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五章 五節の柏餅とザンギ。子供の日は子供のリクエストを
(6)
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「これは?」
透明な水の上に、菖蒲の若菜が一枚差してある。
「菖蒲酒です」
「これがさっき兎、が話してくれた菖蒲酒……」
「香りの強い菖蒲の根の部分を薄くスライスして日本酒を注ぎます。それから一時間から一日、好みで時間を調整し、最後にザルで裏ごしして完成なんです」
「案外簡単なんですね」
いただきます、とグラスを手に取って口に寄せると、日本酒の香りと混じった菖蒲の香りが鼻をくすぐる。
「すうっ、とした爽やかで優しい香り……」
「僕はほんのり香りがつく方が好きなので、あまり長くお酒には漬けておかないんですが、気に入ってもらえてよかったです」
「選ばれた『早乙女』達は、これを飲んで夜を過ごしたんですね。でも、いい歳の私が飲んでいいんですか?」
なんて笑ったら、辰巳が困った顔をして笑う。
「何言っているんですか。それを言ったら男の僕だって飲んではいけませんよ」
「あ、そうですよね」
笑い合い、辰巳が話を続ける。
「菖蒲の根は「菖蒲根」として漢方薬にも利用されています。鎮痛や去痰、血圧を下げる作用があるんです。他にも消化不良や胃炎、腹痛や咳の症状にも用いられることがあるそうです」
「なかなか万能ですね。私の地元ではあまりそういう行事は行わなかったし、漢方も習っていないので勉強になります」
「菜緒さんのご実家は北の方?」
「はい、北海道です。今の時期だと菖蒲の花はまだ咲いてないかな……。春と夏が短いので五、六月にかけて芽が息吹いて一気に花が咲くんです」
「地域ごとに特徴があって面白いですよね。食文化もそうですけれど――柏餅は、菜緒さんの実家では食べました?」
「いいえ、うちでは『べこ餅』というのを食べてました」
「べこ? ……牛餅?」
辰巳が目を見開く。
「いえ、名前のルーツは色々あるそうですけれど……べこ餅って黒砂糖とシンプルなお餅を合わせて葉っぱの形にしてるんです。ちょっと待っててください。画像……」
菜緒はスマホを取り出し、べこ餅の画像を辰巳に見せる。
さすがにスマホには驚かなかった辰巳なのに、べこ餅の画像には目を見張っていた。
「黒砂糖を使って作っていたことからカットする前、茶色の牛の種類に似ていたから『べこ餅』ともつけられたと考えられる、とかなので、ハッキリしていないんですよね」
「面白いですね。今度おやつに作ってみます」
「抹茶や餡子入りもあるし、黒砂糖が甘すぎるという人はココアを使う人もいますし、それと――こうやって他の色を混ぜてお花を作ったり、人の顔を作ったりとバリエーションも」
と他の画像を開いて見せる。
見事に菖蒲や桜を作ったべこ餅や、『お母さん』と言う題材で母親の顔を作ったべこ餅、可愛い動物をかたどったものなど、色々出てくる。
「そうですね……とりあえずシンプルに黒砂糖で作ってみます。まずは作って慣れないと」
と辰巳は、考えながら口を開く。
頭の中でどう作るか模索しているのだろう。作り方の説明の部分を真剣な眼差しで読んでいる。
「辰巳さん、タブレットとかお持ちですか?」
「いえ……どういう物かは知っていますが、持ってないんです。というか、スマホも持っていません」
「スマホよりは大きいですし、料理も色々検索できるので、料理を作る辰巳さんなら、一つ持っていて損はないと思います」
「うーん、そんな必要性を感じてなくて。料理を調べるなら、今は本で十分かなと」
そう答える辰巳は菜緒の案にちょっと困った様子だった。
余計なお節介だったかな、と菜緒は「そうですか」と愛想笑いをした。
それに気になることが発生している。
「……それより」
と同時声を上げ、子供達に目を向ける。
――食べ始めてから大人しすぎないか?
