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【第一章】異国の地へ

2.険しい山と街の人

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転移した先は、自然豊かな場所だった。
幸いにも人の気配はない。
木々ばかりの視界は、昔の訓練所を思い出した。
まずは人の目線より高い場所へ行こうと、簡易な弓と矢を作って持ち、
静かに木の上へ上がる。

「かんぱーい!」
「今日も良い狩りでしたね!」
「酒が美味い!」

少し距離がある先に小さな水辺がある。
そこから少し距離をおいた場所で、三人の狩人らしき三人が、楽しそうに食事をしていた。
異国の言葉だが、問題ない。日々の訓練の成果がでたらしい。

「酒はあるかー?」
「あーりまーすよー!」
「水、もってきますね」

荷物の食料を食べながら、しばらく様子を見ていると、変化が現れる。
かなり酔ってきた二人のために、一人が新しい水を汲みに行こうとしていた。
まずは街へでなければいけないので、接触を試みることにした。
近くにいたウサギを音もなく狩る。
土魔法で衣服を彼らに似せたものを作って着替えると、
空になった袋を手早く燃やして消火し、水辺の方へ向かった。

「何者だ?」
「あ…その、水、を」

わざと少し足音がするように歩き、相手に気づかせた。
そして、”慎重に動いたけど見つかった少女”のようにふるまう。

「水?ああ、ごめんね。何もしないから、どうぞ」

その人は構えていた武器を地面に置き、場を譲る動きを見せた。

「ありがとう、ございます」
「君、どこからきたの?」
「ここにいる」
「まあ、禁止区域ではないけど。まさか住人がいるとは思わなかった」
「お兄さんは、どこから来たのですか?」
「街から依頼を受けてきた。今夜はここで寝泊まりさせてもらっているよ」
「街?」
「…ああ、街を知らないのか。よければ話をし…」

見た目は優しそうなお兄さんが、よく変わる表情で話しかけている途中。
突然ひどい立ち眩みがきたと思ったら、力がぬけた。
私の記憶は、ここで終わった。
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