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202. ロンド~踊る命~ -19- 死の運命(さだめ)
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貴之は話の最後に衝撃的な内容を口にした。
京司朗は黙ってしまった。
貴之が話し終えて立ち上がった。
京司朗座は座ったままだった。
いつもならすぐに立ち上がり、貴之に一礼をするはずが━━━━
貴之は座ったままの京司朗の横を通り過ぎた。
談話室のドアを開け出て行こうとしたが振り向いた。
「お前はこのままここで休め。あとは俺がいる」
貴之は京司朗の返事は聞かずに出て行った。
ドアの閉まる音がした。
京司朗は返事をしなかった。できなかった。
貴之が出て行ったにもかかわらず、ソファに座ったまま、身動き一つとれなかった。
貴之が水無瀬一族に関して最後に口にした言葉が、京司朗を打ちのめしていた。
━━━水無瀬一族は短命だ。水無瀬の能力を使ってきた者はほとんどが三十歳を前に命を落とす。みふゆも例外じゃない━━━
京司朗はテーブルの上の灰皿をみつめていた。
貴之が潰した煙草が、微かに煙を揺らめかせている。
すやすやと眠るみふゆを起こさぬように、貴之は優しく頬に手を当てた。
柔らかだが、痩せた感は否めない。それでも、静かに眠る娘の寝顔に、貴之の気持ちは安らいだ。
「京司朗はどうしたの?」
「談話室で休ませる」
「そう」
早紀子はそれ以上聞かなかった。
「姉ちゃんも少し休んでくれ。俺がみてるから」
「じゃあお願いするわ」
早紀子が付き添い用の部屋に向かった。
貴之は早紀子が座っていたベッドのそばの椅子に座った。
京司朗にみふゆが短命であることを伝えたのは早すぎたかもしれないと思いつつ、いずれは知らさねばならないことだと、貴之は自身を納得させた。
みふゆの命を延ばす方法があると言った礼夏は姿を現さず、みふゆの前には水無瀬玄州が現れた。
何か不都合が起きているのか━━━━
太陽が昇り、病室のカーテンが明るく染まった。
堀内健次は結局アユミのそばで一晩を過ごした。
様子を見に来た主治医の北森と堀内の話し声にアユミが目を覚ました。
北森からもう大丈夫だとお墨付きをもらったが、無茶はしないようにと注意をされた。
堀内は病室を出る直前の北森を呼び止めた。
「アユミは意識不明で面会謝絶のままにしてくれ」
「いいぜ。家族も警察も面倒くさいのはごめんだ。ああ、警備を二名置いとくからな」
そう言うと、北森は病室から出て行った。
目覚めたアユミは、堀内健次から結婚したことを告げられ「えー!あたし社長と結婚しちゃったのーーー!?」と、驚愕と困惑の声をあげ、傷口を痛がった。
アユミは堀内に問われ、刺したのは女だったことと、女が妙なことを口走ったと教えた。
「誰かと間違ったんだよ」
「間違った?」
「うん。いきなりぶつかってきたから振り向いたら・・。ハッキリとは聞こえなかったけど、“アキ”か“マキ”か・・、そんな名前を言ってた。“あんた、誰?なんでアキじゃないの”って、振り向いたあたしの顔を見て言ったんだよ」
堀内健次はアユミの証言から、刺して逃げた女の見当をつけた。やはり林香苗だ。
堀内が偶然目にした、走り去った女。
━━━━あいつは青木にやたらと難癖をつけていた。おそらく、“アキ”じゃなくて“青木”と言ったんだ。
アユミの後ろ姿は以前の青木みふゆと本当にそっくりだ。
林香苗は、現在の青木みふゆの状況を全く知らない。惣領貴之の養女になったことも、車椅子に乗っていることも、髪が短くなっていることも知らないのだ。昔の青木みふゆしか知らないなら、間違えても不思議じゃない。
「アユミ、いいか?お前はまだ意識不明ってことにしておく。だから病室からは絶対に出るな。窓から外をのぞいたりもするな。俺がいいと言うまで絶対にだ。わかったか?」
「え?・・いいけどぉ。どうせまだ動けないし」
「ここは特別室だ。必要なものは全て揃っている。何か欲しいものがあれば俺に電話をしろ。スマホと充電器は枕元にある。俺は用があるから行くが、あとでまた来る」
「う、うん・・」
堀内はいったん病室を出た。そして、デリヘル店の店長の酒田に連絡をとった。
