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八章 再びの開門、菜緒思い出す。そして激怒。
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「………………」
「じゃあ、行こうか」
ポカンと口を開けて出現した一戸建てを見つめている菜緒に、院長は当たり前のように促す。「院長」
「何?」
「……あやかしじゃありませんよね……?」
「ええ、あやかしじゃあないだわ、ごめんね。黙ってて」
院長はヘラリ、と笑う。
笑って誤魔化したな――菜緒は、冷や汗をハンカチで拭う。
「いやぁ、だって神様系だと、あやかしより余計に怖がるかなーって思って言えなかったのよねぇ。でも、思ったより落ち着いてるじゃない? さすが指名されただけあるわ」
「ちなみに誰に指名されたんでしょうか?」
「七福神の中の一人」
――どこかで聞いたような……
菜緒は改めて、姿を現した木造平屋の住宅を見つめる。
『えびす様』
『ここね、ついていると価値があるんだって』
『価値?』
『百点満点で味がいいんだって。美味しいの』
睫も瞼もない――鯛。
『駄目!』
『「タイ」は「鯛」なの! 「くん」付けや「ちゃん」付けなんてしちゃ駄目! そうしたら『鯛』はあなたのケンゾクになってしまうんだからね! そっちは親切で呼ぶんだろうけど、勝手に呼び名を変えたら迷惑なの!』
兎のようなヘアスタイルをして、しっかりとしたお姉さんタイプの――兎
『お姉ちゃん、ありがとう!』
『ありがとうございます』
『ありがとうございまちゅう』
雪見障子のガラス越しに見えなかった――――犬、カラス、鼠
「鯛、兎、犬、カラス、鼠……そして」
なぜか懐かしさを感じる平屋の木造住宅の門に、立てかけられた表札の名。
「藤村辰巳……」
脳裏に浮かんでは巡る光景達に、菜緒の精神はあっさりと受け入れていく。
藤の香りを空気に漂わせているような色合いの風景は、かつての辰巳の住まう神社だ。
後ろの山は藤の満開の時期で、山全体が紫色に染まっている。
敬い、親しみの念が籠もる一帯に子供達は遊び、それを見守っているのは藤色の狩衣を纏う龍神である辰巳。
いつも笑みを湛えてた清廉で美麗な顔。瞳は子供を慈しむ濃紫色。
『藤村の龍神様』
ダムの底に沈んだ村の龍神。
遷座の際に儀式に失敗し、移ることが出来なくて、社なしになってしまった神――
『よかった。胃がビックリするかもしれませんから。少しずつゆっくり食べてください』
『いえ、僕の立場からしたら、あなたのような人を怖がらせるなんてやってはいけないことなんです――まだまだですね、僕も』
『心配なんですよ。もし子供達の身体や心に良くないものが入っていたらと思うと、夜も眠れなくなりそうです』
『菜緒さん、ごめんなさい』
藤の香りが漂う。爽やかな和の香りの。
辰巳さんのように。
『上位の神様達は菜緒さんが関わることを望んでいます。でも僕は、人間社会にずっといて普通に生きてきた貴女を巻き込むことに賛成できないんです。いくら神様の御心だとしても……』
「――あっ!」
ボンヤリとしていた記憶が全て鮮明になり、菜緒は思わず声を上げた。
院長が驚いて肩を竦める。
「急にどうしたの? 姉崎さん」
「……いえ、なんでも。不意に思い出したことがありまして。驚かせてすみません」
あはは、と笑って誤魔化す。
クリアになった頭は、今までの霞がかっていた顔の一つ一つを思い浮かばせている。
たった数週間であったが、自分の記憶に張られた薄いベールが全て取り払われたのだ。
同時、菜緒は怒りが湧き上がる。
(勝手に私の記憶の一部分を塗ったわね!)
