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1番大切なものを失った私!盗まれたのか、それとも家族が隠したのか・・・謎は思わぬ結果をもたらす

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「では、ここには最初からいなかったんですね」
「ええ、いませんでした」
家の中に置いておいた大切なものが無くなっていたことに気づいた杏里は、すぐさま警察を呼んだ。
そして、家の中を調べてみると、室内には家族以外、入った形跡がないと言う結果が出たのだった。

「でも、本当に無くなってるんですよ。私の大事な宝物が!」そう告げる杏里を疑いの目で見る警察官。
「まさか、この私が嘘をついていると思うのですか?」
「嘘をついているとは言っていませんが、そのまさかもあるということですよ。なにせ、盗られたものが物だけにね」
「・・・」私は後ずさりして、今すぐにこの部屋から逃げ出したかった。
それだけ、盗られたものが何かを家族に知られるのが怖かったのだ。

「あなた、いったいなにを盗られたって言うのよ。こんな警察沙汰になるまでに騒いで」と母親が聞いてくる。
「そうよ、あなたにそんな大切な物なんてあるの?たいしてお金もないし、財産となるような物だってないでしょうに」
母親と姉も疑いの目で見るところが悔しい。
実の家族であっても信じてくれない現実に、杏里は涙が溢れ出てきてしまった。
「ああ、どうして、どうしてみんな私を信じてくれないの?盗られたものが高価なものではないから?」
悲しい現実に、涙が止まらない。

自分の部屋に駆け込み、机に突っ伏して泣いてしまった。
すると、父親の遺影から「大丈夫だよ、お父さんは信じてるから」と声が聞こえてきた。
「お、お父さん!私を見てくれているのね?声が聞こえるのね?」
「ああ、いつもお父さんは見ているよ。だから杏里、そんなに泣かないでおくれ」
目の前に立つ父親の姿に、杏里は飛び込んでしまった。
優しく娘を抱く父親の目からも涙が溢れ出る。
「私、お父様から貰ったヘソの緒を無くしてしまったの。きっと盗られてしまったんだわ」
「杏里、ヘソの緒はあるよ。そのベッドの下にね」
「え!?どうしてこんなところに?!」
「お前を試してみたのだよ」
「私を試した?」
「ああ、本当に気持ちの優しい娘なら人を疑わないだろう。だが、お前は人に盗まれたと通報し、家族を疑っただろう」
「それは・・・大事なお母様の形見なんだもの!」
「お父さんはどんなことがあっても家族と仲良くしてもらいたいんだ。お願いだ、もう家族を疑うことなく、仲良くしておくれ。杏里が仲良くしてくれないと、お父さんは天国に行けないんだよ」
「え、そうなの!?わかったわ、お父さん!私はこれからお母様とお姉様を大事にし、一緒に生きていきます」
「ありがとう」
そう言うと、父はスッと消えて行くのだった。

血は繋がらない親子だけれど杏里は母親を「お母様」と呼び、「お姉さん」と慕う愛らしい妹に生まれ変わった。
すると、本当の家族のように仲良し家族となり、幸せな人生を送ったのだった。
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