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混沌な日常
愛ゆえに
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あらすじ
"魔力が蓄えられる髪を切ってはいけません"という決まりができた。
それにより、新たな問題が発生する。
---
「切らなくなると、伸びるのが早い気がします」
「そうかもしれません。
男性が腰まで髪を伸ばしたまま…というのは珍しいですから」
仕事が終わり迎えに向かうと、扉越しに和やかな会話が聞こえてくる。
"魔力が蓄えられる髪を切ってはいけません"という決まりができた。
面倒な規則ができたおかげで、オルファの髪は切られることない。
今は、腰まで伸びる髪を一つに束ねている。
自分はレミアとして生活しているので長い髪の手入れに慣れているが、
ランファは久しぶりで大変そうだ。
「失礼します」
「レミア。お疲れ様です」
表情に感情のないランファに心が満たされる。
用事を済ませて、早く帰りたい。
「お疲れ様です。
今からトヴァさんに用事があるので、
よければシェリアさんも一緒に行きますか?」
「はい。ぜひ。ありがとうございます」
「いえ。安全第一、ですからね」
下衆な目線を向ける輩を威圧しながらたどり着いた場所には、
男女に囲まれているトヴァさんがいた。こちらに気づくと、
囲みから離れて、迷わずシェリアさんに寄り添う。
「ありがとうございます」
「いえ。大変ですね」
そう、少し頭を下げたトヴァさん。
気にするな、と言っても気にするので別の話題に切り替える。
「まあ。オルファさんも、たまに囲まれてますけど大丈夫ですか?」
「なんとか。強い武器と、美容への追求心は侮れませんね」
隣では、ランファとシェリアが楽しそうに話している。
髪の結い方を聞いているようだ。
髪は武器になる。魔力が宿るから、手入れをしない者は、
おそらく、ほぼ、いない。
髪一本で使い捨ての魔法獣を作ることができ程度には、
戦いの切り札になる。髪を切り、
魔力に変えて自分専用の武器を作ることも多い。
能力強化のために、あるいは信頼の証のために、
他者の髪から得た魔力を合わせて作ることもある。
「最近、髪から得た魔力で装飾品を作るのが流行しているそうです。
恋人同士はもちろんですが、友人と贈りあうこともあるそうで。
従来通り、武器にする人もいて…それで」
「それで、ああだと?」
「はい。髪を伸ばしているせいか、
少しくらいいいだろう…と言われることが増えましたね。
特別な人にしかあげる気はないし、
魔力が有り余ることはないので、
全て断りますが」
「魔力を得たからといって、
その人の能力まで得られることはないのに…不思議ですね」
「本当に。困っています」
ため息をついたトヴァさんは、
話に区切りがついたシェリアさんの肩を撫でながら移動を促していた。
「では。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
まるで誰が誰のものかを周囲に見せつけるように、
しかし足早に去っていく。
気持ちが分かってしまうので、咎める気にはなれない。
「私たちも帰りますか」
周囲を牽制しながらランファは言った。
下品な視線には慣れたが、ランファは不快だと言う。
生前は、自らも同じものを向けられていたからだろうか。
それとも、気づいているのだろうか。
「はい」
私はランファが差し出した手をとり、
空いている手はその腕に添える。
嫉妬と愛をたっぷりと込めてランファを見つめた。
見つめ返される瞳には、同じ感情が浮かんでいる気がする。
夜。
風呂から上がったランファの束ねられていない髪が、
風にそよいでいる。
「風魔法って楽ね」
手に持っているのは、
風魔法を石に込めてある魔法石が使われている、
髪を乾かすための道具。
あえて道具を使うことで、自身の魔力消費を抑えるのが目的だ。
「そうだな」
なんとなく、やってみたくなった。
道具を奪い、続けて乾かす。
「なに?自分の髪で、いつもしているよね」
「なんとなく」
「そう」
異論がないので続ける。
慣れているだが、
オルファの髪に触れる機会は意外と少ないので新鮮な気分だ。
