澄み透る渡りの世で

秋赤音

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3.霞む想いと生まれた感情

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「王子様に選ばれると家族みんなが幸せになれる」と両親は言っていた。
お姉様は選ばれるためにたくさんの努力をしていた。
だから、選ばれたときは嬉しかった。
家族の役に立てると思っていた。


聖女を始めて、どれくらい時間が過ぎたのか。
わからない。
日ごとに増える負担で疲れた頭は考えることをやめた。
今がいつであっても、体に流れ込む全てを受け入れるしかないのだから。
長椅子に背を預け、気晴らしに激しく抱かれてまだ疼く私の体を優しく抱きしめてくれるのは、世話人のルカ様。
ルカ様は「円を描いたのは自分だから、服や椅子が壊れても直せます」と言っていた。
初めに座っていた椅子が壊れて、次の椅子もしばらくすると壊れた。
三代目の椅子は二人で体をよこに並べてもゆとりがあるお品だ。
もはや長椅子というより、可愛い簡易ベッドだろう。
腕の中からルカ様を見て聞けば「二年が過ぎました」と教えてくれた。
抱かれることを願うのは、熱を晴らすと少しだけ体が楽になるから。
そして、綺麗な白金の髪に触れることを、憎しみで穢れた身に許してくれたから。
氷のような薄い青の瞳が私を優しい温度で見るときだけ、生きていることに希望を見いだせた。

「ルカ」

互いに名を交わした時を思い出した。
「従者には、様をつけなくていい」と言われたことが懐かしい。
なにより、出会った頃には考えつかなかった幸せな状況を噛みしめる。
今では恋人のように愛情を注いでくれるルカ様は、整えたばかりのドレスに手をかけ乱す。
はだけた胸をそっと包まれ、指先で尖る先が弄ばれる。
与えられる快楽が馴染む体は反応し、さらに硬くして誘う。
体内を渦巻き持て余す感情と熱だけが支配する体に、抗う理性は消えている。

「ミスティ様…もう少し、だけ」

「ひぁんっ、あっ、んぅ…っ、ルカ、いれ、て…っ!」

願えば座ったルカ様の膝に乗せられ、秘部の入り口にあてられる逞しい男の証。
妃だからと叶わない未知の快楽が叶うとしたら、聖女でなくなる時だけだろう。
割れ目を往復する感触に合わせて腰を振れば、お腹の奥からとろりと熱い何かがこぼれてくる。

「いれ、たい…奥まで犯して、すべてを知りたい…ですが、…っ」

ふと、知らない景色が頭をよぎった。
お腹に押しつけられる内側を知らないのに、伝わってくる。
愛しい人に嘘でも貫かれる幸せが、反らないのにわかる。
体は新たな熱を持ち、さらに下肢を押しつけて腰を振る。

「あぁあ…っ!…んっ、犯して、ルカに、犯されたぃいっ…あんぁああっ!」

気づけばドレスは椅子においてあり、晒されている体にはルカの精がたくさんかかっていた。
初めてだったが、心地よい温度に思わず笑みがこぼれた。

「笑った…?」

「え?」

言われて気付いた。
自然と上がった口角は久しぶりのような気もする。

「ミスティ様…いつか」

「いつか?」

途切れた言葉を返すと、覆いかぶさるルカ様に包まれ、凛々しい肩に頭を寄せる。


いつの間にか眠ってしまったらしい。
新しいドレスを着ていた私は、一人で寝ていた。
ルカ様がいたはずの場所は冷たい。
上半身を起こしてどこにいるか目で探していると、視界に捕らえた。

「ミスティ様。食事の用意ができました」

天から注がれる光が美しいルカ様を引き立てていた。
この人がほしい。
私だけを愛してほしい。
仕事だからいてくれると分かっているから、悲しくて。
届かないと分かっているから、辛くて。
それでもルカ様からの愛がほしくて、難がない見知らない女を羨み妬んだ。

「ルカ」

「ミスティ様…大丈夫です。ずっと、傍にいます」

机に置かれた食事は、きっと冷めてしまうだろう。
私を抱きしめて唇を重ねたルカ様は、私からドレスを奪ったから。


聖女になって三年が過ぎた。
ある日、珍しく夫様がくるらしい。
出会った頃に戻った教会で、到着を待った。
私を拘束する右足首にある棘の鎖も、ルカ様の力だと知れば愛しい存在だ。
あの日のように、聖堂の中心に描かれた円の中央で椅子に座りながら体に流れてくる黒い感情を受け入れる。
鎖が切れないように監視をしているようなルカ様は、声を出すことなく場にいるだけ。

