隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた

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八章 再びの開門、菜緒思い出す。そして激怒。

(5)

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「あー……あのときの女性って姉崎さんだったか!」

「えっ?」
「『家の前で倒れてる女性がいたので診て欲しい』って藤村さんから連絡がきて、行ったのが私」
「そうなんですか!?」

 驚いた。
 あのとき、気絶したように眠りこけていた自分を診察してくれた先生が、大津院長だったとは。

 院長は眼鏡を持ち上げ、マジマジと菜緒を見つめる。
「……確かに。改めて見るとあの時の爆睡娘だ。顔立ちが変わってるから、わからなかったわ」
「顔立ち、変わりました? 眼鏡なしで生活できるようにはなりましたが、整形してませんけど……まあ、確かに食欲戻ったから多少はふっくらしたかな……」

 菜緒は自分の頬を両手で撫でる。
 あのときは、心身ともに最悪だった。
 毎晩のように見る悪夢に夜中、何度も目が覚め、昼は寝不足のまま工場で働いてお局と言われる上司にお小言をくらい続けて。

 このままだと体がもたないと食べ物を口に入れても、まるで砂を噛んでいるように味がなくて、結局ご飯の半分は残していた。
 きっとあの頃の自分の写真があったら、酷い顔をしているに違いない。

「自撮りしていなくて本当によかった。酷い顔していませんでしたか?」
「まあ、疲れ切っていたのはわかったけど……そういう意味じゃないかな……」
 うーん、と院長は小首を傾け、当時を思い起こすように目を瞑る。

「人相が違っていたのよね。今思うと、幾人かの顔が重なっているような印象を受けるわね。だから『姉崎』と聞いてもピン、と来なかったのよね」

 院長の言葉を聞いて菜緒は体を震わせた。
 悪夢に出てくるのはいつも三人。
 元彼に、こちらで看護師として就職した先の総合病院での元患者と、その母親。

「一瞬、若い男性のように見えたけど体は若い女性だしなあ? なんて思ったら今度は中年の女性に見えたり。かと思えばまた違う男性の顔に見えたり。とにかくハッキリしなかったわ」
「……怖いこと言わないでくださ~い!」

 当時の菜緒の顔を思い起こして話す院長の内容が怖い。
 ホラーでしかない。

 院長は軽く笑い声を立てると菜緒の肩を叩く。
「まあ、今はそう見えないし。厄払いしたんじゃない?」
「そうだと思いますけれど……」

 悪夢の中で辰巳が現れて、三人を追い払ってくれた。
 それから急に体の調子が改善された。
 極めつけは彼の作ってくれた雑炊で、調子が整ったといえる。

 おそらく辰巳にとってそれだけの、そう、生き霊に取り憑かれた一人の人間を救ったに過ぎないのだろう。
 彼は彼なりの役目を果たしただけなのだ。

(……それなのに、こうも顔を合わすのは辰巳さんにとって困惑することなのよね)

 でも――

 ここで過ごした記憶を塗りつぶすのは違うと、菜緒は思う。
 嫌なら嫌と言えば自分は距離を置いただろう。
 自分だって嫌がってるなら、無理矢理お近づきになろうなんて考えない。

(そうよ、とにかく言いたいことを言って、それからただの付き添い看護師と子供達の保護者という関係になればいいわ)

 ふん、と、菜緒は気合いをいれ、背筋を正す。




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