人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

文字の大きさ
35 / 42
失う乙女は巡り咲く

0.兆し

しおりを挟む
「シスカ。今日の夕食が楽しみね」

「そうだろうね。コノカの特別な日だからな」

「ありがとう」

夕暮れの街。
仲睦まじい男女は、
荷物を分けあいながら歩いている。
女性の瞳色に輝く石が耳にある男性は葡萄酒を、
男性の瞳色に煌めく石が耳にある女性は花を持っている。
足元が良いとは言えない道で、
一人の男性が躓いた。

「わっ…」

「コノカ!大丈夫か」

「私は大丈夫…けど」

女性を庇う男性は、くるりと女性をみる。
無事を確認して、つまっていた息をはく。
女性は、心配そうに地面へ足をつけている男性を見た。

「ごめんなさい。
お二人とも、怪我はないですか?」

「こちらは無事です。あなたは怪我をしています。
早く帰って手当てをした方が良いと思います」

その場で水魔法を使った男性は、
傷の周囲だけを洗い土を落とした。

「あ…はい。そうします。
ありがとうございます。
お詫びにこちらを。おまじないです。
"永遠に結ばれる"と言われています。
素敵なご夫婦に、多くの幸せが降り注ぎますように」

立ち上がった男性は、
女性を守るように立っている男性へ一枚の紙を渡す。
それを受けとると、女性は微笑んだ。

「"永遠に結ばれる"って素敵ね。
ありがとうございます」

「ありがとうございます。
では、失礼します」

夫婦は家に帰る。
身を清め、いつもの食事に特別な葡萄酒を添えて、
楽しい時間を過ごした。
そして、おまじないの手引きに従い、
互いの血を飲んだ。
その瞬間、どこからか蝶が現れ、消えた。

「血にも魔力が宿っているのよね」

「そうだね。
体液の中でも、体を巡っているものだから、
特別なのかもしれない」

「そう考えると、そうね」

夫婦は、カーテンの隙間からこぼれる月明かりに沈み、
愛に濡れ、熱い温度を分かち合う。

同刻。
窓ごしに月を見上げる男性は、手当てされていて、
治り始めている足の傷を空気に晒している。
その肩には蝶が留まっている。

「ラン。決まりました。優しい方ですよ。
きっと、仲良く暮らせます。待っていてください」

月へ柔らかな微笑みを向ける男性は、窓を開ける。
すると、蝶は消えた。

それから一年が過ぎた。
聖域へ派遣する勇者の選定が行われ、
一人の男性が選ばれた。

「そんな…どうしてシスカが。
私、離れたくない」

「コノカ。俺だって一緒にいたい」

「そうよ。一緒に行けば」

二人の間を裂くように老いた男性が立つ。

「許さない。
コノカには、新しい人と婚姻を結んでもらう。家のためだ」

「そんな…お父様!」

「あなた、一緒に行かせましょう。
番を別れさせたら、狂い病が怖いわ。
まだ、誰もなっていないのよ」

老いた女性は、必死にとめるが男性はその女性を睨む。

「うちは新しい番を用意する。
その相手と愛し合えば避けられる。
そうだな、幼馴染はコノカのことを好いていた。未婚者だ」

老いた男性は二人の女性を無理やり引きずり、
若い男女は離れていく。

「シスカ!シスカ!」

「コノカ!はなしてくれ!」

若い男性は、正装姿の人間に引きずられていく。

翌日。
保護部屋にいる若い男性は、出された食事に手をつけず、
椅子へ座り、机にうつぶせていた。
ふと、扉が叩かれ、開くのを待つ。
そして、入ってきた来訪者に驚いた。

「あなたは…」

「覚えてくれていたんですか」

「怪我は」

「おかげさまで、早く治りました。
ありがとうございました。奥様は、お元気ですか?」

対面に座る来訪者の言葉に、男性はその言葉に喉がつまった。
妻とは二度と会えないと、思い知ったからだ。
わざわざ見せつけるように窓の向こうにある庭で、
妻と妻の新しい夫になる人物を会わせる老いた男性がいた。

「妻は…」

「"永遠に結ばれる"」

「え?」

言葉をつまらせている男性に、来訪者は微笑んだ。
驚く男性は、動かない。

「おまじないです。されましたか?」

「はい。でも、"おまじない"ですよね」

「はい。あれは"特別なおまじない"ですから。
婚姻は縁を繋ぐもの。
"おまじない"は、魂を繋ぐものです」

「魂…ですか」

「はい。
たとえ体が朽ちたとしても、魂の繋がりは来世まで続きます」

「来世…そういえば、体のことを器と言う人がいました」

男性は、それから何かを考えるように黙る。
来訪者は、それを静かに見ている。

「あなたは、奥様と魂で繋がっています。
器だけの繋がりよりも、深い繋がりです」

男性は、来訪者の言葉に強く拒否反応を示す。
唸り、考え、頭を抱えた。

「それだけでは、ダメだ。
アイツは、コノカを痛めつけて楽しむ。幸せとは思えない…」

「器も必要と?」

「当然だ!コノカを癒すのも傷つけるのも俺だけだ!」

突然、机を叩く男性は来訪者に掴みかかりそうな勢いで睨む。

「では、私と共に来ませんか。
目的地は同じです。
今は詳しく話せませんが、
再び奥様と暮らす方法を知っています」

音に怯えることなく、
穏やかな声で微笑みを浮かべて来訪者は言った。

「本当か?」

男性は、疑いと期待が混じる視線を来訪者に向け、
じっと答えを待っている。

「はい。そして、あなただから、伝えています。
私にも最愛の妻がいました。
だから、あなたの気持ちが分かります。
愛し合う者たちを引き裂くなんて…許せません」

微笑みはそのままで少し目を伏せた来訪者。
男性はその言葉に驚き、笑った。

「あなたも…」

「私と共に来ますか?」

「はい。妻と再会するために、あなたを利用します」

「それでもいいです。あのときの恩を返したい」

来訪者と男性は握手を交わす。
手が離れても、その表情は、とても明るい。

「あなたの名前は?俺はシスカ」

「私はリンです。
シスカさんが勇者なら、私は何ですかね」

「それは、旅が終われば分かることだ」

「そうですね」

二人は楽しそうに笑い、再会の約束をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

処理中です...