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08 「デートとプレゼント」

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エントランスが混んでいたが総一郎が事前にチケット購入を済ませていたのでスムーズに入場できた。
人気のデートスポットである水族館に有名なCROW社長と秘書二人、先日報道されたイケメン三人が居るだけで十分に目を引く。
更にはその三人が手を繋ぎイチャついているのだ。


「イルカショーの時間に来れてよかったな」
入口付近ではさほど混んでいなかったが進むにつれ、イケメン三人がいる!と人垣が出来て順序よく回ろうにも身動き取れなくなって行った。
仕方なくスタッフを呼んで解散するようにとアナウンスが流れたが。
どこに行ってもハリウッド俳優宛ら目立つ。
「わざわざVIP席にしなくても良かったんじゃない?」
「ここにしないとゆっくり見れないし、その服も濡れずに近くで見る事なんてVIP席じゃないと出来ないよ」

ショープールにVIP席が設けてある水族館は数少ない。場所によっては上から見下ろす事のできる席もあるらしいがこの水族館は一般客席の左端にある。
VIP席と言っても水が掛からないように他の席よりアクリル板が数メートル長く椅子が柔らかい程度で手が出せない値段の席という訳でもない。

「貰ったばかりの服が濡れるのは困る」
巽を挟むように席に座って手を握り合った。
隔絶されている訳では無いので一般客らから丸見えだ。


後にSNSで「まだショーが始まってないのにやり取りが可愛くて癒された」といくつも投稿が為されてまた話題となるのだが三人はそれでも特に気にも止めなかった。


「イルカショー久々に見たけど凄い迫力だった」
「水は掛からないとは言え目の前で素振りされたらびっくりするな(笑)」
「メス2匹は愁弥に猛アピールしてたな」
ん?1人だけ感想が変じゃないか?
と思いつつも流してイルカショーの感想を話し合いながら触れ合いのできる水槽エリアへ向かった。


「前来た時はネコザメって居なかった気がするんだけど…気持ちいいね」
「同じネコでもやっぱさくらの方が気持ちいいけどな」
「これ…食べれるのだろうか」
またしても少しズレた意見を出してくる。
「腹減ってんのか?俺もだ!」
ニカッと笑う愁弥には同意したくないが頷く。
「昼食は半田さんの料理じゃなかったしやっぱ食べた気がしなかった」
「ははは確かに~このエリアで順序的には最後みたいだし少し早いけど帰る?俺もお腹減ってきたし」
広さのある水族館で人垣も時々出来てはそれを避けるのに凄く体力を使った。
もういいだろうと車を手配する。


「楽しめましたか?」
門が開く時に玄関にチャイムがなる様になっており設定された人物用の音色に半田は玄関まで出迎え扉を開く。
「楽しかったけどお腹すいちゃって早めに帰ってきたんだけど」
「あと2品だけなので直ぐにお出しできますよ」
キッチンに戻ると言って一旦別れ、巽達三人は洗面所へと向かう
「夕飯なんだろうな?」
「さっき外で揚げ物の匂いした」
「ごま油の匂いもしてたね」
夕飯のメニューはなんだろうと美味しいことは確かでお腹がグーグーと鳴った。

