65 / 278
65. 突然現れた婚約者候補
しおりを挟む
.
「おーい、茶となんか甘いもんねーか?」
組長先生が叫んだ。
本橋さんの「はーい」と言う声がして、ドアの開く音がした。
「チョコレートケーキがありますからいまお持ちし・・、まあっ、会長!若いお嬢さんを泣かせて・・!」
「あ、・・違・・・」
《違う。誤解です》と、わたしは言いたかったが声にならなかった。
心のしこりみたいなものが、組長先生と若頭の言葉で小さくなって、わたしが勝手に泣いてしまっただけだから。
「いいじゃねえか。男ってのは女を泣かせて慰めてえ生き物なんだよ」
「何を格好つけたことを言ってるんですか。まったくもう、幾つになってもしょうのない。いまチョコレートケーキを持ってきますよ。チョコレートは好きですか?」
「は・・、はい」
大好きです!と答えたいが鼻水がぐずぐずする。
組長先生はわたしの隣に座って頭を撫で、若頭はティッシュを箱ごと渡してくれた。
「す・・すみませ・・・」
昨日から泣いてばかりいる。
情けない。
「いいって、いいって。気のすむまで泣いたらいいのさ。おまえはきっと、いつも我慢をし過ぎてきたんだよ」
一回鼻をかむ。
「それにしても、ろくでもない連中とはバッサリ言ったもんだな」
苦笑いの組長先生に続いて
「お母さんは厳しいかただったんですか?」
若頭が聞いてきた。
「いえ、・・・」
わたしは鼻をグスグスさせながら言葉を濁した。
「どうした?」
「いえ、厳しいんじゃなくて・・」
「・・なんか言いてえことがあったら言っちまいな。心に抱えてると重いだけだ。忘れてほしいことなら聞いたらすぐに忘れるからよ」
決して厳しい人ではなかった。
お母さんを誤解されるのはいやだな。
「・・・、わたしから離れていった子達の中に、階段から落ちるのを助けた子がいました。すごく仲がよかったんですが、離れて近づいてこなくなったのに、ある日、学校帰りに声をかけてきたんです」
『テストの問題わかるなら教えてよ。そしたらまた仲よくしてあげる。次のテストで100点とれたら新しいゲームを買ってもらえるの。ねぇ、ほんとはわかるんでしょ?一人だけ知ってるなんてずるいわよ』
「わたしはその話もしていたので、それで母から"ろくでもない連中"って言葉が出たんだと思います。母は気が強いのはすごく強かったけど、厳しい人ではなかったです」
「いいお母さんだったんですね」
若頭が微笑む。
少しでもわかってくれたのならよかった。
わたしは「はい」
と力強く返事をした。
誰かと自分の家族の話ができるのは嬉しい。
「すごく・・、気が強かったか・・」
組長先生が伏し目がちに笑った。
「かかあ天下だったか」
楽しそうに笑う。
「はい。お父さんはだいたいお母さんの言うことはなんでも笑って聞いてて。だからお母さんに叱られた時のわたしの逃げ場所はいつもお父さんでした」
そして、
「・・・そうか、・・お父さんか」
寂しそうに笑った。
バタバタと足音がした。
豪雨の音も上回る。
「あーーー!会長がおれの婚約者泣かせてるーー!」
「オレの婚約者だろ!」
「バカ。年齢から言って俺の婚約者だろ」
わたしを指さす三人の男子が現れた。
「こ・・ん?」やくしゃ?・・・誰が?
見るからに十代男子三人。
「会長、何したんだよ」
「かわいそうに目真っ赤じゃん!」
「かーちゃんにチクるからな!」
かーちゃん?
え?組長先生の子供??
「お前達、婚約者ってのはどういうことだ?」
まるで舎弟に問い質すみたいな若頭。
表情がいささか険しい。
「かーちゃんがオレたちの中の誰かの嫁にしたいって言ってたんだ」
一人の男子が答えた。
「しょーがねえやつだな、楓も」
組長先生がボソッとつぶやいた。
楓さん?