「できた」
「ありがとう」
道具を受け取り微笑むランファに、生前の面影を見た。
魂が本人だから、当たり前だが、
器が違うので不思議だった。
おそらく、長い髪のせいだろう。
「オルファ。ランファみたい」
「確かに。髪が長いから、かな」
「私の服、着る?」
半分、冗談で言ってみた。
すると、目を丸く瞬かせ、苦く笑う。
「大きさが合わないよ」
つまり、大きさが合えば着る…と、
明確に拒否されないのを理由にして、
自分に都合よく解釈することにした。
「そうだな」
早速、頭の中で考える。
レミアとして生きる今、使える魔法も増えている。
おかげで、服を買ったことはない。
眠る前に、何度か身の内に濃い白濁を受け止める。
ランファを焦らし続けた後に待つ
激しさと熱に浮かされている姿が見たくて、
何回かに一度はしてしまう。
遠慮して吐き出しきらない熱さを持ったまま離れていく腕を掴んで、
押し倒し、さらなる快楽に染める。
中途半端が辛いのは、よく知っている。
理性を手放して素直にねだり喘ぐランファを眺めるのは、
レミアとして生きる今も変わらない楽しみだ。
魔力を補い合いながら、
他者への牽制も込めてしっかりと自身の存在を刻む。
幸福を味わい、明日の楽しみを脳裏に描きながら眠った。
七日後。潜入捜査を任された。
一つだけ、私的な問題があった。
それは、服装。
ランファの仕事部屋で、衣装合わせをすることになっているが。
「よく似合いますね。細いので違和感がないです。
所作も女性らしくて、誰も男性とは思わないと思います。
今のうちに殺気は抑えてください」
「ありがとうございます。
押し付けられたとはいえ仕事ですから、きちんとしますよ」
不機嫌そうなランファは、無表情なまま、
目が合うだけで人が殺せそうな程の殺意を瞳に宿している。
シェリアさんが平然としているのは、おそらく慣れだろう。
そんなシェリアさんが感心したように眺めているのは、
ランファの女装姿。
シェリアさんの言うことに異議はない。
髪と目の色はオルファではなく、ランファでもない、
今時ではよく見かける色。
しかし、雰囲気だけは生前のランファを思い出す。
女性を経験しているのだから、
それらしく振る舞うのは難しくないだろう。
それに、生前は元スパイだ。
しかし、だからこそ、この姿を人目に晒すのが嫌で仕方ない。
許されるならば、見た者すべてを消してやりたい。
「トヴァさん。おかしいですか?」
「いいえ。
男性にしか見えません。立ち振舞いも完璧です。
小柄ではありますが、客として行くので問題はありません。
しいて言うなら、仕事中は、その殺気を抑えた方がいいと思います」
微笑ましいものを見るように優しく見守るように笑うトヴァさん。
二人に見送られて目的の場所へ行く。
許可を得て運営している夜の遊館で、
違法なやり取りが行われている疑惑の調査。
ランファは清掃の仕事で住み込み探り、私は客として探る。
与えられた猶予は一週間だが、二日で終わらせた。
戻るとすぐに上司の所へ行く。
「失礼します」
「早かったですね。
番があのような場所にいるのは、
互いに辛かったでしょう…押し付けたお詫びは、十二日間の休暇です。
ゆっくり過ごしてください。
訓練の手合わせが戦場になって、
宿舎が半壊するのは避けたいですからね」
「ありがとうございます」
「得た証拠のおかげで、根絶やしにできましたよ。
監視下にあるので、何かあっても今回よりは楽なはずです。
お疲れ様でした」
執務室の椅子に座る上司の顔は、
青白く苦い表情をして、退室を促した。
「はい。失礼します」
今日は、ランファが迎えにきてくれた。
いつものように、二人で家に帰る。
まず、向かったのは風呂。
仕事で使った服は"自由に扱っていい"と言われたので、
仕事場の焼却炉に入れた。
「え、一緒に?」
ランファの手をひくと、照れたように赤らむ頬。
こんなにも隙が多く、簡単に人の劣情を煽る人が、
あんな場所にいたと思うと、再び苛立つ。
「時間が惜しい」
「まあ、そういうことなら」
納得したランファの手を強めにひいた。
じっと見つめてくる瞳を見つめ返すと、
狂気に似た何かが見えた気がした。
それがランファのものなのか、
