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優しい雫
1.雨に濡れる
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雨が降っている。
約束の前日まで、
諦めきれずに直前まで予報をみたが変わらない。
せっかくの外出なら晴天が良かったが、しかたない。
雨用に決めていた服を着て家を出た。
明日の天気に仕事を思い出すが、脳裏へと追いやった。
「おまたせー」
「今きたところー」
馴染みのやりとりに気持ちが晴れる。
茶化すように恋人の真似をする花音は、
おしゃれなレインブーツを履きこなしている。
「靴、可愛いね」
「今日のために新調したのよ」
「このあと、楽さんと会うから?」
「まあね!」
誇らしそうに、少し照れたようにはにかむ花音。
「とりあえず、お腹すいた」
「同じく」
二人で顔を合わせると、二ッと笑う。
「「パスタ」」
「奇遇ね」
「奇遇よね」
上機嫌に笑みを浮かべた花音は、行先を視線で促す。
それにうなずくと、
パスタを食べるなら…と決めている店を向けて歩き始めた。
空腹を満たせば買い物だ。
様々な服を見比べては移動した。
行く先ごとで"本日限定で半額"の札が目立つ。
お買い得の傍ら、次の季節を知らせる装いが
客をもてなしている。
「私これにしよー」
「へー、可愛いね」
「似合うー?」
同調を求めるような視線にうなずいた。
「「似合う(と思います)」」
言葉に出すと、背後で声が重なる。
「楽!」
「ごめんなさい。姿が見えたので…つい」
「いえ。むしろ、ちょうどよかったかもですね」
律儀に頭を下げる花音の恋人は、
さりげない視線の会話で花音の腕から戦利品の袋を預かっている。
「はい。おかげで、可愛い花音が見られました」
花音は、ニコニコと嬉しそうにしている恋人に柔らかな笑みを返す。
見つめ合う二人は、二人だけの世界へ作り始めた。
時間を確認すると、予定より少し早いが頃合いだ。
「では、私はそろそろ」
「あ…そうだね。また遊ぼう」
楽しそうに笑みを浮かべる花音に手を振り、背を向けて店外へ歩く。
試着室へ向かう二つの足音は、あっという間に遠ざかる。
相変わらず賑やかな街を歩きながら、今日の夕飯を考える。
まばらに植えられている紫陽花は生き生きと咲き、
少しだけ蒸し暑い空気を和らげている。
小腹がすいたので、行きつけの喫茶店へ向かう。
禁煙席に座り注文を済ませて待っていると、
通路を歩く男性と目が合った。
馴染みの顔に笑みを返すと、
一見ゆったりとした大きな足取りで傍に来る。
「立花。相席いいか?」
「どうぞ」
律が目の前に座ると、
ちょうど注文の品を持ってきた店員さんがくる。
「お待たせいたしました。
ブレンド珈琲とパンケーキです」
「ありがとうございます」
静かに置かれた器に、細やかな気遣いに感謝する。
小さいことへの気配りがこの店の良いところでもあるが、
当たり前ではない。
「注文いいですか?」
「はい」
注文を復唱した店員さんが去ると、律は本を読み始めた。
真新しいお店の袋から出てきたので、
おそらくは本屋に行ったばかりなのだろう。
律が選ぶものは好みが似ているので気になる。
「新しい本?」
「ああ。この間に貸した本の続きだ。
予約していたからな」
「そうなのね」
言葉は交わさず時間は過ぎる。
律と過ごすこの静けさは心地よい。
注文が揃い、あまり時間はかからず互いの器は空になる。
「夕飯。食えるのか?」
私をじっと見て、心配そうにしている律。
「おやつは別腹って言うよね」
「そうだったな。帰るか?」
わざと少し拗ねたように言うと、
柔らかな笑みを返された。
「うん」
会計を済ませて出ようとするが、
外で傘をさし待っている律に群がる二人の女性がいた。
出ないわけにはいかないので店を出ると、
案の定嫌そうな視線に絡まれる。
「行こう」
女性のことは気にしていないのか、
私の手をとり歩き出す。
「何を話していたの?」
「何が?」
視線は進行方向に向いたまま、詳細を問われる。
本当に気にしていないらしい。
「さっき」
「道を聞かれた。その後、お茶しないかと。
断ったが、しつこい。
出てきてくれて助かった」
ため息をついた律は、繋いでいる手を強く握る。
「もっと早く出ればよかったね。ごめんね」
「気にするな。
妬いている立花が見られたから、いい」
「妬いてなんか」
律の表情は憂いから上機嫌に忙しなく変わる。
ふいに唇を掠めた感触に言葉はとまる。
傘が揺れて落ちる雫が袖を濡らした。
「気にしてるだけで、俺は十分嬉しい」
その声は感情を隠さずのせていて、
執着や無邪気さに艶の混じる音が耳に残って響く。
今日は作らなくていいと言う律。
言葉に甘えてそれなりに買い物をして家に帰ると、
歩いている間に雫がおちた傘を置く。
買い物した荷物は律が持っていったので、
玄関の鍵をしめる。
戻ってくる足音に振り向くと、
靴を脱いだ瞬間に奪われた唇。
触れるだけでそっと離れると安堵するが、
律の指先が耳元から首筋を撫でる感触に驚く。
「服、濡れてる」
耳元で囁かれた言葉に、返事はできなかった。
再び塞がれた唇は優しく触れてくる。
諦めて身をまかせると舌が口内へ侵入してきた。
酸素を求めて息継ぎしようとする私を、目を細めてみている。
やっと離されたと思うと、体が宙へ浮いた。
「一緒に風呂で飯を食う…か?」