みふゆの病室では朝食が並べられ、京司朗がコーヒーを淹れていた。今朝はクロワッサンとクルミのパン、オムレツ、柔らかな鶏のササミのソテーに温野菜のサラダ、湯むきされたくし切りトマト、マスカットが添えられたオレンジのゼリーだ。
みふゆは病室に漂うコーヒーの匂いに、「いい匂い」と顔をほころばせた。早紀子が「俊也さんの農園のコーヒーね」と言った。
「コーヒー農園も持ってるんですか?」
みふゆが訊くと、
「ああ、南米に持ってる。松田のコーヒー農園は豆の質がいい上に、出来に安定性がある。この調子だと農園の拡大も現実になりそうだな」
と、貴之が答えた。
「お父さんも持ってるんですか?」
みふゆが何気に訊いた。
「なんだ?欲しいのか?買ってやるぞ」
貴之が笑顔で言った。
みふゆはあわてて否定した。きちんと否定しないと貴之なら本当に買ってしまいそうで焦った。
コーヒーを運んできた京司朗と瞳が合い、みふゆは照れ笑いをした。
「熱いから気をつけて」
と、京司朗が言い添えて、コーヒーを置いた。
みふゆは「はい」と答え、テーブルに置かれたコーヒーに少しだけ鼻を近づけ、良い匂いが鼻先をくすぐるのを楽しんだ。
みふゆが目覚めたとき、京司朗はすでに病室にいた。京司朗は穏やかな笑顔でみふゆに「おはよう」と言った。
戻るのを待ってたはずなのに、いつの間にか眠ってしまった。
真夜中の死霊との闘いなど現実味が無いが、アユミが実在しているのを考えると、確かにあった出来事なのだ。
みふゆは真っ先にお礼を言った。
お礼を言ったときの京司朗の笑顔がやけに自信に溢れた男の顔で、みふゆは胸の奥がかすかにうずいた。
今朝はいつもと違う顔ぶれの朝食となったが、早紀子が話す貴之の子供時代の思い出話に、病室内は笑いに包まれた。
朝食が終わった頃、貴之の携帯電話が鳴った。黒岩正吾からだ。貴之は付き添いの部屋に移動して電話をとった。
「どうした?何かあったか?」
《はい。堀内健次が妙な動きをしています。監視は続けていますが、どうやら以前愛人だった、店の従業員の林香苗という女の行方を追ってるようです》
「本店にいた女だな」
《はい、そうです。介入しますか?》
「いや、松田に任せる。うちは監視と報告だけを徹底させろ」
《わかりました》
貴之が電話を切った。
本店従業員で堀内の愛人だった女。
捨てた女をなぜ今頃━━━
貴之は訝しんだが、堀内にかまってる暇は無い。
何かあっても堀内のことは、松田が始末をつけることになっているのだ。
貴之は話の最後に衝撃的な内容を口にした。
京司朗は黙ってしまった。
貴之が話し終えて立ち上がった。
京司朗座は座ったままだった。
いつもならすぐに立ち上がり、貴之に一礼をするはずが━━━━
貴之は座ったままの京司朗の横を通り過ぎた。
談話室のドアを開け出て行こうとしたが振り向いた。
「お前はこのままここで休め。あとは俺がいる」
貴之は京司朗の返事は聞かずに出て行った。
ドアの閉まる音がした。
京司朗は返事をしなかった。できなかった。
貴之が出て行ったにもかかわらず、ソファに座ったまま、身動き一つとれなかった。
貴之が水無瀬一族に関して最後に口にした言葉が、京司朗を打ちのめしていた。
━━━水無瀬一族は短命だ。水無瀬の能力を使ってきた者はほとんどが三十歳を前に命を落とす。みふゆも例外じゃない━━━
京司朗はテーブルの上の灰皿をみつめていた。
貴之が潰した煙草が、微かに煙を揺らめかせている。
すやすやと眠るみふゆを起こさぬように、貴之は優しく頬に手を当てた。
柔らかだが、痩せた感は否めない。それでも、静かに眠る娘の寝顔に、貴之の気持ちは安らいだ。
「京司朗はどうしたの?」
「談話室で休ませる」
「そう」
早紀子はそれ以上聞かなかった。
「姉ちゃんも少し休んでくれ。俺がみてるから」
「じゃあお願いするわ」
早紀子が付き添い用の部屋に向かった。
貴之は早紀子が座っていたベッドのそばの椅子に座った。
京司朗にみふゆが短命であることを伝えたのは早すぎたかもしれないと思いつつ、いずれは知らさねばならないことだと、貴之は自身を納得させた。
みふゆの命を延ばす方法があると言った礼夏は姿を現さず、みふゆの前には水無瀬玄州が現れた。
何か不都合が起きているのか━━━━
太陽が昇り、病室のカーテンが明るく染まった。
堀内健次は結局アユミのそばで一晩を過ごした。
様子を見に来た主治医の北森と堀内の話し声にアユミが目を覚ました。
北森からもう大丈夫だとお墨付きをもらったが、無茶はしないようにと注意をされた。