これは消した、というより塗った、というほうが表現として的確だろう。
しかし――神様だろうけど、これは許していいものではないと思う。
(……これは物申すべきだわ)
「院長、行きましょう」
「覚悟は決まったようね。じゃあ、入りましょう」
『関わる覚悟』と思い込んだ院長は、菜緒を促すと、二人門から入った。
「じゃあ、行こうか」
ポカンと口を開けて出現した一戸建てを見つめている菜緒に、院長は当たり前のように促す。「院長」
「何?」
「……あやかしじゃありませんよね……?」
「ええ、あやかしじゃあないだわ、ごめんね。黙ってて」
院長はヘラリ、と笑う。
笑って誤魔化したな――菜緒は、冷や汗をハンカチで拭う。
「いやぁ、だって神様系だと、あやかしより余計に怖がるかなーって思って言えなかったのよねぇ。でも、思ったより落ち着いてるじゃない? さすが指名されただけあるわ」
「ちなみに誰に指名されたんでしょうか?」
「七福神の中の一人」
――どこかで聞いたような……
菜緒は改めて、姿を現した木造平屋の住宅を見つめる。
『えびす様』
『ここね、ついていると価値があるんだって』
『価値?』
『百点満点で味がいいんだって。美味しいの』
睫も瞼もない――鯛。
『駄目!』
『「タイ」は「鯛」なの! 「くん」付けや「ちゃん」付けなんてしちゃ駄目! そうしたら『鯛』はあなたのケンゾクになってしまうんだからね! そっちは親切で呼ぶんだろうけど、勝手に呼び名を変えたら迷惑なの!』
兎のようなヘアスタイルをして、しっかりとしたお姉さんタイプの――兎
『お姉ちゃん、ありがとう!』
『ありがとうございます』
『ありがとうございまちゅう』
雪見障子のガラス越しに見えなかった――――犬、カラス、鼠
「鯛、兎、犬、カラス、鼠……そして」
なぜか懐かしさを感じる平屋の木造住宅の門に、立てかけられた表札の名。
「藤村辰巳……」
脳裏に浮かんでは巡る光景達に、菜緒の精神はあっさりと受け入れていく。
藤の香りを空気に漂わせているような色合いの風景は、かつての辰巳の住まう神社だ。
後ろの山は藤の満開の時期で、山全体が紫色に染まっている。
敬い、親しみの念が籠もる一帯に子供達は遊び、それを見守っているのは藤色の狩衣を纏う龍神である辰巳。
いつも笑みを湛えてた清廉で美麗な顔。瞳は子供を慈しむ濃紫色。
『藤村の龍神様』
ダムの底に沈んだ村の龍神。
遷座の際に儀式に失敗し、移ることが出来なくて、社なしになってしまった神――
『よかった。胃がビックリするかもしれませんから。少しずつゆっくり食べてください』
『いえ、僕の立場からしたら、あなたのような人を怖がらせるなんてやってはいけないことなんです――まだまだですね、僕も』
『心配なんですよ。もし子供達の身体や心に良くないものが入っていたらと思うと、夜も眠れなくなりそうです』
『菜緒さん、ごめんなさい』
藤の香りが漂う。爽やかな和の香りの。
辰巳さんのように。
『上位の神様達は菜緒さんが関わることを望んでいます。でも僕は、人間社会にずっといて普通に生きてきた貴女を巻き込むことに賛成できないんです。いくら神様の御心だとしても……』
「――あっ!」
ボンヤリとしていた記憶が全て鮮明になり、菜緒は思わず声を上げた。
院長が驚いて肩を竦める。
「急にどうしたの? 姉崎さん」
「……いえ、なんでも。不意に思い出したことがありまして。驚かせてすみません」
あはは、と笑って誤魔化す。
クリアになった頭は、今までの霞がかっていた顔の一つ一つを思い浮かばせている。
たった数週間であったが、自分の記憶に張られた薄いベールが全て取り払われたのだ。
同時、菜緒は怒りが湧き上がる。
(勝手に私の記憶の一部分を塗ったわね!)
これは消した、というより塗った、というほうが表現として的確だろう。
しかし――神様だろうけど、これは許していいものではないと思う。
(……これは物申すべきだわ)
「院長、行きましょう」
「覚悟は決まったようね。じゃあ、入りましょう」
『関わる覚悟』と思い込んだ院長は、菜緒を促すと、二人門から入った。
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