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失う乙女は巡り咲く
1. 始まり
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翌日。
待ち合わせの時間になった。
遅くもなく、早くもない彼の登場に心が踊る。
やっと始められるのだから。
「リンさん。お待たせしました」
「いえ。今来たところです。行きますか」
「はい」
シスカさんは、旅に慣れている様な装備だ。
無駄がない。
歩き方もそうだ。
「旅支度に無駄がないですね。経験が?」
「はい。妻とよく…あ、元妻ですね」
「いえ。私の前では奥様でいいですよ。
むしろ、そう言ってください」
「リンさん…ありがとうございます。
そういえば、昨晩、妻が俺に贈り物をくれました。
思い出に…と。
落ち着いた先で、植える場所があれば…と言っていました」
そう、シスカさんは泣きそうに笑う。
植えるもの…なんとなく想像はついたが、あえて聞いてみる。
「植える?よければ教えてください。
肥料が必要なら、途中で買わないといけません」
「そうですね。赤い実のなる木の種です。
食べられますよ。甘くて美味しいです」
朗らかな笑みに、私も心が和んだ。
ふと、昔聞いた話を思い出した。
「あー…でしたら、肥料があった方がいいかもしれませんね。
聞いてよかったです。
倒れた勇者は、
姫からもらった果実で命を繋いだ…おとぎ話のようですね」
「まだ実るかも分かりませんよ」
不安そうな笑みを浮かべるシスカさんは、ため息をつく。
「実らせる、んですよ。
そして、一緒に食べればいい。違いますか?」
「いえ。その通りです」
不安を抱えたまま微笑むシスカさんは、とても綺麗だった。
落ち着いたようなので、旅の道筋を話す。
聖域を守るために必要な道具を揃えないと、聖域へは入れない。
話終えると、
シスカさんは確認すると承知の返事をした。
「聖域を開くための道具調達…緊張します。
扉が開かないと、魔力を持ち帰れませんし…」
「三つですよ。
それに、探しやすいものですからね。
まずは、先にある街で装飾品を買います」
「はい。そうですね」
それから、一日かけて歩き、"石の街"に着いた。
歩きながらしていた他愛ない話から、話題を変える。
「さて…装飾品は、なんでもいいですが。
どうせなら、綺麗な物がいいと思います」
「そうですね」
「私が今のところ一番綺麗だと思っているのは、
シスカさんが奥様とつけている耳飾りです。
できれば、あれと同じが良いです。
探しがいもあります」
俺の言葉に驚いたシスカさんは、黙ってしまった。
「いけませんか?」
問いかけて様子をみると、まだ何か迷っていた。
「これは、捨てられそうだった石を加工したものです。
安い露店で偶然見つけて、妻が綺麗だと言ったので…。
希少性はなく、正規品よりも探すのが大変かもしれません」
理由を聞くと、迷うのも分かる気がした。
先を急ぐ旅に、時間をかけたくないのは当たり前だ。
「案外と、見つかるかもしれません。
ここは"石の街"です。
ちょうど、そこに露店があります」
「俺、いきます」
駆けって行ったシスカさんは、
少しすると戻ってきた。
その手に石を持って。
「ありましたか」
「はい。装飾品の加工屋を教えてもらいました。
行きますか?」
「そうですね」
石を大切そうに鞄へ入れたシスカさんの案内で着いたお店。
外で待っていると、近くの路地から悲鳴がした。
問題の確認に行くと、白昼にも関わらず交わる男女がいた。
魔力の気配で悪魔ではない。
薄暗い細い路地の壁に手をついた女性は、
気持ちよさそうに喘ぎながら男を受け入れている。
「ああ…シアが声を出したから、人がきただろ。
それともわざと?見てほしいのか?」