瞳に映る自身のものなのかは分からない。
無言で返された笑みに、胸が高鳴った。
温かな水が流れ落ちるだけの空間。
制服を着たまま、ランファに連れ込まれた。
どちらともなく触れるだけの口づけは、
二度、三度と触れ合えばそれは深くなり、
ランファと私の魔力も濃く交わる。
熱を持ち、疼き始めた身体。
張り付く布が煩わしい。
同じように濡れて肌に張り付く布は、
ランファの鍛えられた細い体の線を強調する。
わずかに息をあげ、吐息がこぼれる様が情欲を煽る。
水が滴る艶のある髪は、それをさらに引き立てる。
「ウォル…」
ランファがつぶやくように言った言葉は、水音に溶ける。
唸るような低い声に体中の神経がざわめく。
「先に、服、脱ぐ」
あ、と。
音もなく消えた言葉の後、
ランファは優しい笑みを浮かべる。
「そうだった。ごめんね」
そう言って、もどかしそうに布をはがしていく。
全てはがされると、観察するようにじっと見てくる。
「何もなかった。
指一本、触れさせていない。
部屋に入ってベッドに誘われたところを、魔法で縛った。
指示通りだったけど、
本当に良いことばかり知ってる人だったから、
おかげで楽できたな」
「そう…か。よかった」
「私も、見て、いいよな?」
「はい」
少し落ち着いた様子のランファは、脱がせやすいように少し離れた。
許しが出たので、
おそらく服としては使い物にならない、ただの布をはがしていく。
「何もなかった、よな?」
「なかった。
無言で仕事をこなすだけで、警戒されなかったから」
全ての肌が見えるようになり、余すところなく確認する。
後ろを向かせて小さな窪みまで目視して、やっと、
すべてに異常がないことが分かり、少しだけ安心した。
不安なのは、ランファの戦いに関する能力ではない。
それを除いた不確定な要素と万が一。
「何もない。
そうだ。ついでに、このまま体を洗おう。
いいよな?念のため、確認しないと安心できない」
「それで、ウォルが安心できるなら」
「ありがとう」
レミアよりも高い背の体を念入りに調べる。
選りすぐりの道具にたっぷりと泡を含ませて、
愛撫するようにそっと肌に触れる。
「ぅ…ぁ、洗うって言って…っ」
洗うのとは逆の自由な手は、緩やかに情欲を煽る。
ますます溢れる蜜を惜しく思いながら、
あえて知らないことにする。
危ない状況だったと分かっていることには安心するが、
面白くはない。
同じくらい、感情が揺れる原因が私だと思うと、
嬉しさで心が満たされる。
「だから、洗っている」
首から爪の先まで。
あとは髪を洗えば終わり…という時、
ちょうど、力が入らなくなったランファを床へ座らせる。
すでにこぼし始めている蜜は、剛直を伝い落ちている。
感情が乱れ、魔力の制御ができていないのだろう。
「…自分で、するから、や、め…ぁっ」
ランファは、腕を伸ばして、泡まみれの道具を奪おうとする。
しかし、洗い終わったものに用はないので、そのまま投げた。
行き場を失って迷うランファの手をとり、
跪いて、張り詰めて苦しそうな昂りに触れさせた。
「これも、自分でするか?」
その欲望は、しとしとと蜜をこぼしながら、
その先を待っているようだ。
ふと、思い出す。
しばらく、忘れるくらいには、ランファを一人でさせていない。
一滴でもランファの命と同じ魔力をこぼすのは惜しい。
が、交わりばかりで、自己処理のシ方を忘れてもいけない。
男の体でいるうちは、避けて通れないものだから。
「は…い。します」
「見ているから、このまま、ここで出して」
羞恥に伏せられた瞳には、不安の中に灯る情欲が見えた。
見上げるからこそ見える色に悦びを抱く身体が、
溢れるばかりの熱を持て余す。
掴んだ手をほどき、戸惑う顔をするランファの唇を奪う。
逃げる舌を捕まえて、魔力を注ぐように絡める。
もっと…とねだるように絡みついてくる舌の感触を味わいながら、
解放を待つ熱に触れる。
名残惜しいが唇を離し、耳元で囁く。
「私の手、使って」
「ぁ…ウォル…の」
一瞬のためらいは、快楽に消えた。
少し擦るだけで悦ぶように水気を増す蜜が手を濡らす。
与えた刺激を受け入れると、自らの手を重ねて快楽を追い始める。
「ぁ…ぅ、や、ぁ、あ、もう、イ…くっ」
「イって」
「あ、ウォル…や、だ、ぁああっ」
