操り人形は幸せを見つける

秋赤音

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【第一章】祈り

77.望むもの

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体を強く意識しても、無理だった。
どうして戻れないのだろう。
思いつく限りを試してみるが、失敗。

「レオン様、レイア様。王妃様から言付かりました。
”明日の支援物資は、南と東の半分だけでいいから、
今日はゆっくりとお食事を食べましょう”…です。
食事の支度ができましたので、行きましょう」
「「はい」」

食事へ向かう二人を見送り、再び試行錯誤。
しかし、成果はない。
あっという間に、橙の空から降り注ぐ光は、青白くなる。
窓を振り向くと、わずかだが、久しぶりの紫紺が見えた。

「光が元に戻り始めている?」

空を見上げていると、扉が軽く三度叩かれ、
二人が入ってきた。

「一壬、そろそろ寝る時間だから。また明日」
「…」
「レオン?」
「…気のせいかも、なんだが。近くにいる気がする」
「・・・・・はい?」

どうして分かられているのか、理由も分からないし、焦った。
レイアは、呆れたように返事をしている。
私でも同じことをしたと思う。

「何を、根拠に?」
「ペンダントの魔力が、いつもと違った感じがする」
「…それは、二人だけの品だから、何かあるのかもしれない。
お母様に聞いてみる。レオンは、そこにいて」

扉をあけたまま急いで駆けるレイアと、
レイアを見向きもせず私の顔を見るレオン。

「一壬、そろそろ起きろよ。
国の状況も良くなってきて、民たちも落ち着いた。
そろそろ勉強だけに専念できるから、また三人で、一緒に…」

私の体の手を握って、静かに話しかけている。

「三人で、一緒に」

私の体をはさんだ向こうに、何かに耐えるレオンがいた。
幽霊になっている私まで、強く握られた手が温かい。
レオンに近づこうとすると、
扉からレイアが息を切らしながら入ってきた。

「れお…っ。はっ…あー…良い、知らせ」
「レイア、大丈夫か」
「……はあ。大丈夫。
レオンの直感は合っているかもしれない、って」
「なら」

期待と不安が混じった顔のレオンと、
安堵したような顔で笑ったレイア。

「そう。意識が戻る可能性があるってこと。
でも、今日は遅いから寝なさい…って」
「わかった」
「「一壬。また明日」」

そう言って、二人は扉を閉めて、部屋を出た。
また明日。
それは、いつも交わしていた決まりの挨拶。
楽しかった日々を思い出す。

ふと、幽霊なはずの体が重く、眠くなってきた。
意識がゆっくりと沈む。
ふと、肌寒さを感じた。
手元にあった布を肩によせて、意識は途切れた。

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