「いやぁ…っ、見ないで…お願いだ…っぁ、あっ、そこ、イく…っ!」
「そこの人。狂い病だと思わないでくれ。
俺たちは純粋に愛し合っているだけだから」
「あっ!ぁんっ、ロア、奥、もっとぉ…っ、ぅん…んぁっ、ああっ!」
激しい水音と肌がぶつかり合う音が止まないまま、
男性は話しかけてくる。
狂い病ではないことは一目でわかる。
二人とも、瞳にはっきりとした意思が宿っている。
「目をみれば、それくらいわかります。
失礼しました」
立ち去ろうとすると、
向こうから走ってくるシスカさんの足音がした。
「リンさん…って、早く行きますよ。
狂い病かもしれません」
「目を見てください。
互いの意思で交わり、互いを感じているお二人です。
空虚を見て交わる伝承とは違います」
静かに交わる二人を見ているシスカさん。
すると、男性がニヤリと笑みを浮かべた。
「そこのお二人さん。俺たちの愛の承認者になってくれ。
俺は、シアだけを愛すると誓う」
「ん、ぁっ、私は、ロア、だけを…っ愛することを、誓います…んっ」
幸せだと身体全てで語る二人は、同時に果てた。
甘く触れるだけの口づけを繰り返す様を見届ける。
背を向けて、来た道を戻る。
「ありがとう」
シスカさんは背後から聞こえた声に、一瞬とまり、
再び歩き始めた。
宿を決めると、シスカさんは身を清めてすぐに寝た。
翌朝。
まだ暗い時間に宿を出る。
外には聖獣が待っていた。
「リト。久しぶりですね」
頭を撫でると、リトは嬉しそうに目を細めた。
「リンさん。魔力を持つこの獣さんは、何者ですか?」
「シスカさん。私の友人です。強いですよ。
目的地は同じようなので、旅の仲間にどうですか?」
リトをわざと煽り、攻撃するように仕向ける。
すると、防ぎきれなかった風魔法は、
俺の頬に一筋の線をつけた。
わずかに血がにじむ。
「はい。心強いです。俺はシスカです。
お願いします」
予定通りにリトと合流し、
俺たちは"花の街"へと歩き始めた。
待ち合わせの時間になった。
遅くもなく、早くもない彼の登場に心が踊る。
やっと始められるのだから。
「リンさん。お待たせしました」
「いえ。今来たところです。行きますか」
「はい」
シスカさんは、旅に慣れている様な装備だ。
無駄がない。
歩き方もそうだ。
「旅支度に無駄がないですね。経験が?」
「はい。妻とよく…あ、元妻ですね」
「いえ。私の前では奥様でいいですよ。
むしろ、そう言ってください」
「リンさん…ありがとうございます。
そういえば、昨晩、妻が俺に贈り物をくれました。
思い出に…と。
落ち着いた先で、植える場所があれば…と言っていました」
そう、シスカさんは泣きそうに笑う。
植えるもの…なんとなく想像はついたが、あえて聞いてみる。
「植える?よければ教えてください。
肥料が必要なら、途中で買わないといけません」
「そうですね。赤い実のなる木の種です。
食べられますよ。甘くて美味しいです」
朗らかな笑みに、私も心が和んだ。
ふと、昔聞いた話を思い出した。
「あー…でしたら、肥料があった方がいいかもしれませんね。
聞いてよかったです。
倒れた勇者は、
姫からもらった果実で命を繋いだ…おとぎ話のようですね」
「まだ実るかも分かりませんよ」
不安そうな笑みを浮かべるシスカさんは、ため息をつく。
「実らせる、んですよ。
そして、一緒に食べればいい。違いますか?」
「いえ。その通りです」
不安を抱えたまま微笑むシスカさんは、とても綺麗だった。
落ち着いたようなので、旅の道筋を話す。
聖域を守るために必要な道具を揃えないと、聖域へは入れない。
話終えると、
シスカさんは確認すると承知の返事をした。
「聖域を開くための道具調達…緊張します。
扉が開かないと、魔力を持ち帰れませんし…」
「三つですよ。
