影に鳴く

秋赤音

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幸せな暮らし

1.再会

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あの頃は幸せだった。
食べ物は少なく街のような面白さはないところだったけれど、
心を通わせた友人がいた。

「はい。ノルーダの分」

「少し多いです。ラフィーネも食べないと」

「私はいいです。
育ち盛りなんだから、しっかり食べてください」

ノルーダは渋々受け取ると、味わうように食べきった。

孤児院にきたばかりで馴染めず、一人だった。
成人して孤児院へ送られるのは珍しいらしい。
そんな私に声をかけてくれたのがノルーダ。
おかげで少しずつ周囲とも馴染めるようになり、
家族のように過ごしている。

「明日は、ラフィーネが多めに食べること」

「はい」

「そうです…最近覚えた魔法がありました。
感覚を共有できる方法だそうで、
これならどっちが多く食べても満たされます」

私を叱るように言うノルーダは、
楽しそうに魔法について話す。
空腹感も満腹感も共有することにはなるが、
とても良いと思った。

「それはいいですね。
練習したいなら、私でどうぞ」

ノルーダは失敗することなく左手の甲に印を刻んだ。
魔力が通うと、ノルーダの感覚が伝わってくる。

「明日は、ラフィーネが多めに食べてください。
感覚共有が確かなものか分かりますから」

「わかりました」

私が返事をすると、柔らかな笑みを返される。
目が合えば高鳴る胸が伝わらないように祈った。

「ラフィーネ。
僕、もう一つ試したいことがあります」

「なんですか?」

なぜか目を伏せたノルーダは、深呼吸をする。
次に目が合うと、焼けそうだと思うほどの熱がそこにある。

「ラフィーネを抱きたいです。
そろそろ、我慢が辛いので話しますが。
初めて会った時から、好きです」

「ノールダ。私も、ノルーダが好きです。
抱いてください」

殺風景な部屋で、固いベッド。
昔に大人から聞いた話とは真反対だけれど、
私が痛まないようにと心配りをするノルーダは、
ゆっくりと奥まで貫いた。
この温度と痛みは、宝だ。
互いを通う魔力を使い、変装する術も教えてくれた。
男性になったときの注意点や、体の特徴まで丁寧に。
万が一、とノルーダは言うけれど。
傍にいるのが当たり前だと、

思っていた。

翌日、ノルーダは消えた。
しばらく戻れないと、管理人は言う。
行先は国の中心だと言っていたので、
向かうことにした。
男性へと化け、旅支度を終えて眠ろうとした夜だった。
焼けた孤児院と、連れていかれる友人たち。
何もできずに呆然としていると、男性が私の腕をつかんだ。

「こいつは俺がもらう」

「はい。ザン様」

王の紋章を持つ男性の言葉は、私に拒否権はなかった。
勇者の証をもつ男性の戻る先が、
私の目的地と同じ事だけが幸いだった。
初めは家政士がする仕事ばかりだったが、
魔力が多いからと術を教えてくれるようになった。
戦闘を終えて興奮するザン様が私を抱くようになり、
不快感を紛らわせるために術の練習を兼ねて、
自分が楽をするためにザン様の力を増幅させていた。

それも、もう、終わり。
ノルーダをいくら探しても見つからないので、
もしかすると移動したのかもしれない。
勇者と聖女の婚姻を機にもらった報酬を持って国を出た。
歩いていると、人とぶつかった。

「申し訳ありません。お怪我は」

「怪我はないです。僕は」

その目と合った瞬間、意識が途切れた。
目を開けると、知らない天井がある。

「おはようございます。
顔色、少しは良くなりましたね」

「手間をかけさせて、申し訳ありません。
お金は払いますから」

静かに首を振る男性は、私に向かって食べ物を差し出す。

「食べてください。
その魔力を制御するのは、大変だと思います」

「どうして、そこまで。私を気にかけるんですか?」

「その力を僕に与えてほしい、ので。
生活の安定は保証します。
気が合えば、
生涯のパートナーとして、共に過ごしませんか?」

熱のこもった視線に、ノルーダを思い出した。
手に触れられた指先から流される力も似ている。
この身は穢れてしまったので、会えないのかもしれない。
勇者と行動を共にしていたのだから、
どこかで知っていてもおかしくない。
もう、いいか。
気が合えば、と言っているから。

「いいですよ。私は、フラン。
気が合えば、生涯を共にしてもいいです」

「ありがとうございます。僕は、ルダ。
まずは、食事からですね。
たくさん、食べてください」

出されたものを共に食べ、お風呂を使わせてくれた。
待っていたようにベッドへ組み敷かれる。
男性に抱かれ慣れていてよかったと思う。
習慣でそれなりに身を清めているし、
だいたいのことはされてきたので、応えられるはずだ。
どんな痛みでも耐えようと決心したが、
一歩的に甘やかされている。
その優しい手つきと絶妙な加減で、久しぶりに体の芯まで快楽に溺れ味わう。
この男性は、ノルーダのようだ。
そう思うほど、まるで本人のような気がしてくる。
あまりにも強い快楽に何度も達して、
変装を維持するだけの魔力がなくなった。
変装が解けると、自分自身すら久しぶりの女の体が現れる。

「やっと、解けましたか」

ルダは動揺することなく、むしろ嬉しそうに微笑んだ。
状況が分からないまま、
繋がっているナカで圧迫感が増すモノを感じて達する。

「こちらの姿でも感じるんですね。
僕のも、受け止めてください」

ルダが大量の熱をナカへだしたと同時に、再び達する。
気怠い体に目を閉じた、が、魔力の変化で目を開ける。

「気持ちよかったですか?ラフィーネ」

「ノルーダ?」

「はい。感覚共有は生きているようですね」

「そう、ですね」

繋がったままのところから感じるノルーダの欲と、
体中をめぐる快楽が一つでないことが分かる。
今の状況の疑問は言う前に消えた。
一歩的に流されたノルーダの記憶が答えを教えてくれた。

「まだ、いいですか?
ずっと、影からみていましたから」

苦い表情のノルーダ。
共有する感覚から全てを知っているとしたら、
想像もできないくらいの辛さだろう。
その痛みが少しでも和らげばいいと思う。
そっと秘部に触れたノルーダの指先が入るように腰を動かす。
入り口にあった指を受け入れると、奥へ奥へと導く。

「いい、ですよ」

「…っ、加減はしません」

執着な愛撫の後、深く奥まで繋がり、身も心も満たされる。

翌日。
ノルーダの家に住みことになり、共に移動した。
生涯のパートナーとして契約を結ぶと、
ついでだから、と、
孤児院から姿を消した原因だと紹介された。
その原因は、魔王と呼ばれるその人だった。
自ら与えた魔力で生きる聖女を愛するらしい。
あの国の結界が含む魔力が強い理由が分かった気がする。
鏡の向こうで見慣れた男性と交わる聖女をじっと嬉しそうに見つめている様子に、
愛の形は様々だと知る。
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