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町の日常
21.憩いの行方と傍観記録~学び舎2
しおりを挟む無機質な音を合図に、会場は賑わった。
使う道具はすべて学校区の中にあるものだけ。
かっぽう着は、衣料店で小さな染みなどで難ありと倉にあったもの。
生徒が各自で持ち帰って洗い、思い思いに手を加えて自分だけの衣装に仕立てている。
目立つためにと染物屋を頼った組は、店名も背負い立っているようだ。
お客様が座る机に飾られている一輪花は、花屋にあった廃品だったもの。
活けてある陶器の傍には、店名が書いてある紙が置いてある。
八百屋や農家から買った食材を、家から持ち寄ったものや金物屋で買った道具で料理する。
「仞様。潮様。ご協力ありがとうございます。
おかげで、農家様とも協力を得られました。
子供たちに、地元にある美味しいを知ってもらえる機会ができました」
教師の一人は、業者へ挨拶に回っていた。
「こちらこそ、お声かけありがとうご「秋人。そろそろ交代の時間だ。いってくるー」
「潮、待って。泰河と白澄さん、何か始めたようだね」
二人の男性が見せる技に男女を問わず盛り上がる大人たち。
最前列には休憩中の生徒もいた。
彼らが手に持っている綺麗な皿は、陶芸家が作品として納得できなくて捨てるはずだったもの。
「これを捨てるなんて」と嘆いた陶器好きの校長が、会場の一角に売り場も作った。
本人の参加ではなく陶器屋が売る条件で成立した場所にも、賑わいがある。
溢れる笑みで来店者を見ているのは、休憩に入ったばかりの業者たち。
女性三人は、離れたばかりの売り場を見て笑みを交わす。
「湊さん。手伝い、ありがとうございます。
思ったより忙しくて…楽しいですね」
「こちらこそ、呼んでいただきありがとうございます。
楽しいですね」
「咲弥。もう着替えていい?」
しっかりした骨格の女性は、低く唸る声で同じ顔の女性を睨んでいる。
視線を気にしない女性は、その声に笑みを向けた。
「そうよね…残念だけど、着替えましょうか。
煌くんと輝ちゃんも呼び戻して…雪哉、今度は私が男装をするから」
「お二人が同じ格好だと、見分けが…本当に双子なんですね」
女性が返事をする前に、男装と女装の麗人が駆け寄ってきた。
「咲弥さん。来春兄さんがそろそろ休憩なので、一緒に歩きたいです」
「雪哉、先に行っていて」
指示された女装の麗人の男性は、男装と女装の麗人と共に歩き始めた。
その背を見守る女性は、ますます笑みを深くする。
「化粧品やと腕の良い美容部員のおかげで、楽しく目立つ宣伝ができますね」
「そう、ですね」
そのころ。
生徒指導の場から離れ、休憩に入った瞬間、主婦に囲まれた黒縁眼鏡をかけた男性がいた。
彼は、笑顔で紙を持ち、ペンと口を動かしていた。
「剛さん。ご飯、また作りにきてくれます?
日にちは…」
「予定を確認して、後日また連絡しま「すぐ、わかりませんの?」
怒涛の声に困惑する男性。
しかし、近づく男性の影が声をとめた。
「剛。持ち場に戻ってください。
奥様方には申し訳ないのですが、彼を借りてもいいですか?」
「はい。お仕事中に失礼しました」
初めから静かだったかのような場に、男性たちは苦笑いした。
「光さん。ありがとうございます」
「いえ。昴も仕事のことで剛さんに話があるそうです。
近くで待っています。いきましょうか」
「はい」
合流した男性たちは、会場の賑わいをみて笑みを浮かべた。
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