影に鳴く

秋赤音

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家族ごっこ

0.氷上に咲く花

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生まれた瞬間から、その命は国の財産だ。

『進路を決めてください。』

条件を満たすとくる通知。
その中にある一つを選んで返信する。

『ご結婚おめでとうございます。』

追加支援金の申請通知には、申請方法が書いてある。

『ご出産おめでとうございます。』

出産費用と追加支援金の申請通知には、
育てた場合の追加支援金額が書いてある。

『ご成人おめでとうございます』

生んだ子を成人まで育てた証は、追加の支援金。
そして、変わる人生の始まり。



「お母さん。お腹すいたー」

「もう自分で作れるでしょう?」

甘え上手な末の子は、
今日も愛嬌に満ちた笑みで椅子に座っている。

「そうだけどー。
私、お母さんが作ったご飯が食べたい!」

「一緒に創るなら、いいわよ。
お姉ちゃんも呼んできてね?」

「はーい!」

長女を呼びに行った背を見届けると、
少し背伸びを擦れば届く場所にある土鍋をとろうと踏み台を出した。
すると、すれ違うように夫が入ってくる。

「夕飯、手伝おうか?」

「ありがとう。明日はお願いできる?
今日は、娘が手伝ってくれることになって」

「わかった。献立から一緒に考えよう。
夕飯が終わって…だと早いか?」

優しい眼差しと視線が合う。

「いえ。いつもそうだから、ちょうどいいわ」

「よかった。
では…今はその踏み台を出した理由を教えてほしい」

「これ、は…土鍋をとろうとしていただけなので。
あなたは書斎へ戻って「そうか」

戻っていい、と言う前に近くの台へ置かれた土鍋。
お礼を言おうとすれば呼吸ごと奪うようにかすめ合う唇。

「…ぁ、の?」

「休日くらい…二人きりのときくらいは言ってくれ」

「…うん。ありがとう」

解放されたと思ったが、
抱きしめられて身動きがとれなくなる。

「少しだけ、だから」

「う、ん…っ」

耳元で聞こえた声は熱く、甘く、体を抜けていった。
結婚当時に決めたことは、少しずつ変化していく。
私たちは変化をしながら、
命を終えるまで決めたことをやり通すだけだ。

「…今夜、いいか?」

「優しくしてね?」

「もちろんだ」

甘やかすだけの気配は、足音で消えた。

「お父さん、お母さんと仲良しねー」

「お母さん。何を手伝えばいいですか?」

娘たちから隠すように強く抱きしめられていると、
夫は苦く笑った。

「夕飯、楽しみにしている」

私を離した夫は部屋を出ていった。

「二人とも、ありがとう。
まずは、野菜の準備をお願いするわ」

「「はーい(はい)」」

楽しそうに準備を始める娘たちを見ながら、土鍋を洗う。
これでいいと、これは幸せだと、言い聞かせた。

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