34 / 40
八章 再びの開門、菜緒思い出す。そして激怒。
(5)
しおりを挟む
「あー……あのときの女性って姉崎さんだったか!」
「えっ?」
「『家の前で倒れてる女性がいたので診て欲しい』って藤村さんから連絡がきて、行ったのが私」
「そうなんですか!?」
驚いた。
あのとき、気絶したように眠りこけていた自分を診察してくれた先生が、大津院長だったとは。
院長は眼鏡を持ち上げ、マジマジと菜緒を見つめる。
「……確かに。改めて見るとあの時の爆睡娘だ。顔立ちが変わってるから、わからなかったわ」
「顔立ち、変わりました? 眼鏡なしで生活できるようにはなりましたが、整形してませんけど……まあ、確かに食欲戻ったから多少はふっくらしたかな……」
菜緒は自分の頬を両手で撫でる。
あのときは、心身ともに最悪だった。
毎晩のように見る悪夢に夜中、何度も目が覚め、昼は寝不足のまま工場で働いてお局と言われる上司にお小言をくらい続けて。
このままだと体がもたないと食べ物を口に入れても、まるで砂を噛んでいるように味がなくて、結局ご飯の半分は残していた。
きっとあの頃の自分の写真があったら、酷い顔をしているに違いない。
「自撮りしていなくて本当によかった。酷い顔していませんでしたか?」
「まあ、疲れ切っていたのはわかったけど……そういう意味じゃないかな……」
うーん、と院長は小首を傾け、当時を思い起こすように目を瞑る。
「人相が違っていたのよね。今思うと、幾人かの顔が重なっているような印象を受けるわね。だから『姉崎』と聞いてもピン、と来なかったのよね」
院長の言葉を聞いて菜緒は体を震わせた。
悪夢に出てくるのはいつも三人。
元彼に、こちらで看護師として就職した先の総合病院での元患者と、その母親。
「一瞬、若い男性のように見えたけど体は若い女性だしなあ? なんて思ったら今度は中年の女性に見えたり。かと思えばまた違う男性の顔に見えたり。とにかくハッキリしなかったわ」
「……怖いこと言わないでくださ~い!」
当時の菜緒の顔を思い起こして話す院長の内容が怖い。
ホラーでしかない。
院長は軽く笑い声を立てると菜緒の肩を叩く。
「まあ、今はそう見えないし。厄払いしたんじゃない?」
「そうだと思いますけれど……」
悪夢の中で辰巳が現れて、三人を追い払ってくれた。
それから急に体の調子が改善された。
極めつけは彼の作ってくれた雑炊で、調子が整ったといえる。
おそらく辰巳にとってそれだけの、そう、生き霊に取り憑かれた一人の人間を救ったに過ぎないのだろう。
彼は彼なりの役目を果たしただけなのだ。
(……それなのに、こうも顔を合わすのは辰巳さんにとって困惑することなのよね)
でも――
ここで過ごした記憶を塗りつぶすのは違うと、菜緒は思う。
嫌なら嫌と言えば自分は距離を置いただろう。
自分だって嫌がってるなら、無理矢理お近づきになろうなんて考えない。
(そうよ、とにかく言いたいことを言って、それからただの付き添い看護師と子供達の保護者という関係になればいいわ)
ふん、と、菜緒は気合いをいれ、背筋を正す。
「えっ?」
「『家の前で倒れてる女性がいたので診て欲しい』って藤村さんから連絡がきて、行ったのが私」
「そうなんですか!?」
驚いた。
あのとき、気絶したように眠りこけていた自分を診察してくれた先生が、大津院長だったとは。
院長は眼鏡を持ち上げ、マジマジと菜緒を見つめる。
「……確かに。改めて見るとあの時の爆睡娘だ。顔立ちが変わってるから、わからなかったわ」
「顔立ち、変わりました? 眼鏡なしで生活できるようにはなりましたが、整形してませんけど……まあ、確かに食欲戻ったから多少はふっくらしたかな……」
菜緒は自分の頬を両手で撫でる。
あのときは、心身ともに最悪だった。
毎晩のように見る悪夢に夜中、何度も目が覚め、昼は寝不足のまま工場で働いてお局と言われる上司にお小言をくらい続けて。
このままだと体がもたないと食べ物を口に入れても、まるで砂を噛んでいるように味がなくて、結局ご飯の半分は残していた。
きっとあの頃の自分の写真があったら、酷い顔をしているに違いない。
「自撮りしていなくて本当によかった。酷い顔していませんでしたか?」
「まあ、疲れ切っていたのはわかったけど……そういう意味じゃないかな……」
うーん、と院長は小首を傾け、当時を思い起こすように目を瞑る。
「人相が違っていたのよね。今思うと、幾人かの顔が重なっているような印象を受けるわね。だから『姉崎』と聞いてもピン、と来なかったのよね」
院長の言葉を聞いて菜緒は体を震わせた。
悪夢に出てくるのはいつも三人。
元彼に、こちらで看護師として就職した先の総合病院での元患者と、その母親。
「一瞬、若い男性のように見えたけど体は若い女性だしなあ? なんて思ったら今度は中年の女性に見えたり。かと思えばまた違う男性の顔に見えたり。とにかくハッキリしなかったわ」
「……怖いこと言わないでくださ~い!」
当時の菜緒の顔を思い起こして話す院長の内容が怖い。
ホラーでしかない。
院長は軽く笑い声を立てると菜緒の肩を叩く。
「まあ、今はそう見えないし。厄払いしたんじゃない?」
「そうだと思いますけれど……」
悪夢の中で辰巳が現れて、三人を追い払ってくれた。
それから急に体の調子が改善された。
極めつけは彼の作ってくれた雑炊で、調子が整ったといえる。
おそらく辰巳にとってそれだけの、そう、生き霊に取り憑かれた一人の人間を救ったに過ぎないのだろう。
彼は彼なりの役目を果たしただけなのだ。
(……それなのに、こうも顔を合わすのは辰巳さんにとって困惑することなのよね)
でも――
ここで過ごした記憶を塗りつぶすのは違うと、菜緒は思う。
嫌なら嫌と言えば自分は距離を置いただろう。
自分だって嫌がってるなら、無理矢理お近づきになろうなんて考えない。
(そうよ、とにかく言いたいことを言って、それからただの付き添い看護師と子供達の保護者という関係になればいいわ)
ふん、と、菜緒は気合いをいれ、背筋を正す。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる