従僕と柔撲

秋赤音

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曇天と棘

10.終開

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鏡の前。
絶妙な手加減に、彼も愛人の子供という共通点を思い出した。
暴力と生きてきた自分の時間を改変して閉じられた一冊に、彼の願いが記されているのだろうか。

「羅輝亜。なにを考えている?」

「凪都のこと、考えてた」

「なら、いい」

離れることを惜しむように抱きしめられ、ゆっくりと体の内で燻る熱をぬかれた。

事が終わり、今度こそ制服を着た。
溶けかけのシュークリームを苦く笑い合いながら、隣で一緒に食べた。

「羅輝亜」

名前を呼ばれ向くと、唇に何かが触れた。
それがキスだと気づいたときには離れていた。

「凪都?」

「卒業、おめでとう」

微笑む彼は、私の髪をそっと撫でる。

「ありがとうございます」

きっと私は笑っている。
抱き寄せられた胸に頬を寄せ、伸ばした腕で大きく温かな背に触れた。


翌日。
彼のベッドから出られたのは、世間が昼食を食べている頃だった。
カーテンで灯りが遮られて分かりにくかったが、眠り始めたのは時計が朝を示した時刻。
目が覚めて、何も着ていない体を背中から抱き包む腕から抜けようとした。
しかし、背中に当たるものと反転した視界で諦めた。

「おはよう。羅輝亜」

「おはようございます。凪都」

恋人役の契約更新で変わることが決まったいくつかの事柄。
内一つが、卒業したからと始まった名前呼びだった。
そして、性欲処理の全てを互いで行うことも確実に実行されている。
今にも繋がりそうな彼の剛直と下肢の淫部。
彼が陰核を弄び、ナカに指をいれれば聞こえてくる水音。
身体の全てが性感帯に変わり、だらしなく男の精を求めるだけの体になる。

「これ、も性欲処置です、か?…ぁっ、あ…っ」

軽い絶頂を迎えようとした瞬間、指が離れていった。
そして、彼に抱きしめられる。

「朝はこうなりやすいが、基本的に性欲ではないです。
ですが、女性はこうすると悦ぶし、僕は処理が楽だから。
羅輝亜とすると、ただの性欲処理も、なぜか気持ちよくて。
こんなの初めてで、我慢できない。
僕、頑張って動くから、羅輝亜と気持ち良くなっていいですか?」

私の胸に顔をうずめた彼が、頬ずりしながら言った。
髪を撫でると、嬉しそうに笑っている。
ぼんやりとまだ覚醒しきっていない彼の目と、いつもより幼く感じる甘え方だった。
不覚にもドキドキしてしまい、新たな一面を味わうことに決めた。

「はい。一緒に、気持ちよくなりたいです」

すると、ゆっくり離れた彼がどこからか避妊具を出していた。

「たくさん気持ちよくするからね。
僕、ずっと羅輝亜を独占したいから、ちゃんと避妊します。
羅輝亜は僕だけ知っていれば、いい」

楽しそうな声と共に、ナカを一気に埋めた質量。
一度貫いた後は何度も出入りがされて覚えた感覚が、さらに先を求める。
覚えられた気持ちいいところばかりを突かれ、急速に絶頂へと昇っていった。
彼と共に欲を吐き出し、そのまま眠った。

目が覚めるとすでに彼は起きていて、ベットの縁に座っていた。
隣に座った私に、嫌なら二度としないよう心がけると、淡々と言った。
過去の女性は目覚めると半勃ちした男性器を求める人で習慣になっていた、と。
性行為はしていたが一方的に快楽を押しつけられただけだった、と。
もし同じことをしているなら、必要でない限りしないから言ってほしい、と。
「わかりました。不快ではなかったので安心してください」と言葉を返した。
すると、抱きしめられて、そのまま押し倒された。
「よかった。もう一回、していい?」と耳元で囁かれて、迷わずうなずいた。
もしナカに射精されていれば、それだけで満腹になりそうだった。

互いに身を清めて、互いを束縛しない、約いつもの時間を過ごす。
遅い昼食を作ろうとしたが「男のロマン、らしい」と言われエプロンをしたまま交わった。
変化が現れ始めたのは、台所が果たす役割も含まれるかもしれない。
昼食を軽い間食に変えた後、借りていた本を読み切った。
夕食の仕上げをし終えると、足音が聞こえてすぐ、背中が重くなり腰に巻き付く腕。
何も起こらないことを願った。

「羅輝亜」

「凪都。料理できましたけど、食べますか?」

「羅輝亜としてから、食べる」

「え?…ぁっ、ここ台所です…ぅあっ、指、が、ぁ…っ」

「期待してた?もう、濡れてる」

するりとナカをかき回す彼。
淫行を思い出したのは一瞬だったが、意識して平常を願ったのは確かで。
陰核を強く押しつぶされ、絶頂した。
布越しに胸をもまれ、もどかしくなるような優しい刺激で疼きだす。
ここでするのが習慣になると、場に立つたび思い出しそうで良くない気がした。
まだ二度目だから、まだ間に合う。

「あぁっ!んぅ…っ、は、ぁ…っ、あっ、…っ」

「どこを、どんな風に?」

優しい声の囁きが、理性を消した。
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