音と共に現れた夫は、円の外側から私をを見下ろしている。
煩わしさを隠すことなく顔に出しているのは相変わらずらしい。

「ミスティ、婚約は破棄だ」

「どうして、ですか」

辛い役目が終わる嬉しさと、嬉しさを上回る家族にかかるかもしれない迷惑が思考をかすめた。
破棄されるなら初めから結ばなければいいのに。
でも、今は怒りと悲しみは抑えなければ。
なにか、理由があるはずだ。

「私の最愛が飾りの妃を嫌っていてな。
これからは最愛が本物の妃となるから、ミスティは役割を続ける必要もない。
聖女は祈るだけで魔祓いできるというが、どうせ嘘だろうからな。
明日からは、ただの平民に戻ってもらう。
国王も承認した。
ルカはミスティの監視を続けるように」

「はい。ブラン様」

夫様が魔術で鎖を解き、描かれた円が消える。
書いたのはルカ様だが、権限は王子様にあるのは本当らしい。
用事が終わると、私の返事を待つことなく場を去る元夫様。
扉が閉まると、突然に与えられた解放で抱えていた黒い感情の暴走が始まる。

「私は、自由…」

私は、円が消えた床を見た。
ふと、ルカ様を見る。
私を静かに見つめていたと気づいた。
瞳にわずかな熱を宿して。
何を、誰を思っているのだろうか。
私には永遠に、私だけを愛してくれる唯一か現れないのだろうか。
内から燃え上がるような嫉妬が抑えていた怒りと混ざる。
ルカ様は、私の考えていることを見通したような目で微笑む。

「ミスティ様。ここを私たちの家にしますか」

「なにを、言って「見せた方が早いですね」

突然、目の前の景色が変わった。
廃れた教会の扉と祈るために置いてあった椅子が消えた。
代わりに、人が暮らしているような机と椅子が二つ、上品な敷物の上に置かれて現れた。

「扉がないと外に出られません」

「外に出る必要が無くなったなら、いりません。
窓は綺麗なので残しますが、割れないようにしました」

私を正面から優しく抱きしめたルカ様は、強い力で閉じ込めるように背を包む。
行動の一つ一つに理由が分からない。

「どうして」

「そうして…そういえば、言っていませんでしたね。
万が一に婚姻が破棄された場合は、私が元妃の新しい伴侶になります。
妃がミスティ様に決まったとき、王子に命令されました」

初めて聞いた。
公にするには難しそうなことだとは思うが、なぜ命令なのに嬉しそうなのか。

「なんで、どうして?と言いたそうな顔ですね。
命令でしたが不快でないのは花嫁がミスティ様だから、です。
一目惚れ、ですね。
決める場に王子の護衛をしていました。
聖女にすると決めていたため魔力が一番多いミスティ様が妃に選ばれてしまったので、護衛を申し出ました。
組んだ術の管理は造った本人が一番適任ですから。
それに、表から私を消したかったらしく、快諾されました」

言葉が出なかった。
初めから仕組まれていた、らしい。
求められていたことが嬉しくて、体の奥が熱くなる。
同時に、少しだけ冷たくなった思考が今の状況を怖がった。
手を伸ばせば、きっと闇より深い腕に捕らわれてしまう。
私がほしかったのは自由と、ふいにルカ様の感情が流れてきた。
優しく、重く、濁った欲望が思い出した私の願いを消していく。
怖い、嬉しい、逃げたい、触れたい、満たされたい、壊されたい

「ああ…ベッドも必要ですね。
こちらへ、どうぞ」

抱えあげられて、数歩歩けばゆっくりと降ろされた。
いつの間に造ったのだろう。
見上げれば、優美に笑むルカ様がいる。

「二人だけで挙式もいいですね。
幸い、ここは教会です。
互いに愛を誓って、永遠の時をここで過ごす…素敵だと思いませんか」

ドレスを脱がせながら優しい声が明るい未来を語る。
新しい夫の熱い手に身を委ね、肌を重ね、散った純血の代償は深く激しい快楽だった。

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