【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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149. 潜む獣

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「みふゆちゃん、どうしたの?」
「あ、あの・・」
どうしよう。見間違いかも。でも・・・
「なんだ?みふゆ、どうかしたのか?」
貴之がみふゆの側に来た。
「あの・・」
「ん?なんだ?なんでも言っていいんだぞ?」
「あの!これを持っていてください!!」
みふゆはかわいいひよこの黄色いポーチを貴之に差し出した。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
貴之ら三人は無言になった。
「・・俺がこのポーチを持てばいいのか?」
貴之、若干躊躇する。
「かわいいわ。似合いますわよ会長」
「たまにはいいんじゃない?」
「あ、いえ、あの、ポーチじゃなくて」
みふゆはポーチから水晶のブレスレットを出した。

「お母さんが身につけていたもので、倒れる少し前にわたしが譲り受けました。強い守りの力を持ったブレスレットです」
「───俺が持ってるほうがいいのか?」
「はい。できればどちらかの手首につけてほしいです」
「お前を守るためにお母さんが譲ってくれたんだろう?」
「大丈夫です。いつも持ってるお守りがあるから。ブレスレットはこのお守りに何かあったときに使いなさいと言われました。ふたつあるからって相乗効果があるわけじゃなくて、どちらかひとつを身につけてればいいって。・・でも、なんとなくいつも持ってるんです・・」
貴之には『寂しくて』と、みふゆの心の声が聞こえた気がした。
「そうか。じゃあ、お前がつけてくれ」
みふゆはうなずいてブレスレットを貴之の左手首に通した。
「病院だからかもしれません。一瞬だったし」
何かを視たが、みふゆ自身も確信が無く、それ故に余計に不安が頭をもたげている様子だった。

「守られるばかりじゃなくて、わたしも守りたいんです・・・」

みふゆの心の吐露に、貴之の心が震えた。
誰かを守りたいと思う気持ちは、紛れもなく『愛』だ。

「お前がいつも側に居てくれるみたいで心強いぜ」
貴之がニヤリと笑った。

しかし、相乗効果が無いとはいえ、強い力を持つ守りの水晶を自分のもとに置くのは気が引ける。どうにもみふゆが心配だ。
「それじゃあお前には俺の数珠じゅずをかわりに置いていこう」
貴之は香木から作った木製の数珠を袂から取り出した。みふゆの持っているお守りは惣領家の総本家にあたる寺のものだ。みふゆの母親・礼夏が若い頃、寺に修行に訪れ、下山する日、当時の住職から与えられたものだ。守り袋のなかには魔除けの文言、祈りと字が刻まれた香木の小さな板が入っている。香木の数珠と相性はいいはずだ。
「すごい数珠です・・これ・・!」
「俺が育てた数珠だ」
「わたしが持っててもいいんですか?」
「ああ、持っててくれ。お前は俺の娘なんだから」
はしゃぐみふゆの頭を撫で、貴之はみふゆの不安を払拭させる笑顔をみせた。



「そんなにすごい数珠なの??」
楓が不思議そうにみふゆの手元にある数珠を差した。
貴之が帰り、病室内には楓と胡蝶がいる。胡蝶は夫の松田俊也が迎えにくるため、貴之とは別に帰ることになっていた。
「はい。すごく清らかな数珠です」
「毎日お経を唱えてるからかしら?あたしも毎日お経続けてみようかな?ねぇ、お姉さん、どう思う?」
「そのセリフ、何度目?あなたは続いた試しがないじゃない」
胡蝶が呆れながらクスクスと笑い、みふゆも笑った。






屋敷へ帰るため、貴之を乗せた黒のレクサスは病院の敷地内を抜けたが、走っている道は惣領家の造った私道だ。病院と公道を繋ぐ緩やかな下り坂は、両脇は生い茂る草木と山林が続いている。下り坂を降りきれば、ようやく公道に出る。
貴之の車の前後には、一台ずつ護衛車のベンツとセンチュリーがついている。三台すべて防弾防爆仕様である。

異変に気付いたのは後部車両センチュリーの矢口だった。
「なんかいるッス。スピード落としたほうがいいッス」
「なんかってなんだよ。クマも犬共も駆除したろーが。イノシシか?」
運転席の高城が聞いた。
「・・車と併走してる。飛びだしてくるかも」
至極真面目な口調で、矢口が空気銃エアライフルに手をかけた。
高城は車内設置のスマホで先頭車両に連絡をした。
「高城です。スピードを落としてください。矢口が獣を確認しています。飛びだしてくるかもしれません」



「会長、まっすぐ帰宅でよろしいですか?」
運転手の桐島が貴之に声をかけた。返事がなく、助手席の護衛・村井が振り向いて様子を伺った。

貴之は後部席のシートにもたれ、眼を閉じていた。

村井は桐島に首を振ると、桐島はうなずき、屋敷への道を進んだ。


貴之は病室でのみふゆとのやりとりを脳裏に浮かべ、みふゆがつけてくれた左手首の水晶のブレスレットを握りしめていた。

みふゆの母親のブレスレット。
すなわち水無瀬礼夏みなせれいかが身につけていたものだ。
貴之の愛した礼夏が。

────礼夏

貴之はブレスレットの丸い水晶の珠を撫でながら、礼夏の名を心のなかで呟いた。


前を走る護衛車両がパッシングをし、スピードを落とし始めた。桐島も合わせてスピードを落とした。同時に村井の携帯電話が鳴った。
後ろで貴之が、
「どうした?私道にサツでも現れたか?」
と、閉じていたまぶたを開けた。
「いえ、獣が飛びだしてくるかもしれないと矢口が言ってるそうです。念のためスピードを落として走るそうです」
村井が貴之を振り向き連絡の内容を報告した。

「イノシシか・・?増えすぎてるのかもしれんな」
貴之が腕組みをして言うと、貴之は突然行き先の変更を桐島に伝えた。

「桐島、百花寺ひゃっかじに行ってくれ」
「わかりました」
桐島が答えると、村井が先頭車両に行き先の変更を伝え、貴之の車の列は脇道に入っていった。



脇道のゲートを開けるため、先頭車両から村井が降りた。その間、後部車両のセンチュリー内では矢口が、
「あ、諦めたっぽいッス」
と構えていた空気銃をおろした。
「イノシシか?やっぱ・・?」
「わかんねえッス。デカいし足が速かったッス。犬だとしたらグレイハウンドっぽい犬ッスね」
「まさかあの犬共の仲間じゃねーだろーな。くそっ!犬を捨てる連中なんかくたばっちまえ!」
高城が悪態をつくと矢口が「それはオレも賛成ッス」と空気銃から手を離した。



ゲートの向こうの脇道に入っていった車の列を、獣は唸りながら睨んでいる。ゲートには魔除けを意味する梵字が書かれた札がくくりつけられている。車列はやがて見えなくなり、獣も山中に姿を消した。









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