堀内は病室を出る直前の北森を呼び止めた。
「アユミは意識不明で面会謝絶のままにしてくれ」
「いいぜ。家族も警察も面倒くさいのはごめんだ。ああ、警備を二名置いとくからな」
そう言うと、北森は病室から出て行った。
目覚めたアユミは、堀内健次から結婚したことを告げられ「えー!あたし社長と結婚しちゃったのーーー!?」と、驚愕と困惑の声をあげ、傷口を痛がった。
アユミは堀内に問われ、刺したのは女だったことと、女が妙なことを口走ったと教えた。
「誰かと間違ったんだよ」
「間違った?」
「うん。いきなりぶつかってきたから振り向いたら・・。ハッキリとは聞こえなかったけど、“アキ”か“マキ”か・・、そんな名前を言ってた。“あんた、誰?なんでアキじゃないの”って、振り向いたあたしの顔を見て言ったんだよ」
堀内健次はアユミの証言から、刺して逃げた女の見当をつけた。やはり林香苗だ。
堀内が偶然目にした、走り去った女。
━━━━あいつは青木にやたらと難癖をつけていた。おそらく、“アキ”じゃなくて“青木”と言ったんだ。
アユミの後ろ姿は以前の青木みふゆと本当にそっくりだ。
林香苗は、現在の青木みふゆの状況を全く知らない。惣領貴之の養女になったことも、車椅子に乗っていることも、髪が短くなっていることも知らないのだ。昔の青木みふゆしか知らないなら、間違えても不思議じゃない。
「アユミ、いいか?お前はまだ意識不明ってことにしておく。だから病室からは絶対に出るな。窓から外をのぞいたりもするな。俺がいいと言うまで絶対にだ。わかったか?」
「え?・・いいけどぉ。どうせまだ動けないし」
「ここは特別室だ。必要なものは全て揃っている。何か欲しいものがあれば俺に電話をしろ。スマホと充電器は枕元にある。俺は用があるから行くが、あとでまた来る」
「う、うん・・」
堀内はいったん病室を出た。そして、デリヘル店の店長の酒田に連絡をとった。
みふゆの病室では朝食が並べられ、京司朗がコーヒーを淹れていた。今朝はクロワッサンとクルミのパン、オムレツ、柔らかな鶏のササミのソテーに温野菜のサラダ、湯むきされたくし切りトマト、マスカットが添えられたオレンジのゼリーだ。
みふゆは病室に漂うコーヒーの匂いに、「いい匂い」と顔をほころばせた。早紀子が「俊也さんの農園のコーヒーね」と言った。
「コーヒー農園も持ってるんですか?」
みふゆが訊くと、
「ああ、南米に持ってる。松田のコーヒー農園は豆の質がいい上に、出来に安定性がある。この調子だと農園の拡大も現実になりそうだな」
と、貴之が答えた。
「お父さんも持ってるんですか?」
みふゆが何気に訊いた。
「なんだ?欲しいのか?買ってやるぞ」
貴之が笑顔で言った。
みふゆはあわてて否定した。きちんと否定しないと貴之なら本当に買ってしまいそうで焦った。
コーヒーを運んできた京司朗と瞳が合い、みふゆは照れ笑いをした。
「熱いから気をつけて」
と、京司朗が言い添えて、コーヒーを置いた。
みふゆは「はい」と答え、テーブルに置かれたコーヒーに少しだけ鼻を近づけ、良い匂いが鼻先をくすぐるのを楽しんだ。
みふゆが目覚めたとき、京司朗はすでに病室にいた。京司朗は穏やかな笑顔でみふゆに「おはよう」と言った。
戻るのを待ってたはずなのに、いつの間にか眠ってしまった。
真夜中の死霊との闘いなど現実味が無いが、アユミが実在しているのを考えると、確かにあった出来事なのだ。
みふゆは真っ先にお礼を言った。
お礼を言ったときの京司朗の笑顔がやけに自信に溢れた男の顔で、みふゆは胸の奥がかすかにうずいた。
今朝はいつもと違う顔ぶれの朝食となったが、早紀子が話す貴之の子供時代の思い出話に、病室内は笑いに包まれた。
朝食が終わった頃、貴之の携帯電話が鳴った。黒岩正吾からだ。貴之は付き添いの部屋に移動して電話をとった。
「どうした?何かあったか?」
《はい。堀内健次が妙な動きをしています。監視は続けていますが、どうやら以前愛人だった、店の従業員の林香苗という女の行方を追ってるようです》
「本店にいた女だな」
《はい、そうです。介入しますか?》
「いや、松田に任せる。うちは監視と報告だけを徹底させろ」
《わかりました》
貴之が電話を切った。
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