【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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番外編 ひとりがたり~人生を振り返る~

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人生を振り返ってみると、総じてわたしは幸せだった。

辛かった苦しかった時期は、この人生のなかの、十代という年数じかんだけだった。

確かに当時の辛さは自分にとって壮絶だった。

打ちひしがれ、死をも考えた。


九歳で特殊な能力、予知能力がきっかけで友達との関係が壊れ、いじめにあい、クラスメートがバス事故で亡くなり、わたしは責められた。

でも事故が起きるなんてわたしにはわからなかった。
クラスメートの行動がいじめに変わって、母はすぐにわたしの通学をやめさせたからだ。
わたしは学校には行ってなかった。バス遠足にも参加していなかった。
だから本当にわからなかったのだ。

遠い土地に引っ越すことで環境を変えたが、わたしは誰かを信じることをやめてしまっていた。
利用されるだけの特殊な能力は隠すことに必死になった。
両親だけがわたしの味方であり、わたしの世界だった。

やがて父が精神を病み入院し、そんななかでわたしには突然妹ができた。父の妹さんが亡くなりうちで引き取ったと母は言った。
かわいいかわいい赤ちゃんだ。わたしは家族が増えて、珍しくはしゃいだ。


入院中の父が夢を見たと言った。
とても美しい桃源郷の夢だと。
わたしは父の夢を絵に描いた。父に指導してもらい描き上げたとき、「いろんな人に見せたいなぁ」と言ったので、わたしは美術館主催の絵画展に絵を送った。
絵のタイトルに『藤源郷(とうげんきょう)』とつけた。
天から下がる咲き乱れる藤と一頭の白い馬。

十三歳で大賞を受賞してしまった。最年少の受賞だと。
父はとても喜んでくれた。
「さすがはお父さんの子だ!」
わたしはそれだけで嬉しかった。

父が『絵を持っていきたい』と言った。
自力で動くことはもうできず、痩せ細り寝たきりになってしまった父。
わたしは大賞を辞退して、絵を父のそばにおいた。

父はしばらくして亡くなった。
息をひきとる間際、『この絵は今度は神様に自慢するよ』と言った。

絵は父と一緒に荼毘に付した。

父が亡くなってから、保険金や財産を目当てにした父の親戚が押し寄せた。
わたしが一人の時を狙って押しかける人や、学校帰りを狙って待ち伏せる人も現れ、危険を感じた母は、わたしと妹を連れて海外に逃げた。


日本に帰ってきてからしばらくは穏やかな生活だったが、十五歳の時に母が倒れ、わたしは高校を辞めて意識の戻らぬ母を介護した。

妹を失った。
とてもかわいい妹を。

わたしから妹を奪っていった人は、妹の本当の祖母にあたる人だった。
「母親の介護をしながらこの子を育てられるのか」
そう言われ、わたしは返事ができなかった。

妹の祖母という人の話に、『父の妹の子供』だと聞いていた話は覆された。

父とよその女性にできた子供━━━

だが、どうでもよかった。そんなこと。
生まれて間もない頃からわたしの妹になった子。
母と二人で大切に育ててきた子。

母が何を思ったのかはわたしにはわからないけれど、母も自分が産んだ子供のように大切にかわいがっていたのだから、わたしにはそれだけが真実だった。


妹を騙してタクシーに乗せた。
小さな手を振ってくれている。

さよなら、かわいいわたしの妹。
たくさんかわいがってもらってね。
どうか、幸せに、幸せになってね。
さよなら、さよなら、さよなら・・・。


胸がはり裂けそうな痛みに襲われた。


死んでしまいたい。


けれどわたしがいなくなったら母はどうなる?

『どんなことがあっても自ら命を絶ってはいけない』

母の教えがあった。

母の教えは守らなくては━━━━

高い霊能力を持った、尊敬する偉大な母の。

母の意識だって戻るかもしれない。

それだけを心の糧にして・・。



三年後、母が亡くなった。意識は戻らぬままで。
妹もいない。
わたしは孤独になった。

十八歳だった。

世界中にただ独り。

わたしは泣いた。大声で泣いた。

わたしのそばには誰もいない。

いつになったら死ねるだろう?

いつになったら神様はわたしの命を奪ってくれるだろう?



かつて父の入院していた精神病院で、お世話になった看護師長さんが母の死を知りお線香をあげにきてくれた。わたしは看護師長さんの計らいで、看護師助手として精神科開放病棟で働くことになった。
学歴は問わないと言われた。

病棟では母の介護をしていたことが役にたった。

父の見舞いに訪れた子供だったわたしのことを覚えていてくれた患者さんもいて、仲良くなれた。

わたしは人間関係にも少し自信が持てるようになった。

いろんな患者さんと接するようになり、彼らは特定の分野で非常に頭がよいのだと知った。そして、何よりも優しい。
仕事に不慣れなわたしを気遣ってもくれた。
彼らは退院できる状態にも関わらず、帰る場所がない人達だった。

わたしは自分を省みた。
わたしには帰る場所があった。
自分の家があった。母が残してくれた財産があった。
わたしは自分の幸運を気づかされた。
目が覚めた気がした。

仕事中の夕方。
ひとりの患者さんが叫んだ。
「虹だ!」
ホールの窓、東の空に大きな虹。
患者も看護師も介護士も医師も、みんなみんな集まって大きな虹を見た。

━━━━なんて美しい

そうだ。

世界は美しい。

山も、海も、虹がかかるこの空も。

美しさに心が満たされた瞬間に━━━━━

ああ、わたしはこれから亡くなった両親とわたしをかわいがってくれた順さんを弔って生きていこう。
ただひたすら弔って生きていこう。祈りを捧げていこう。

生きていく目標ができた。

病院を退職し、いくつかのアルバイトを経験し、二十一歳のわたしは花屋に勤めることになった。
この花屋を選んだのは、学歴不問で就職後の保証人も不要というのが最大の理由だった。

なんだかヤクザみたいな雰囲気を醸しだしている花屋の社長は、面接でわたしを見て「明日から来れるか」と訊いた。
すんなりと就職ができた。
なんとなく目がイヤらしいが、年配の女性がニコニコと「明日からかい?人が足りてないから助かるよ」と、言った。
この人はいい人そう。
わたしは「よろしくお願いします」とお辞儀をした。

勤務は支店勤務と週二回の本店勤務。



そうして仕事に慣れてきた頃、

わたしは『惣領貴之』という男性と出会うことになる。

互いに実の父娘おやこと知らぬまま━━━━━



時間が、軽やかに小さなステップを踏んでわたしに近づいてくる。


わたしの幸せな時間が踊り始めるのだ。













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