楓さんがかーちゃんってことは・・
「みふゆ、紹介するぜ。黒岩の三人息子だ」
わたしの隣で組長先生が言った。
「おれ、三男の山斗だよ、13歳!」
「オレは次男の永斗、15だよ」
「長男の海斗、17歳。高校二年」
黒岩家三兄弟が起きてきたのだった。
「おーい、茶となんか甘いもんねーか?」
組長先生が叫んだ。
本橋さんの「はーい」と言う声がして、ドアの開く音がした。
「チョコレートケーキがありますからいまお持ちし・・、まあっ、会長!若いお嬢さんを泣かせて・・!」
「あ、・・違・・・」
《違う。誤解です》と、わたしは言いたかったが声にならなかった。
心のしこりみたいなものが、組長先生と若頭の言葉で小さくなって、わたしが勝手に泣いてしまっただけだから。
「いいじゃねえか。男ってのは女を泣かせて慰めてえ生き物なんだよ」
「何を格好つけたことを言ってるんですか。まったくもう、幾つになってもしょうのない。いまチョコレートケーキを持ってきますよ。チョコレートは好きですか?」
「は・・、はい」
大好きです!と答えたいが鼻水がぐずぐずする。
組長先生はわたしの隣に座って頭を撫で、若頭はティッシュを箱ごと渡してくれた。
「す・・すみませ・・・」
昨日から泣いてばかりいる。
情けない。
「いいって、いいって。気のすむまで泣いたらいいのさ。おまえはきっと、いつも我慢をし過ぎてきたんだよ」
一回鼻をかむ。
「それにしても、ろくでもない連中とはバッサリ言ったもんだな」
苦笑いの組長先生に続いて
「お母さんは厳しいかただったんですか?」
若頭が聞いてきた。
「いえ、・・・」
わたしは鼻をグスグスさせながら言葉を濁した。
「どうした?」
「いえ、厳しいんじゃなくて・・」
「・・なんか言いてえことがあったら言っちまいな。心に抱えてると重いだけだ。忘れてほしいことなら聞いたらすぐに忘れるからよ」
決して厳しい人ではなかった。
お母さんを誤解されるのはいやだな。
「・・・、わたしから離れていった子達の中に、階段から落ちるのを助けた子がいました。すごく仲がよかったんですが、離れて近づいてこなくなったのに、ある日、学校帰りに声をかけてきたんです」
『テストの問題わかるなら教えてよ。そしたらまた仲よくしてあげる。次のテストで100点とれたら新しいゲームを買ってもらえるの。ねぇ、ほんとはわかるんでしょ?一人だけ知ってるなんてずるいわよ』
「わたしはその話もしていたので、それで母から"ろくでもない連中"って言葉が出たんだと思います。母は気が強いのはすごく強かったけど、厳しい人ではなかったです」
「いいお母さんだったんですね」
若頭が微笑む。
少しでもわかってくれたのならよかった。
わたしは「はい」
と力強く返事をした。
誰かと自分の家族の話ができるのは嬉しい。
「すごく・・、気が強かったか・・」
組長先生が伏し目がちに笑った。
「かかあ天下だったか」
楽しそうに笑う。
「はい。お父さんはだいたいお母さんの言うことはなんでも笑って聞いてて。だからお母さんに叱られた時のわたしの逃げ場所はいつもお父さんでした」
そして、
「・・・そうか、・・お父さんか」
寂しそうに笑った。
バタバタと足音がした。
豪雨の音も上回る。
「あーーー!会長がおれの婚約者泣かせてるーー!」
「オレの婚約者だろ!」
「バカ。年齢から言って俺の婚約者だろ」
わたしを指さす三人の男子が現れた。
「こ・・ん?」やくしゃ?・・・誰が?
見るからに十代男子三人。
「会長、何したんだよ」
「かわいそうに目真っ赤じゃん!」
「かーちゃんにチクるからな!」
かーちゃん?
え?組長先生の子供??
「お前達、婚約者ってのはどういうことだ?」
まるで舎弟に問い質すみたいな若頭。
表情がいささか険しい。
「かーちゃんがオレたちの中の誰かの嫁にしたいって言ってたんだ」
一人の男子が答えた。
「しょーがねえやつだな、楓も」
組長先生がボソッとつぶやいた。
楓さん?
楓さんがかーちゃんってことは・・
「みふゆ、紹介するぜ。黒岩の三人息子だ」
わたしの隣で組長先生が言った。
「おれ、三男の山斗だよ、13歳!」
「オレは次男の永斗、15だよ」
「長男の海斗、17歳。高校二年」
黒岩家三兄弟が起きてきたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
