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怨念を晴らすため駅のホームに現れる女性の幽霊

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いつも使う駅。
使い慣れた駅は、どこかホッとする場所だ。
今日も会社が終わった俺は同僚と軽く酒を飲む。
そして、俺はチドリ足で駅へと向かった。
俺が駅に着く頃には、ホームにいる人もまばらだった。
ま、その方が静かでいいんだけどね。
ベンチで眠れるし。
足取りも軽く、俺はベンチに向かう。
「おっ、いつものベンチが空いてるね♪」
特等席に横たわる俺。
軽く、眠りにつく。
が、眠れない。
「おかしいな。5分もすれば眠れるってのに」
仕方がないから、線路の向こうに立つ看板でも見るか。
「えっと、メンズエステか・・・」
「こっちはホテル・・・しばらく旅行に行ってないな」
なんて見てたら、看板と看板の間に何かが揺れていた。
「ん?布か?タオルか?」
目に力を入れて、もう一度よく見てみた。
「えっ?!人?!女?」
よく見れば、白いシャツに、赤いスカートをはいている。
「寝ぼけてるのかな」
俺は仰向けになろうとした。
だが、よく考えるとおかしい。
いまいちど女性の姿を確認したくなった。
また女性の方を見ると・・・
赤いスカートかと思ったが、白いワンピースが赤く染まっていたのだ。
「酔ってるからだよな?!」
俺は目をこすった。
すると、より鮮明に、白いワンピースが血で染まっていくのが見える。
また目をこすると、足元まではっきり見えるようになった。
「ん?!んん?!ないぞっ!」
あるはずの足がない。
足がなかったら立てないだろ?
俺は1人でベンチに横たわりながらパニックに陥る。

もう一度、おそるおそる看板に目を向けると・・・
血を流した女はいなかった。
「だよな?見間違いだよな?」
酔っぱらってるせいだ。
そう思った俺は、酔い覚ましに自動販売機で水を買った。
ベンチに戻り、ペットボトルのキャップを開ける。
水を飲んでいると、視界に看板が入ってきた。
その看板から白い手が出てきて、頭が出てきた。
「いや、出るなよ。出るな!」
そう願ったが、バッと顔が出てきてしまう。
その顔はといえば、顔半分が酷く潰れていた。
「うっ、ううわっあああああ」
パニックになった俺は、ペットボトルを女に投げてしまった。
すると、目を吊り上げ、口をカッと開いた女が俺に向かって走ってきた。
「いや、悪かった!来るな!」
腰を抜かした俺は逃げられない。
しかし、女は線路の上に立つと、俺のジャケットを引っ張った。
そして、俺をグイグイと線路の方に引っ張り、落とそうとする。
「うわ、やめてくれ!やめてくれ!!」
抵抗する俺を、さらに強く引っ張る女はこう言った。
「おまえも道連れにしてやるううううううっ!!!」
その声と同時に、電車がホームに流れ込んできた。
「うわああああああっ!!!」
キキキキッツイーーーーーー!
電車は大きなブレーキ音を立てながら停止。
「危ないじゃないですかっ!」
電車から降りて来た運転手が駆け寄ってきた。
「死んでしまいますよ!」
俺を大声で怒鳴った。
「い、いや、そんなんじゃないんだ!女が俺を引っ張ってさ」
「女の人なんて・・・いませんでしたよ?」
「え?いや、線路から女が俺を引っ張ったんだ」
「その女性って、看板の方に立っていましたか?」
「ああ」
「まだ成仏してないんだ・・・」
「え?」
運転手が言うには、5年前に女性が駅のホームから飛び降りた。
両足は車輪で切断され、腹は捻じ曲がり、そこから大量の血が流れて亡くなったそうだ。

「失恋でもしたんですかね・・・」
「ええ、そうです」
「え?」
「僕があの日、電話で振ったから、みゆきは自殺したんだっ!」
そう運転手は叫ぶと、その場で泣き崩れた。
その夜、彼女は彼氏が運転する電車に飛び込んだ。
まるで、振られたことに復習するかのように。
俺は、泣き崩れる運転手の肩を優しく抱きしめた。
「あなたは悪くはないですよ」
「わああああっ」
思い切り泣いた運転手は、「死んだ彼女の墓参りに行きます」
そう言うと、運転席へ戻っていく。
「成仏してくれよ」と、俺は呟きながらホームを後にした。


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