも考え続け、気が付けばパメラが戻ってきていた。
試練から二週間が経過した。
俺たちは現在、城の中庭にある庭園へと整列させられている。
ここは茶会やパーティーにも使われるらしく、それなりに広い敷地となっている。
敷地を囲うように様々な花が咲いている。
専属の庭師が心を込めて育てているのか、この景色を見られるだけでも価値がある。
背中を突かれて後ろを見ると、パメラが咎めるような視線を俺に向けていた。目の前に集中しろと言っているようだ。
俺の前にはオリヴィアが立っている。ドレスの上からローブを被り、杖を持つ。
迷宮に潜った時と同じ格好だ。
その前には近衛騎士団長ガリオンが壇上に立ち俺たちを見ている。
そして庭園周りを騎士と兵士が、二階のバルコニーにはレイドル王に王妃、その他有力貴族たちが椅子に座り俺たちを見下ろしていた。
「それでは、発表が遅れてしまったが、第一の試練の結果を告げる」
すまし顔のオリヴィアに注目が集まる。
「第一の試練を制したのは、第三王女オリヴィア様。前へ」
周囲の視線が集まる中、オリヴィアはガリオンの前へと歩いて行く。その姿をローウェルとアマンダはじっと見ていた。
試練で先を越されて悔しいのだとは思うが、表情に出さないは流石だ。
一方、後ろに並んでいるクラスメイトたちは違う。
小林など露骨に表情を歪めているし、田中も眉間を寄せて睨んでいる。
彼女のあのような顔は学校の教室で見たことがない。よほど悔しいのだろう。
「今回の試練は迷宮に解き放たれた多数のモンスターをいかに攻略し、最深部を目指すという難易度の高いものだった。オリヴィア様は召喚者を引きいてこれを成し遂げた。これは誰もが簡単にできることではない。実際調査の際に近衛騎士団にも犠牲が出ているのだから」
ガリオンが試練を突破したオリヴィアを褒め称えている。
周囲の貴族もガリオンの言葉を聞き、オリヴィアに目を向けている。そこにはこれまでなかった好意的な視線が混ざり始めていた。
色々大変な試練だったが、それを制した甲斐があったというものだ。
「それでは、オリヴィア王女からも一言」
彼女は拡声魔道具を受け取ると、いつも通り気だるそうな顔をして言った。
「私は特に何もしていない、すべてはそこのスズキの活躍よ」
その場の視線が一斉に俺へと向いた。
目が左右に動き、数秒も経たずに次のページが捲られている。あれで内容を完全に理解できているのだとしたら恐ろしい速度だ。
俺はというと、気まずい思いをしながらベッドで横になっている。
パメラであれば、ときおり話し相手になってくれたのだが、オリヴィア相手に話し掛ける勇気がない。
そもそも、監視しにきたと言っていたので、話し掛けても無視される可能性が高い。
しばらく見ていると、ふとオリヴィアの手が止まる。
目まぐるしく動いていた瞳が本の一点に集中し、身動き一つしなくなった。
何かわからない単語でもあるのか、彼女の様子を観察していると、オリヴィアは顔を上げ俺を睨みつけた。
「さっきからじっと見て、何か用?」
「いや、読むのが早いなと思って。それなんの本を読んでるんですか?」
向こうから話を振ってくれたので、ここぞとばかりに質問をすると、彼女は本を閉じる表紙が見えないように置いた。
「魔道書だけど、退屈しているのならあなたも読む?」
そう言って一冊差し出してくる。分厚く装丁も豪華な、いかにも難しそう内容の本だ。
「遠慮しておきます」
「……そぅ」
本を戻し、再び読書に耽ろうとするオリヴィア。せっかくなのでもう少し話をしてみたかった。
「それより、姫様の方はもう大丈夫なんですか?」
俺に絶対安静を強いているようだが、数日前まで意識を失っていたのは彼女の方だ。なんらかの不調が出てもおかしくはない。
「平気よ、説明したでしょう? 迷宮に籠もる前に徹夜していたから疲れが出ただけだって」
右手で髪を払うと、オリヴィアは気丈な振る舞いで俺に説明をした。
「それより、私の方も気になっていることがあるのだけど、いいかしら?」
「なんですか?」
「あなたの能力が説明と少し違う気がするのだけど」
「俺に死の危険が迫ると身体の一部が痛みそれを教えてくれる。間違ってないと思いますけど?」
オリヴィアが何を言いたいのかが良くわからない。