それに、探しやすいものですからね。
まずは、先にある街で装飾品を買います」
「はい。そうですね」
それから、一日かけて歩き、"石の街"に着いた。
歩きながらしていた他愛ない話から、話題を変える。
「さて…装飾品は、なんでもいいですが。
どうせなら、綺麗な物がいいと思います」
「そうですね」
「私が今のところ一番綺麗だと思っているのは、
シスカさんが奥様とつけている耳飾りです。
できれば、あれと同じが良いです。
探しがいもあります」
俺の言葉に驚いたシスカさんは、黙ってしまった。
「いけませんか?」
問いかけて様子をみると、まだ何か迷っていた。
「これは、捨てられそうだった石を加工したものです。
安い露店で偶然見つけて、妻が綺麗だと言ったので…。
希少性はなく、正規品よりも探すのが大変かもしれません」
理由を聞くと、迷うのも分かる気がした。
先を急ぐ旅に、時間をかけたくないのは当たり前だ。
「案外と、見つかるかもしれません。
ここは"石の街"です。
ちょうど、そこに露店があります」
「俺、いきます」
駆けって行ったシスカさんは、
少しすると戻ってきた。
その手に石を持って。
「ありましたか」
「はい。装飾品の加工屋を教えてもらいました。
行きますか?」
「そうですね」
石を大切そうに鞄へ入れたシスカさんの案内で着いたお店。
外で待っていると、近くの路地から悲鳴がした。
問題の確認に行くと、白昼にも関わらず交わる男女がいた。
魔力の気配で悪魔ではない。
薄暗い細い路地の壁に手をついた女性は、
気持ちよさそうに喘ぎながら男を受け入れている。
「ああ…シアが声を出したから、人がきただろ。
それともわざと?見てほしいのか?」
「いやぁ…っ、見ないで…お願いだ…っぁ、あっ、そこ、イく…っ!」
「そこの人。狂い病だと思わないでくれ。
俺たちは純粋に愛し合っているだけだから」
「あっ!ぁんっ、ロア、奥、もっとぉ…っ、ぅん…んぁっ、ああっ!」
激しい水音と肌がぶつかり合う音が止まないまま、
男性は話しかけてくる。
狂い病ではないことは一目でわかる。
二人とも、瞳にはっきりとした意思が宿っている。
「目をみれば、それくらいわかります。
失礼しました」
立ち去ろうとすると、
向こうから走ってくるシスカさんの足音がした。
「リンさん…って、早く行きますよ。
狂い病かもしれません」
「目を見てください。
互いの意思で交わり、互いを感じているお二人です。
空虚を見て交わる伝承とは違います」
静かに交わる二人を見ているシスカさん。
すると、男性がニヤリと笑みを浮かべた。
「そこのお二人さん。俺たちの愛の承認者になってくれ。
俺は、シアだけを愛すると誓う」
「ん、ぁっ、私は、ロア、だけを…っ愛することを、誓います…んっ」
幸せだと身体全てで語る二人は、同時に果てた。
甘く触れるだけの口づけを繰り返す様を見届ける。
背を向けて、来た道を戻る。
「ありがとう」
シスカさんは背後から聞こえた声に、一瞬とまり、
再び歩き始めた。
宿を決めると、シスカさんは身を清めてすぐに寝た。
翌朝。
まだ暗い時間に宿を出る。
外には聖獣が待っていた。
「リト。久しぶりですね」
頭を撫でると、リトは嬉しそうに目を細めた。
「リンさん。魔力を持つこの獣さんは、何者ですか?」
「シスカさん。私の友人です。強いですよ。
目的地は同じようなので、旅の仲間にどうですか?」
リトをわざと煽り、攻撃するように仕向ける。
すると、防ぎきれなかった風魔法は、
俺の頬に一筋の線をつけた。
わずかに血がにじむ。
「はい。心強いです。俺はシスカです。
お願いします」
予定通りにリトと合流し、
俺たちは"花の街"へと歩き始めた。
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