見て、菜緒も辰巳も息を飲んだ。
ザンギも唐揚げは皿に一種類一個ずつしか残っていなくて、子供五人はお腹いっぱいに食べた満足感にお腹を抱えて横になっていた。
「兎、鯛、犬、ウソ、鼠……オニギリやお野菜を食べないで……揚げ物ばかり……食べ過ぎです!!」
辰巳の怒った声を初めて聞いた菜緒だった。
透明な水の上に、菖蒲の若菜が一枚差してある。
「菖蒲酒です」
「これがさっき兎、が話してくれた菖蒲酒……」
「香りの強い菖蒲の根の部分を薄くスライスして日本酒を注ぎます。それから一時間から一日、好みで時間を調整し、最後にザルで裏ごしして完成なんです」
「案外簡単なんですね」
いただきます、とグラスを手に取って口に寄せると、日本酒の香りと混じった菖蒲の香りが鼻をくすぐる。
「すうっ、とした爽やかで優しい香り……」
「僕はほんのり香りがつく方が好きなので、あまり長くお酒には漬けておかないんですが、気に入ってもらえてよかったです」
「選ばれた『早乙女』達は、これを飲んで夜を過ごしたんですね。でも、いい歳の私が飲んでいいんですか?」
なんて笑ったら、辰巳が困った顔をして笑う。
「何言っているんですか。それを言ったら男の僕だって飲んではいけませんよ」
「あ、そうですよね」
笑い合い、辰巳が話を続ける。
「菖蒲の根は「菖蒲根」として漢方薬にも利用されています。鎮痛や去痰、血圧を下げる作用があるんです。他にも消化不良や胃炎、腹痛や咳の症状にも用いられることがあるそうです」
「なかなか万能ですね。私の地元ではあまりそういう行事は行わなかったし、漢方も習っていないので勉強になります」
「菜緒さんのご実家は北の方?」
「はい、北海道です。今の時期だと菖蒲の花はまだ咲いてないかな……。春と夏が短いので五、六月にかけて芽が息吹いて一気に花が咲くんです」
「地域ごとに特徴があって面白いですよね。食文化もそうですけれど――柏餅は、菜緒さんの実家では食べました?」
「いいえ、うちでは『べこ餅』というのを食べてました」
「べこ? ……牛餅?」
辰巳が目を見開く。
「いえ、名前のルーツは色々あるそうですけれど……べこ餅って黒砂糖とシンプルなお餅を合わせて葉っぱの形にしてるんです。ちょっと待っててください。画像……」
菜緒はスマホを取り出し、べこ餅の画像を辰巳に見せる。
さすがにスマホには驚かなかった辰巳なのに、べこ餅の画像には目を見張っていた。
「黒砂糖を使って作っていたことからカットする前、茶色の牛の種類に似ていたから『べこ餅』ともつけられたと考えられる、とかなので、ハッキリしていないんですよね」
「面白いですね。今度おやつに作ってみます」
「抹茶や餡子入りもあるし、黒砂糖が甘すぎるという人はココアを使う人もいますし、それと――こうやって他の色を混ぜてお花を作ったり、人の顔を作ったりとバリエーションも」
と他の画像を開いて見せる。
見事に菖蒲や桜を作ったべこ餅や、『お母さん』と言う題材で母親の顔を作ったべこ餅、可愛い動物をかたどったものなど、色々出てくる。
「そうですね……とりあえずシンプルに黒砂糖で作ってみます。まずは作って慣れないと」
と辰巳は、考えながら口を開く。
頭の中でどう作るか模索しているのだろう。作り方の説明の部分を真剣な眼差しで読んでいる。
「辰巳さん、タブレットとかお持ちですか?」
「いえ……どういう物かは知っていますが、持ってないんです。というか、スマホも持っていません」
「スマホよりは大きいですし、料理も色々検索できるので、料理を作る辰巳さんなら、一つ持っていて損はないと思います」
「うーん、そんな必要性を感じてなくて。料理を調べるなら、今は本で十分かなと」
そう答える辰巳は菜緒の案にちょっと困った様子だった。
余計なお節介だったかな、と菜緒は「そうですか」と愛想笑いをした。
それに気になることが発生している。
「……それより」
と同時声を上げ、子供達に目を向ける。
――食べ始めてから大人しすぎないか?
見て、菜緒も辰巳も息を飲んだ。
ザンギも唐揚げは皿に一種類一個ずつしか残っていなくて、子供五人はお腹いっぱいに食べた満足感にお腹を抱えて横になっていた。
「兎、鯛、犬、ウソ、鼠……オニギリやお野菜を食べないで……揚げ物ばかり……食べ過ぎです!!」
辰巳の怒った声を初めて聞いた菜緒だった。
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