幸せという呪縛

秋赤音

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一夜の夢

それは、恋のように

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あらすじ
その出会いは、偶然だった。
しかし、一目みた瞬間に引き込まれる。
私は、内に沸き上がる感情のまま、
その方へ歩み進む。

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まだ肌寒さが残る暖かな日差しの中、
今は明確な目的もなく歩く街。
休日ということもあり賑やかな風景が、
目や耳を刺激する。
大切な重みを片手に、
あとは、家に帰るだけ。
しかし、ふと、足を止めた。
気づいたら、止まっていた。

「綺麗」

思わずつぶやく。
華美ではなく、よく見るような。
ひっそりと隠れた上品さを感じた。
爪をたてないように、
そっと表面に触れる。
滑らかな肌触りが心地よい。
いいかも、しれない。
最後に、これでいいのか、
確認をする。
そして、手にとった。

「いらっしゃいませ」

手早く会計を済ませる。
たった一つだが、
長く付き合えそうな気がするものと出会えた。

想定外はあったが、無事に家に着く。
食べて寝るだけの状態にして、
楽しみにしていた物を、包みから出す。
今日は、このために、出掛けたのだ。

「いただきます」

小さく繊細な細工がされてある菓子を、
指先でつまむ。
食べるのが惜しいくらい綺麗なそれを、
口に含む。
ゆっくりと舌の上で溶けていく様を、余韻ごと味わう。

「おいしい」

出会いは、贈り物だった。
もう一度味わいたくなるような美味しさに、思わず心が動いた。
そして、歩けばある距離にお店があると知る。
どうしても食べたいので、
貴重な休日の時間を使って買い物へ出掛けた。

偶然に見つけた洋服は予想外だが、
良い出会いだった。
ちょうど買い換えようと思っていた、最高のタイミング。
生地にこだわってある品は、
いつでも合わせやすく、
長く使えそうで。

その出会いと執着は、
瞬く小さな恋のようだった。
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