人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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日常

星に願う

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体が芯から凍てつくような寒さに目が覚める。
隣で眠る一花を起こさないように、そっと寝台を出た。
窓に風を遮る細工をしようとカーテンを少し開けると、
薄暗い空に一日の始まりを告げる光が差し込み、
その光に照らされた空気が小さな星の粒のように輝いている。
その美しい光景に、一花を起こそうと思った。
ゆっくりと眠っている彼女には申し訳ないが、この景色を一緒に見たかった。

「一花、おはよう」

そっと肩をゆすると、眠そうに目を細めながら
上半身だけを起こした一花の細い腕が、
私の腕を絡めとるようにしがみついてきた。
寒そうに身を小さくしているので抱きしめると、
わずかに強くなる触れている手の感触に、おもわず頬が緩んだ。

「・・・あさ?」
「朝。いつもよりは早いけど、一緒にみたいものがあって」
「うん」

腕の中で私を見上げる一花を寝台の外へ誘うと、
足が冷えないようにと膝の裏と背を腕で支えながら引き上げ、
首に腕が回されると窓へ移動する。

「・・・きれい」

一花は目をいっぱいに見開いて、窓の外の景色を見ている。

「これを、一緒にみたくて」
「うん。ありがとう」

窓から視線を外し私を見て、そう、嬉しそうに笑った。
ただ愛おしい唯一の存在を、一生、あわよくば来世まで、
私が守りたいと思い直す。
死後の世界は分からないけれど、今を生きながら未来を思う身としては、
隣にいるのはいつだって自分がいいと願うのだ。

「こちらこそ、ありがとう。
また、みよう。一緒に、これからも、ずっと」
「ずっと?どれくらい、ずっと?」

瞼が再び閉じられようとしている一花は、私に身を預けながらそう言う。
揺らさないように歩き、寝台へ寝かせると、腕を引かれて私も隣に寝ころんだ。
満足したように微笑み、その瞼は閉じられる。

「一生。できれば来世まで」
「ずっとフレイと一緒なら」

なら、の続きは一花の夢にあるのだろうか。
見ている夢に私がいればいいと、同じ夢を見られるようにと思いながら、
一花の額に口づけて眠った。



このときは、思いもしなかった。
星に願った想いが実現するとは、知らなかった。

89.「煌めきを超えた先に」

アルヴァと雷


幼い頃の思い出の地で美しい満天の星空を見上げ、
女神はため息をつく。
互いの瞳には、遠くで瞬く煌めきが映っている。

「どうして人間は空をみあげるの?
星に魅入られるの?」

珍しく人間界に降りたいと言ったルナは、
人間と同じ場所から星を見ることを望んだ。
よほどのことがないかぎりは人間に見られることはないが、
万が一もあるのでアスカ国の神殿を提案した。
受け入れてもらえたので、一番見晴らしのいい場所に降り立った。

「私にも分かりませんが、
星に何らかの魅力があるのは確かです。
占術や逸話、日ごろの息抜きと様々な理由で星を見ます」

「雷先生も星を見ていた?」

茶化すようにおどけて笑うルナ。
生前を思い出すと、意外と見ていたのかもしれない。
苦さも混じる思い出に、思わずため息をつく。

「はい。暗闇に浮かぶ月を。
遠い場所にいる大切な人を想って、見ていました」

「私は、ここにいるわ」

ふいに抱き寄せらせた。
近くなった温もりを見下ろすと、
今にも泣きそうな瞳と目が合った。
潤んで煌めく瞳は、
空の煌めきを尽きないまま閉じ込めたように美しい。

「そうだな。ルナは、私の傍に現れた」

「当たり前よ。私はいつも見ていたから」

「ありがとう。ルナ。永遠に愛している」

どちらともなく唇が重なる。
互いの瞳には、互いしか映っていない。
それを幸せそうに微笑むルナは、私に身を預けた。

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