人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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失う乙女は巡り咲く

0.兆し

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「シスカ。今日の夕食が楽しみね」

「そうだろうね。コノカの特別な日だからな」

「ありがとう」

夕暮れの街。
仲睦まじい男女は、
荷物を分けあいながら歩いている。
女性の瞳色に輝く石が耳にある男性は葡萄酒を、
男性の瞳色に煌めく石が耳にある女性は花を持っている。
足元が良いとは言えない道で、
一人の男性が躓いた。

「わっ…」

「コノカ!大丈夫か」

「私は大丈夫…けど」

女性を庇う男性は、くるりと女性をみる。
無事を確認して、つまっていた息をはく。
女性は、心配そうに地面へ足をつけている男性を見た。

「ごめんなさい。
お二人とも、怪我はないですか?」

「こちらは無事です。あなたは怪我をしています。
早く帰って手当てをした方が良いと思います」

その場で水魔法を使った男性は、
傷の周囲だけを洗い土を落とした。

「あ…はい。そうします。
ありがとうございます。
お詫びにこちらを。おまじないです。
"永遠に結ばれる"と言われています。
素敵なご夫婦に、多くの幸せが降り注ぎますように」

立ち上がった男性は、
女性を守るように立っている男性へ一枚の紙を渡す。
それを受けとると、女性は微笑んだ。

「"永遠に結ばれる"って素敵ね。
ありがとうございます」

「ありがとうございます。
では、失礼します」

夫婦は家に帰る。
身を清め、いつもの食事に特別な葡萄酒を添えて、
楽しい時間を過ごした。
そして、おまじないの手引きに従い、
互いの血を飲んだ。
その瞬間、どこからか蝶が現れ、消えた。

「血にも魔力が宿っているのよね」

「そうだね。
体液の中でも、体を巡っているものだから、
特別なのかもしれない」

「そう考えると、そうね」

夫婦は、カーテンの隙間からこぼれる月明かりに沈み、
愛に濡れ、熱い温度を分かち合う。

同刻。
窓ごしに月を見上げる男性は、手当てされていて、
治り始めている足の傷を空気に晒している。
その肩には蝶が留まっている。

「ラン。決まりました。優しい方ですよ。
きっと、仲良く暮らせます。待っていてください」

月へ柔らかな微笑みを向ける男性は、窓を開ける。
すると、蝶は消えた。

それから一年が過ぎた。
聖域へ派遣する勇者の選定が行われ、
一人の男性が選ばれた。

「そんな…どうしてシスカが。
私、離れたくない」

「コノカ。俺だって一緒にいたい」

「そうよ。一緒に行けば」

二人の間を裂くように老いた男性が立つ。

「許さない。
コノカには、新しい人と婚姻を結んでもらう。家のためだ」

「そんな…お父様!」

「あなた、一緒に行かせましょう。
番を別れさせたら、狂い病が怖いわ。
まだ、誰もなっていないのよ」

老いた女性は、必死にとめるが男性はその女性を睨む。

「うちは新しい番を用意する。
その相手と愛し合えば避けられる。
そうだな、幼馴染はコノカのことを好いていた。未婚者だ」

老いた男性は二人の女性を無理やり引きずり、
若い男女は離れていく。

「シスカ!シスカ!」

「コノカ!はなしてくれ!」

若い男性は、正装姿の人間に引きずられていく。

翌日。
保護部屋にいる若い男性は、出された食事に手をつけず、
椅子へ座り、机にうつぶせていた。
ふと、扉が叩かれ、開くのを待つ。
そして、入ってきた来訪者に驚いた。

「あなたは…」

「覚えてくれていたんですか」

「怪我は」

「おかげさまで、早く治りました。
ありがとうございました。奥様は、お元気ですか?」

対面に座る来訪者の言葉に、男性はその言葉に喉がつまった。
妻とは二度と会えないと、思い知ったからだ。
わざわざ見せつけるように窓の向こうにある庭で、
妻と妻の新しい夫になる人物を会わせる老いた男性がいた。

「妻は…」

「"永遠に結ばれる"」

「え?」

言葉をつまらせている男性に、来訪者は微笑んだ。
驚く男性は、動かない。

「おまじないです。されましたか?」

「はい。でも、"おまじない"ですよね」

「はい。あれは"特別なおまじない"ですから。
婚姻は縁を繋ぐもの。
"おまじない"は、魂を繋ぐものです」

「魂…ですか」

「はい。
たとえ体が朽ちたとしても、魂の繋がりは来世まで続きます」

「来世…そういえば、体のことを器と言う人がいました」

男性は、それから何かを考えるように黙る。
来訪者は、それを静かに見ている。

「あなたは、奥様と魂で繋がっています。
器だけの繋がりよりも、深い繋がりです」

男性は、来訪者の言葉に強く拒否反応を示す。
唸り、考え、頭を抱えた。

「それだけでは、ダメだ。
アイツは、コノカを痛めつけて楽しむ。幸せとは思えない…」

「器も必要と?」

「当然だ!コノカを癒すのも傷つけるのも俺だけだ!」

突然、机を叩く男性は来訪者に掴みかかりそうな勢いで睨む。

「では、私と共に来ませんか。
目的地は同じです。
今は詳しく話せませんが、
再び奥様と暮らす方法を知っています」

音に怯えることなく、
穏やかな声で微笑みを浮かべて来訪者は言った。

「本当か?」

男性は、疑いと期待が混じる視線を来訪者に向け、
じっと答えを待っている。

「はい。そして、あなただから、伝えています。
私にも最愛の妻がいました。
だから、あなたの気持ちが分かります。
愛し合う者たちを引き裂くなんて…許せません」

微笑みはそのままで少し目を伏せた来訪者。
男性はその言葉に驚き、笑った。

「あなたも…」

「私と共に来ますか?」

「はい。妻と再会するために、あなたを利用します」

「それでもいいです。あのときの恩を返したい」

来訪者と男性は握手を交わす。
手が離れても、その表情は、とても明るい。

「あなたの名前は?俺はシスカ」

「私はリンです。
シスカさんが勇者なら、私は何ですかね」

「それは、旅が終われば分かることだ」

「そうですね」

二人は楽しそうに笑い、再会の約束をした。
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