「最初にムカデが現れたとき、狙われていたのはあなたではなくて私だった。命の危険があったのは私なのにあなたは反応したじゃない?」
それに関しては俺も考えたが説明がつく。
「あの場にいたのは俺と姫様だけです。もしあのまま姫様が死……、倒されていたらムカデは即座に俺に襲い掛かってきた。だから察知できたんじゃないかと?」
『死』という言葉が出そうになり途中で止める。口にするとオリヴィアが死んでいた状況を生々しく想像してしまいそうで気分が悪くなるからだ。
「ふーん、そういう説明になるのね」
俺が言っていることが正しいのか検証するため、オリヴィアはアゴに手を当てて考える。
「でも、それだけじゃ説明がつかない部分があるわよ。あなた、毒を受けた状態でムカデに向かって行ったわよね? あの時一撃も攻撃を受けなかった。あなたの実力から考えるとあり得ないし、後ろで動きを見ていて妙だと思ったわ」
しばらくして、彼女は俺の行動の奇妙な点を指摘してきた。
「あの時は、とにかく嫌な気配を感じるたびにそっちに剣を向けただけなんですよ。多分、攻撃を受けたら死ぬはずだったんじゃないでしょうか?」
実際、どこから攻撃が来るかわかっていた。だが、どれか一つとっても即死する威力の毒があったとしたら反応しても不思議ではないのではなかろうか?
「もしかして……成長している……いや、でも……」
俺のことを完全に無視してオリヴィアはなにやらぶつぶつと呟いている。
「あの、姫様?」
「なんでもないわ。私の勘違いかもしれないし」
彼女は首を横に振ると会話を打ち切った。
その後、本を手に取ると再び読書を始めてしまう。
結局、彼女が何も言わなかったので俺はそのあとも考え続け、気が付けばパメラが戻ってきていた。
試練から二週間が経過した。
俺たちは現在、城の中庭にある庭園へと整列させられている。
ここは茶会やパーティーにも使われるらしく、それなりに広い敷地となっている。
敷地を囲うように様々な花が咲いている。
専属の庭師が心を込めて育てているのか、この景色を見られるだけでも価値がある。
背中を突かれて後ろを見ると、パメラが咎めるような視線を俺に向けていた。目の前に集中しろと言っているようだ。
俺の前にはオリヴィアが立っている。ドレスの上からローブを被り、杖を持つ。
迷宮に潜った時と同じ格好だ。
その前には近衛騎士団長ガリオンが壇上に立ち俺たちを見ている。
そして庭園周りを騎士と兵士が、二階のバルコニーにはレイドル王に王妃、その他有力貴族たちが椅子に座り俺たちを見下ろしていた。
「それでは、発表が遅れてしまったが、第一の試練の結果を告げる」
すまし顔のオリヴィアに注目が集まる。
「第一の試練を制したのは、第三王女オリヴィア様。前へ」
周囲の視線が集まる中、オリヴィアはガリオンの前へと歩いて行く。その姿をローウェルとアマンダはじっと見ていた。
試練で先を越されて悔しいのだとは思うが、表情に出さないは流石だ。
一方、後ろに並んでいるクラスメイトたちは違う。
小林など露骨に表情を歪めているし、田中も眉間を寄せて睨んでいる。
彼女のあのような顔は学校の教室で見たことがない。よほど悔しいのだろう。
「今回の試練は迷宮に解き放たれた多数のモンスターをいかに攻略し、最深部を目指すという難易度の高いものだった。オリヴィア様は召喚者を引きいてこれを成し遂げた。これは誰もが簡単にできることではない。実際調査の際に近衛騎士団にも犠牲が出ているのだから」
ガリオンが試練を突破したオリヴィアを褒め称えている。
周囲の貴族もガリオンの言葉を聞き、オリヴィアに目を向けている。そこにはこれまでなかった好意的な視線が混ざり始めていた。
色々大変な試練だったが、それを制した甲斐があったというものだ。
「それでは、オリヴィア王女からも一言」
彼女は拡声魔道具を受け取ると、いつも通り気だるそうな顔をして言った。
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その場の視線が一斉に俺へと向いた。
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