誰にも触れられたくないトコロ 【完結】

うなきのこ

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16 「恋人」

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「──ぁ…」
いつから居たのか
は何か言っただろうか
触られた感触がしたのはもしかしてこの2人だったのか
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだろう顔を見られた上に怯える素振りも見せたかもしれない

身体を起こしてそれらの疑問を問いかけようとしたが喉を傷めている状態では声もまともに出せなくて咳き込み身体を丸めると、すかさず誰かが背中に手を添えてさするが今はそれすらも気持ち悪く感じてしまう。
「っ…ゴホッゴホッ」
「大丈夫か…?」
起こした身体を支えるようにしていたのは愁弥だったが総一郎がその手を掴み巽の身体から手を退かした。
「愁弥ちょっと手を離してて
巽、俺もちょっと触ってもいい?」
顔を上げた巽は頷き総一郎が触れるが愁弥が触った時と同様に手を弾かれることは無く、けれどなにかに耐えるような仕草をした巽から手を離す。
「ごめんね。俺達2人は触らない方がいいみたいだ。悪いけど心配だから一応半田さんにも触れてもらうよ?」
戸惑い耐え怯える巽の了承を再び得ると半田が触れるが何故か安心した様子を見せた。
「巽くん?私は大丈夫なんですか?」
何が?と言いたげな表情をする巽は自覚がないのか半田に触れられても問題ないらしい。
「…半田さん、俺達は無理そうなのでお願いしてもいいですか?」
「頼む、半田さん」
「そう…ですね。分かりました。何かあればお呼びします」

半田に預けて去っていく2人をぼんやりと眺めていた巽へ改めて声をかける。
「巽くん、本当に私が触れても怖くないですか?」
「はぃ」
「まだ喋りづらいんですね。これから質問するかもしれないですが頷くか首を振るかで答えてくださいね

それでは、怖い夢を見た後で寝れないでしょうし、面白い話をしましょうか」

巽の震えた手に半田はそっと自身の手を重ねて安心させるように優しく握り込み話を聞かせた。


───      ───


本当はそばに居てあげたい2人は半田に巽を預け、取り敢えず部屋を出る。
今までなら魘された時は自分たちが巽の手を握り深呼吸をさせていたら落ち着いていたのだが。
さくらに起こされた後に酷く狼狽し咳き込む巽を愁弥が背を摩って落ち着かせようとするが失敗し、総一郎も同じように触るがそれも怯えられてしまった。

「なぁこれまで魘されてた時と違ったよな?」
「そうだな…」
あれだけの拒否反応を示されてはしばらく部屋に入る事も巽に触る事も出来ないかもしれない。
そう覚悟を決める2人は巽への接し方を今後どうするかの話し合いをしにリビングへと向かった。


───     ───


「誕生日ちゃんと祝うつもりだったのに寝込んじゃってごめん。これ、遅くなったけど誕生日プレゼント使ってね」
巽が風邪を拗らせている数日の間に愁弥の誕生日がすぎてしまい、今更だが用意していたプレゼントを渡すと早速包みを豪快に破き中身を確認した。
「ん?これ…」
「先に俺が愁くんのプレゼント買ってたんだけどね、その後に総くんが迷ってるって言ってたからオススメしておいたよ」
謝罪の言葉と共に渡したプレゼントの中身は総一郎からのプレゼントと同じQDクーデというアウトドアブランドの商品だった。
「なんだよ、全然迷ってなかったんじゃねーか…」
「同じ商品選んでしまわないかドキドキだったな」
1週間ほど前の深夜のやり取りは誘導だったらしい。
はははと笑う総一郎は悪びれず「してやったり」とドヤ顔だった。
何年経ってもこうした突然の思いつきのようなものは楽しい。
自分のために考えてくれた些細なサプライズに嬉しくなった愁弥は9月の総一郎の誕生日にもサプライズを持ちかけることを企んだ。
「ありがとな、使わせてもらうよ」
ついいつものように手を伸ばして巽の頭を撫でようとしたが慌てて手を引っこめる。
巽は「半田さんの面白い話のおかげでもう大丈夫」だと言っていたがまた跳ね除けられたらと思うと臆病になってしまう。
「…なんでお前は気にしないんだよ」
「気にして無くはないけど巽が恋人になろうって告白してくれて晴れて正式な恋人に成れたんだからイチャつくのは当たり前だろ?」
そう言って総一郎は巽と恋人繋ぎをしてる手を愁弥の前に突き出す。
「ふふ、そうだよ愁くん。何となく俺の事を心配しすぎで構ってくれなくなりそうなのは総くんだと思ってたんだけど違ったんだね」