両手を投げ出し肩で息をするランファが、
すがるような目で私を見る。
指先に絡む蜜をなめながら
「ウォル…」
吐き出された熱の根源は、まだ燻ったままだった。
続きをねだるように甘い香りが誘う。
意識しているのかは分からないが、
昂りを私の下肢へ押し付けている。
「私のことも、綺麗にしてくれる?」
「する。確認、しないと。私、不安で」
ランファの腕がゆらりと動き、
濡れた手でゆっくりと頬を撫でた。
「気が済むまで、触れればいい」
やっと不安を露にしたランファの表情に見惚れる。
泣き出しそうな瞳に、不安と安堵をにじませた薄ら笑い。
「私も、そう。ひどいことをしたな」
泣いているようにも見える昂りを、そっと撫でた。
「あ…っ、やめ、ぅ…っ」
「まず、私がランファの髪を洗って。
それから、私の…それまで、我慢できる?」
「は、い…っ、今度は、ナカが、いい」
誘惑ばかりで熱い身体に、甘くねだる様は辛い。
艶を帯びた声、淡く染まる熱い肌、その表情と息遣いが、
身体を刺激して疼きが止まない。
男だったら、無茶苦茶に抱いていただろう。
「いいよ。あと」
「な、ぁ、あ、ぁ…っ」
ランファの体にまとわりつく泡をゆっくりと流す。
ぬるい湯すら刺激になるらしく、こぼれた嬌声。
やめてほしい。
果ててしまいたい。
矛盾した欲望だけを映した瞳が私を見ている。
「いいよ。イって」
「あ、や、ぁ、ああ…っ」
欲が放たれた瞬間を見届け、
ぬるま湯と共に流れる白濁を名残惜しく見ていると、
抱き寄せられた。
「ウォル…?」
「…もったいないな、と」
「あとで、いっぱい、あげるから」
ランファは耳元で嬉しそうに小さく笑った後、
うっとりと悦びに満ちた声が、
先にある楽しみを告げた。
「そうだな」
「う、ん…っ」
離された体にできた間が寂しく、
触れるだけの口づけをした。
その後は、宣言通りに事が進む。
ランファの魔力は馴染みが良すぎて、
混ざりあえば媚薬のように思考を溶かす。
互いにギリギリのところで保ってはいるが、
最後は手放し、手放させ、貪るように明け方を迎える。
起きて食べた、ランファお手製の遅めの朝食は、
私の体を労わるような優しい味だった。
"魔力が蓄えられる髪を切ってはいけません"という決まりができた。
それにより、新たな問題が発生する。
---
「切らなくなると、伸びるのが早い気がします」
「そうかもしれません。
男性が腰まで髪を伸ばしたまま…というのは珍しいですから」
仕事が終わり迎えに向かうと、扉越しに和やかな会話が聞こえてくる。
"魔力が蓄えられる髪を切ってはいけません"という決まりができた。
面倒な規則ができたおかげで、オルファの髪は切られることない。
今は、腰まで伸びる髪を一つに束ねている。
自分はレミアとして生活しているので長い髪の手入れに慣れているが、
ランファは久しぶりで大変そうだ。
「失礼します」
「レミア。お疲れ様です」
表情に感情のないランファに心が満たされる。
用事を済ませて、早く帰りたい。
「お疲れ様です。
今からトヴァさんに用事があるので、
よければシェリアさんも一緒に行きますか?」
「はい。ぜひ。ありがとうございます」
「いえ。安全第一、ですからね」
下衆な目線を向ける輩を威圧しながらたどり着いた場所には、
男女に囲まれているトヴァさんがいた。こちらに気づくと、
囲みから離れて、迷わずシェリアさんに寄り添う。
「ありがとうございます」
「いえ。大変ですね」
そう、少し頭を下げたトヴァさん。
気にするな、と言っても気にするので別の話題に切り替える。
「まあ。オルファさんも、たまに囲まれてますけど大丈夫ですか?」
「なんとか。強い武器と、美容への追求心は侮れませんね」
隣では、ランファとシェリアが楽しそうに話している。
髪の結い方を聞いているようだ。
髪は武器になる。魔力が宿るから、手入れをしない者は、
おそらく、ほぼ、いない。
髪一本で使い捨ての魔法獣を作ることができ程度には、
戦いの切り札になる。髪を切り、
魔力に変えて自分専用の武器を作ることも多い。
能力強化のために、あるいは信頼の証のために、
他者の髪から得た魔力を合わせて作ることもある。
「最近、髪から得た魔力で装飾品を作るのが流行しているそうです。