「ご飯は、無理だと思うけどね」
「まあ、そうだな」
楽しそうに笑う律の首に腕を回すと、
その足は迷わず浴室へと向かっていた。
約束の前日まで、
諦めきれずに直前まで予報をみたが変わらない。
せっかくの外出なら晴天が良かったが、しかたない。
雨用に決めていた服を着て家を出た。
明日の天気に仕事を思い出すが、脳裏へと追いやった。
「おまたせー」
「今きたところー」
馴染みのやりとりに気持ちが晴れる。
茶化すように恋人の真似をする花音は、
おしゃれなレインブーツを履きこなしている。
「靴、可愛いね」
「今日のために新調したのよ」
「このあと、楽さんと会うから?」
「まあね!」
誇らしそうに、少し照れたようにはにかむ花音。
「とりあえず、お腹すいた」
「同じく」
二人で顔を合わせると、二ッと笑う。
「「パスタ」」
「奇遇ね」
「奇遇よね」
上機嫌に笑みを浮かべた花音は、行先を視線で促す。
それにうなずくと、
パスタを食べるなら…と決めている店を向けて歩き始めた。
空腹を満たせば買い物だ。
様々な服を見比べては移動した。
行く先ごとで"本日限定で半額"の札が目立つ。
お買い得の傍ら、次の季節を知らせる装いが
客をもてなしている。
「私これにしよー」
「へー、可愛いね」
「似合うー?」
同調を求めるような視線にうなずいた。
「「似合う(と思います)」」
言葉に出すと、背後で声が重なる。
「楽!」
「ごめんなさい。姿が見えたので…つい」
「いえ。むしろ、ちょうどよかったかもですね」
律儀に頭を下げる花音の恋人は、
さりげない視線の会話で花音の腕から戦利品の袋を預かっている。
「はい。おかげで、可愛い花音が見られました」
花音は、ニコニコと嬉しそうにしている恋人に柔らかな笑みを返す。
見つめ合う二人は、二人だけの世界へ作り始めた。
時間を確認すると、予定より少し早いが頃合いだ。
「では、私はそろそろ」
「あ…そうだね。また遊ぼう」
楽しそうに笑みを浮かべる花音に手を振り、背を向けて店外へ歩く。
試着室へ向かう二つの足音は、あっという間に遠ざかる。
相変わらず賑やかな街を歩きながら、今日の夕飯を考える。
まばらに植えられている紫陽花は生き生きと咲き、
少しだけ蒸し暑い空気を和らげている。
小腹がすいたので、行きつけの喫茶店へ向かう。
禁煙席に座り注文を済ませて待っていると、
通路を歩く男性と目が合った。
馴染みの顔に笑みを返すと、
一見ゆったりとした大きな足取りで傍に来る。
「立花。相席いいか?」
「どうぞ」
律が目の前に座ると、
ちょうど注文の品を持ってきた店員さんがくる。
「お待たせいたしました。
ブレンド珈琲とパンケーキです」
「ありがとうございます」
静かに置かれた器に、細やかな気遣いに感謝する。
小さいことへの気配りがこの店の良いところでもあるが、
当たり前ではない。
「注文いいですか?」
「はい」
注文を復唱した店員さんが去ると、律は本を読み始めた。
真新しいお店の袋から出てきたので、
おそらくは本屋に行ったばかりなのだろう。
律が選ぶものは好みが似ているので気になる。
「新しい本?」
「ああ。この間に貸した本の続きだ。
予約していたからな」
「そうなのね」
言葉は交わさず時間は過ぎる。
律と過ごすこの静けさは心地よい。
注文が揃い、あまり時間はかからず互いの器は空になる。
「夕飯。食えるのか?」
私をじっと見て、心配そうにしている律。
「おやつは別腹って言うよね」
「そうだったな。帰るか?」
わざと少し拗ねたように言うと、
柔らかな笑みを返された。
「うん」
会計を済ませて出ようとするが、
外で傘をさし待っている律に群がる二人の女性がいた。
出ないわけにはいかないので店を出ると、
案の定嫌そうな視線に絡まれる。
「行こう」
女性のことは気にしていないのか、
私の手をとり歩き出す。
「何を話していたの?」
「何が?」
視線は進行方向に向いたまま、詳細を問われる。
本当に気にしていないらしい。
「さっき」
「道を聞かれた。その後、お茶しないかと。
断ったが、しつこい。
出てきてくれて助かった」
ため息をついた律は、繋いでいる手を強く握る。
「もっと早く出ればよかったね。ごめんね」
「気にするな。
妬いている立花が見られたから、いい」
「妬いてなんか」
律の表情は憂いから上機嫌に忙しなく変わる。
ふいに唇を掠めた感触に言葉はとまる。
傘が揺れて落ちる雫が袖を濡らした。
「気にしてるだけで、俺は十分嬉しい」
その声は感情を隠さずのせていて、
執着や無邪気さに艶の混じる音が耳に残って響く。
今日は作らなくていいと言う律。
言葉に甘えてそれなりに買い物をして家に帰ると、
歩いている間に雫がおちた傘を置く。
買い物した荷物は律が持っていったので、
玄関の鍵をしめる。
戻ってくる足音に振り向くと、
靴を脱いだ瞬間に奪われた唇。
触れるだけでそっと離れると安堵するが、
律の指先が耳元から首筋を撫でる感触に驚く。
「服、濡れてる」
耳元で囁かれた言葉に、返事はできなかった。
再び塞がれた唇は優しく触れてくる。
諦めて身をまかせると舌が口内へ侵入してきた。
酸素を求めて息継ぎしようとする私を、目を細めてみている。
やっと離されたと思うと、体が宙へ浮いた。
「一緒に風呂で飯を食う…か?」
「ご飯は、無理だと思うけどね」
「まあ、そうだな」
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