体調が全回復してすぐ、巽から「フリじゃなくて、正式に俺と付き合ってください」と告白された。
勿論2人は即返事をしたが寝込んでいた間のことを思うと素直に喜んでいいものかと悩まずには居られなかった。
巽の話によれば半田からの面白い話とやらで正式に付き合うことへの後押しになったらしい。
どんな内容だったのかは教えてくれない巽だが2人が触れてもあの時のように怯えるでもなく、今までと同じように可愛らしい笑顔を向けた。

それを受けて2人も改めて告白をした。

「巽と会った時から好きになってたんだと思う。でも友達の好きだと思っててね。告白する勇気が出なくてその後もあったし言えなくて」

「俺も好きだと自覚したのは結構後だったな。
総一郎と2人でお前を支えていこうって決めてたんだ。お前がせめて…いや、お前に恋人ができるまでと思ってた。

巽も俺たちのことを好きになっていたなんて告白されるまで思ってもなかったぞ?
それも半田さんのおかげなのがちょっと悔しいな」

「勇気を持って告白してくれてありがとう。俺達もフリだなんて言い出さなきゃ良かったな?巽に先に告白されるとは。
臆病者だって言ってくれていいんだよ」

「ううん、全然!
俺の事好きでいてくれただなんて嬉しいよ!
今まで支えてくれてありがとうね。
これからもよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」


───     ───


面白い話ってなんだろう?と安心させるような手の温もりを感じながら「どんな話?」と聞く代わりに首を傾ける。
「私と奥さんのことです。彼女は私の幼なじみです。前にもしかしたら写真見せたかもしれないですけど、どうでしょう?」
覚えがなかったので首を振った
「いつも持ち歩いてるのでお見せしますよ。…嫁さん自慢みたいになりますね…美人でしょう?」
そう言ってスマホを取り出すとスマホカバーを外して見せてくれる。
そこにはプリクラで撮ったらしい写真が並べられていた。
ちょっと引いた。
同時にここまでするほど好きなんだなと改める。

数に圧倒されてしまったが、横に写っている半田さんも今と差程変わらないので奥さんも元々美人だろうことが伺える。
「最初はただの幼馴染みとして好きだったんですよ
でも高校生になってすぐの時に彼女が他の男に告白されている所を見かけて飛び出しちゃって『こいつは俺の彼女だから!』てつい言ってしまって。でも彼女が『そういうことなのでごめんなさい』と
その告白してきた男が去った後に彼女から『やっと自覚してくれたのね?私貴方のことが好きよ』て言われてその時に自覚したんです
『俺もずっと好きだった』って。
そこから付き合いが始まって20歳の時に結婚したんです。」
こんな美人と付き合う予定はなかったって凄いな…と関心の方に偏る巽は半田の話を静かに聞く
「幼馴染みだった頃から苦難も飛び越え、楽しいこともだいたい一緒で時には喧嘩もして、気心のしれた相手。
長年付き合ってきたからこそ補える相手は彼女しかいないだろうなと
彼女が他の男と幸せにいるところなんて想像できなくてしたくなくて、私と結婚してくれて良かったなと思ってます」
幸せそうな顔で話す半田の顔をじっと見つめ自分にもそんな相手ができるだろうかと考えていると2人の顔がチラつく。
同じ幼馴染みの話だからだろうか
2人がいてくれると安心できて楽しくて自身に起きた事も理解してくれた上で恋人ごっこをしてトラウマの克服を手伝ってくれようとする彼ら。
トラウマの克服だなんてあの二人じゃなきゃ頼まなかったと思う。
拒んでしまったことは申し訳ないけど、もう大丈夫だ。間違えない。
アイツらとは全然違うあの手で塗り替えて欲しいと思ってしまい、途端恥ずかしくなった。
まだ怖いけど触って欲しい。
アイツらの手の感触なんて忘れるくらいに。
そう思うと克服なんてすぐそこだろうなと思えてくる。
「巽くんもあの二人が他の人と付き合ってることなんて想像できないんじゃないですか?
支えてくれる相手は早々いないですからね、首輪は着いてますしあとはリードつけて逃さないようにしないと」
少し腹黒い一面がちらっと見えた気もするが気付かないふりをする。
己の知らなかった2人への好意は半田にはバレていたのかもしれない。
後押しされたような気がして頷いた。
「体調が戻って告白したら、是非結果報告してください。赤飯炊きますよ^^*」
それは少々恥ずかしいがその思いが嬉しかった。

「ちなみに鴻さんは秋代さんに9回も振られたそうですよ?」
あははと笑った半田はとても愉快気で、こんな黒い所もあるだなんて初めて知った巽だった。

「(え、面白い話ってこれだったのかな…)」


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