恋人同士はもちろんですが、友人と贈りあうこともあるそうで。
従来通り、武器にする人もいて…それで」
「それで、ああだと?」
「はい。髪を伸ばしているせいか、
少しくらいいいだろう…と言われることが増えましたね。
特別な人にしかあげる気はないし、
魔力が有り余ることはないので、
全て断りますが」
「魔力を得たからといって、
その人の能力まで得られることはないのに…不思議ですね」
「本当に。困っています」
ため息をついたトヴァさんは、
話に区切りがついたシェリアさんの肩を撫でながら移動を促していた。
「では。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
まるで誰が誰のものかを周囲に見せつけるように、
しかし足早に去っていく。
気持ちが分かってしまうので、咎める気にはなれない。
「私たちも帰りますか」
周囲を牽制しながらランファは言った。
下品な視線には慣れたが、ランファは不快だと言う。
生前は、自らも同じものを向けられていたからだろうか。
それとも、気づいているのだろうか。
「はい」
私はランファが差し出した手をとり、
空いている手はその腕に添える。
嫉妬と愛をたっぷりと込めてランファを見つめた。
見つめ返される瞳には、同じ感情が浮かんでいる気がする。
夜。
風呂から上がったランファの束ねられていない髪が、
風にそよいでいる。
「風魔法って楽ね」
手に持っているのは、
風魔法を石に込めてある魔法石が使われている、
髪を乾かすための道具。
あえて道具を使うことで、自身の魔力消費を抑えるのが目的だ。
「そうだな」
なんとなく、やってみたくなった。
道具を奪い、続けて乾かす。
「なに?自分の髪で、いつもしているよね」
「なんとなく」
「そう」
異論がないので続ける。
慣れているだが、
オルファの髪に触れる機会は意外と少ないので新鮮な気分だ。
「できた」
「ありがとう」
道具を受け取り微笑むランファに、生前の面影を見た。
魂が本人だから、当たり前だが、
器が違うので不思議だった。
おそらく、長い髪のせいだろう。
「オルファ。ランファみたい」
「確かに。髪が長いから、かな」
「私の服、着る?」
半分、冗談で言ってみた。
すると、目を丸く瞬かせ、苦く笑う。
「大きさが合わないよ」
つまり、大きさが合えば着る…と、
明確に拒否されないのを理由にして、
自分に都合よく解釈することにした。
「そうだな」
早速、頭の中で考える。
レミアとして生きる今、使える魔法も増えている。
おかげで、服を買ったことはない。
眠る前に、何度か身の内に濃い白濁を受け止める。
ランファを焦らし続けた後に待つ
激しさと熱に浮かされている姿が見たくて、
何回かに一度はしてしまう。
遠慮して吐き出しきらない熱さを持ったまま離れていく腕を掴んで、
押し倒し、さらなる快楽に染める。
中途半端が辛いのは、よく知っている。
理性を手放して素直にねだり喘ぐランファを眺めるのは、
レミアとして生きる今も変わらない楽しみだ。
魔力を補い合いながら、
他者への牽制も込めてしっかりと自身の存在を刻む。
幸福を味わい、明日の楽しみを脳裏に描きながら眠った。
七日後。潜入捜査を任された。
一つだけ、私的な問題があった。
それは、服装。
ランファの仕事部屋で、衣装合わせをすることになっているが。
「よく似合いますね。細いので違和感がないです。
所作も女性らしくて、誰も男性とは思わないと思います。
今のうちに殺気は抑えてください」
「ありがとうございます。
押し付けられたとはいえ仕事ですから、きちんとしますよ」
不機嫌そうなランファは、無表情なまま、
目が合うだけで人が殺せそうな程の殺意を瞳に宿している。
シェリアさんが平然としているのは、おそらく慣れだろう。
そんなシェリアさんが感心したように眺めているのは、
ランファの女装姿。
シェリアさんの言うことに異議はない。
髪と目の色はオルファではなく、ランファでもない、
今時ではよく見かける色。
しかし、雰囲気だけは生前のランファを思い出す。
女性を経験しているのだから、
それらしく振る舞うのは難しくないだろう。
それに、生前は元スパイだ。