手を洗い終えてそれぞれ自室のクローゼットへと着替えに戻った。

巽と寝ることになってから半同居から今では同棲へと変わり、愁弥と総一郎それぞれの部屋は元々あったがクローゼットの中身は増えた。

二階にある三人の部屋の配置は階段横に巽の部屋、その横の角部屋に愁弥、向かいに総一郎となっていて各々の部屋は広い。

一部屋で3人家族が賃貸で住むとしたら、さほど窮屈に感じない程の広さはあるだろう。

半田の部屋は一階にあり二階にある部屋の半分ほどの広さである。


セッティングするまでリビングに居てくれと言われているのでそこで暫しさくらと戯れて暇を潰す。

「お!ジャンプ力上がったな!」
「お土産気に入ってくれてるみたいで良かった」
「猫用クッキーも美味しそうに食べてくれてたね」

釣竿の糸先に魚が付いているおもちゃ、これはアタッチメントがいくつも別売りで置いてあって全種類買ってきてしまった。どれが気に入るか分からないので致し方ないだろう。

猫用クッキーはまだ数日前に発売されたばかりの新商品でマグロ味とエビ味があった。これも勿論二種類とも買ってきた。

さくらも遊びに飽き始めた頃に丁度半田が準備できたと呼びに来た。
ダイニングへ移動するとぱっと見ただけでも豪華で華やかな料理が机いっぱいに並んでいて内装も飾り付けられていた。
「すごい…」
「半田さんやりすぎじゃないですか」
「巽くんが元気になってくれたから力入り過ぎちゃったかも」
「何でもいいだろ?祝う気持ちってやつだ」
「「「改めておめでとう」」」
「嬉しい!3人ともありがとう!」
「俺からのプレゼントは後でな」
「そうだった!それも楽しみにしてるね」
なにか企んでいそうだなと思いはしたものの目の前の食事に気を取られて直ぐに霧散する。
「美味しい!この『鴨コンフィ』前にじいちゃんと食べに行った所のより美味しい。流石半田さん」
「巽くん、これも美味しいよ」
ほら、とフォークに刺さっている物がなにか分からないが差し出されたので口を開いて咀嚼する。
「!!なにこれ!?」
「ははっ!」
「なんだ?」
「チーズだよ」
「うっっっまぁ!」
変なものでも食べさせたのかと愁弥は半田へ疑惑の目を向けたが、逆に巽の好物を差し出していたようだ。
半田によればこのチーズは現地でしか作ることが出来ず、輸入するしかない代物だそうだ。
希少品の為、輸入ルートは限られているが社長である巽が気づかなかったとは?と直後半田が鴻からのプレゼントだと告げれば全員が納得する。
毎回だが謎すぎる。


男4人で平らげるには少々キツイ量かと思われたが愁弥が綺麗に食べ尽くしたので残飯は出なかった。
ちなみにさくらにも「来てくれてありがとう」と感謝を込めて小さな身体に影響のない程度の魚と肉を出した。
いつもより食いつきっぷりが良かった。



「私は片付けしてきます。お風呂も準備できてるのでこちらのことは気にせずどうぞ」
手伝わなくていいって事だろう。追い出されたのでさくらを連れて食休みにリビングへ戻ってきた。

「デートどうだった?」
「疲れたよ。でも楽しかった」
「また休み取れたら今度は人気の少ない所に行こうか」
プレゼントを取ってくると総一郎が部屋を出ていく。
「そういえば花見に行った時は撮られまくってたらしいけど、今日も撮られてるのかな…」
「どうした?今まで気にしたこともなかっただろ?」
「…フリとは言えデートだったし、それをネタにされるのは嫌だよ」
「なるほどな。プライベートは遠慮して欲しいな。ましてや一応俺ら一般人だしな。俳優とかじゃ無いんだから」

以前から撮られ慣れていたので麻痺していたがただの社会人なのだ。辞めて欲しいと思うのは普通だろう。
「(鴻さんに告げ口しておくか)」
巽が気にしなかったので放置していたが少しでも気になるというのなら排除行動に出てくれるだろう頼もしい友人へ連絡する事を決めた。

「巽、おめでとう」
「わ!?」
リビングには扉を設置していないので出入口に背を向けていた巽は総一郎が戻ってきていたことに気づかなかった。
「ごめん、びっくりした?どうぞ」
渡されたずっしり重い黒の紙袋には『Bourgogneブルゴーニュ』と金で箔押しされていて中を覗くと更に黒い箱。
そちらには『DearTatsumi   ROMANEE CONTI』と書かれていた。
「え!これっ」
ばっと顔を上げて総一郎と目が合った。
「当たり年のは手に入らなくて悪いけどね」
「いや!それでも高かったでしょ!?いいの??」
「巽のために取り寄せたんだから受け取ってくれないと」
返品不可。と付け加えておく。
「…ねぇこれ今開けても良いかな?」
「巽にあげたものだから好きにしていいよ」
「じゃあ開ける!みんなで飲もう?」
首を少し傾けておねだりする姿は子犬のようで2人は本当に28になったのか疑いたくなってきた。
「半田さんも呼んでくるね」
パタパタとすぐ隣のキッチンへ駆けて行って何やら騒いでる声が聞こえて微笑む。
「お前俺より3倍近く高いもん出すなよ…」
「可愛い顔見れたんだからいいだろ?それに多分酒飲んでも今日は…」
「あぁ。そうだな…」

空気が重くなりかけたところにリビングの入口付近で巽が声をかけに来た事で空気が戻る。
「半田さんがおツマミ作ってくれるらしいから俺はその間風呂入ってくるね!お酒飲むと眠くなるし」
と告げるとさっさと浴室へと向かった。


風呂上がりにそのまま半田を迎えに行ったらしい巽が戻って来た。
「総一郎くんごめんね、私まで」
グラスと3種類のツマミを持ってきた半田には感謝しかない。
「いいんですよ、みんなで飲もうって言うだろう事はお見通しで買ったんですから」

当たり年ではないと言っていたがロマネ・コンティはやはり他のワインより隔絶された美味さがある。
半田の作ったツマミもワインの邪魔をしない塩梅で作られていた。きっと初めて飲むわけではないのだろう。

美酒に程よく酔い始めた所でお開きにしよう、と半田により号令がかかり三人は就寝の為に巽の部屋へ向かった。
いつもならさくらも着いて来るのだがお腹いっぱいなのかソファーで寝ていたので今夜は半田のところで過ごすだろうと起こさずにそっとしておいた。
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