しかし、だからこそ、この姿を人目に晒すのが嫌で仕方ない。
許されるならば、見た者すべてを消してやりたい。
「トヴァさん。おかしいですか?」
「いいえ。
男性にしか見えません。立ち振舞いも完璧です。
小柄ではありますが、客として行くので問題はありません。
しいて言うなら、仕事中は、その殺気を抑えた方がいいと思います」
微笑ましいものを見るように優しく見守るように笑うトヴァさん。
二人に見送られて目的の場所へ行く。
許可を得て運営している夜の遊館で、
違法なやり取りが行われている疑惑の調査。
ランファは清掃の仕事で住み込み探り、私は客として探る。
与えられた猶予は一週間だが、二日で終わらせた。
戻るとすぐに上司の所へ行く。
「失礼します」
「早かったですね。
番があのような場所にいるのは、
互いに辛かったでしょう…押し付けたお詫びは、十二日間の休暇です。
ゆっくり過ごしてください。
訓練の手合わせが戦場になって、
宿舎が半壊するのは避けたいですからね」
「ありがとうございます」
「得た証拠のおかげで、根絶やしにできましたよ。
監視下にあるので、何かあっても今回よりは楽なはずです。
お疲れ様でした」
執務室の椅子に座る上司の顔は、
青白く苦い表情をして、退室を促した。
「はい。失礼します」
今日は、ランファが迎えにきてくれた。
いつものように、二人で家に帰る。
まず、向かったのは風呂。
仕事で使った服は"自由に扱っていい"と言われたので、
仕事場の焼却炉に入れた。
「え、一緒に?」
ランファの手をひくと、照れたように赤らむ頬。
こんなにも隙が多く、簡単に人の劣情を煽る人が、
あんな場所にいたと思うと、再び苛立つ。
「時間が惜しい」
「まあ、そういうことなら」
納得したランファの手を強めにひいた。
じっと見つめてくる瞳を見つめ返すと、
狂気に似た何かが見えた気がした。
それがランファのものなのか、
瞳に映る自身のものなのかは分からない。
無言で返された笑みに、胸が高鳴った。
温かな水が流れ落ちるだけの空間。
制服を着たまま、ランファに連れ込まれた。
どちらともなく触れるだけの口づけは、
二度、三度と触れ合えばそれは深くなり、
ランファと私の魔力も濃く交わる。
熱を持ち、疼き始めた身体。
張り付く布が煩わしい。
同じように濡れて肌に張り付く布は、
ランファの鍛えられた細い体の線を強調する。
わずかに息をあげ、吐息がこぼれる様が情欲を煽る。
水が滴る艶のある髪は、それをさらに引き立てる。
「ウォル…」
ランファがつぶやくように言った言葉は、水音に溶ける。
唸るような低い声に体中の神経がざわめく。
「先に、服、脱ぐ」
あ、と。
音もなく消えた言葉の後、
ランファは優しい笑みを浮かべる。
「そうだった。ごめんね」
そう言って、もどかしそうに布をはがしていく。
全てはがされると、観察するようにじっと見てくる。
「何もなかった。
指一本、触れさせていない。
部屋に入ってベッドに誘われたところを、魔法で縛った。
指示通りだったけど、
本当に良いことばかり知ってる人だったから、
おかげで楽できたな」
「そう…か。よかった」
「私も、見て、いいよな?」
「はい」
少し落ち着いた様子のランファは、脱がせやすいように少し離れた。
許しが出たので、
おそらく服としては使い物にならない、ただの布をはがしていく。
「何もなかった、よな?」
「なかった。
無言で仕事をこなすだけで、警戒されなかったから」
全ての肌が見えるようになり、余すところなく確認する。
後ろを向かせて小さな窪みまで目視して、やっと、
すべてに異常がないことが分かり、少しだけ安心した。
不安なのは、ランファの戦いに関する能力ではない。
それを除いた不確定な要素と万が一。
「何もない。
そうだ。ついでに、このまま体を洗おう。
いいよな?念のため、確認しないと安心できない」
「それで、ウォルが安心できるなら」
「ありがとう」
レミアよりも高い背の体を念入りに調べる。
選りすぐりの道具にたっぷりと泡を含ませて、
愛撫するようにそっと肌に触れる。
「ぅ…ぁ、洗うって言って…っ」
洗うのとは逆の自由な手は、緩やかに情欲を煽る。
ますます溢れる蜜を惜しく思いながら、
あえて知らないことにする。
危ない状況だったと分かっていることには安心するが、
面白くはない。
同じくらい、感情が揺れる原因が私だと思うと、
嬉しさで心が満たされる。
「だから、洗っている」
首から爪の先まで。
あとは髪を洗えば終わり…という時、
ちょうど、力が入らなくなったランファを床へ座らせる。
すでにこぼし始めている蜜は、剛直を伝い落ちている。
感情が乱れ、魔力の制御ができていないのだろう。
「…自分で、するから、や、め…ぁっ」
ランファは、腕を伸ばして、泡まみれの道具を奪おうとする。
しかし、洗い終わったものに用はないので、そのまま投げた。
行き場を失って迷うランファの手をとり、
跪いて、張り詰めて苦しそうな昂りに触れさせた。
「これも、自分でするか?」
その欲望は、しとしとと蜜をこぼしながら、
その先を待っているようだ。
ふと、思い出す。
しばらく、忘れるくらいには、ランファを一人でさせていない。
一滴でもランファの命と同じ魔力をこぼすのは惜しい。
が、交わりばかりで、自己処理のシ方を忘れてもいけない。
男の体でいるうちは、避けて通れないものだから。
「は…い。します」
「見ているから、このまま、ここで出して」
羞恥に伏せられた瞳には、不安の中に灯る情欲が見えた。
見上げるからこそ見える色に悦びを抱く身体が、
溢れるばかりの熱を持て余す。
掴んだ手をほどき、戸惑う顔をするランファの唇を奪う。
逃げる舌を捕まえて、魔力を注ぐように絡める。
もっと…とねだるように絡みついてくる舌の感触を味わいながら、
解放を待つ熱に触れる。
名残惜しいが唇を離し、耳元で囁く。
「私の手、使って」
「ぁ…ウォル…の」
一瞬のためらいは、快楽に消えた。
少し擦るだけで悦ぶように水気を増す蜜が手を濡らす。
与えた刺激を受け入れると、自らの手を重ねて快楽を追い始める。
「ぁ…ぅ、や、ぁ、あ、もう、イ…くっ」
「イって」
「あ、ウォル…や、だ、ぁああっ」
両手を投げ出し肩で息をするランファが、
すがるような目で私を見る。
指先に絡む蜜をなめながら
「ウォル…」
吐き出された熱の根源は、まだ燻ったままだった。
続きをねだるように甘い香りが誘う。
意識しているのかは分からないが、
昂りを私の下肢へ押し付けている。
「私のことも、綺麗にしてくれる?」
「する。確認、しないと。私、不安で」
ランファの腕がゆらりと動き、
濡れた手でゆっくりと頬を撫でた。
「気が済むまで、触れればいい」
やっと不安を露にしたランファの表情に見惚れる。
泣き出しそうな瞳に、不安と安堵をにじませた薄ら笑い。
「私も、そう。ひどいことをしたな」
泣いているようにも見える昂りを、そっと撫でた。
「あ…っ、やめ、ぅ…っ」
「まず、私がランファの髪を洗って。
それから、私の…それまで、我慢できる?」
「は、い…っ、今度は、ナカが、いい」
誘惑ばかりで熱い身体に、甘くねだる様は辛い。
艶を帯びた声、淡く染まる熱い肌、その表情と息遣いが、
身体を刺激して疼きが止まない。
男だったら、無茶苦茶に抱いていただろう。
「いいよ。あと」
「な、ぁ、あ、ぁ…っ」
ランファの体にまとわりつく泡をゆっくりと流す。
ぬるい湯すら刺激になるらしく、こぼれた嬌声。
やめてほしい。
果ててしまいたい。
矛盾した欲望だけを映した瞳が私を見ている。
「いいよ。イって」
「あ、や、ぁ、ああ…っ」
欲が放たれた瞬間を見届け、
ぬるま湯と共に流れる白濁を名残惜しく見ていると、
抱き寄せられた。
「ウォル…?」
「…もったいないな、と」
「あとで、いっぱい、あげるから」
ランファは耳元で嬉しそうに小さく笑った後、
うっとりと悦びに満ちた声が、
先にある楽しみを告げた。
「そうだな」
「う、ん…っ」
離された体にできた間が寂しく、
触れるだけの口づけをした。
その後は、宣言通りに事が進む。
ランファの魔力は馴染みが良すぎて、
混ざりあえば媚薬のように思考を溶かす。
互いにギリギリのところで保ってはいるが、
最後は手放し、手放させ、貪るように明け方を迎える。
起きて食べた、ランファお手製の遅めの朝食は、
私の体を労わるような優しい味だった。
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