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九章 教えあいましょう、それで決まりです
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――巫女!?
菜緒は目をまん丸にした。
「巫女? 巫女ですか? 赤い袴を着て、お守りやお札を販売したり境内の掃除をしたり、神事の奉仕や舞いをする?」
「神事の奉仕や舞いをする巫女はまた違う巫女ですね。でも、小さな神社ではそれもひとくくりでしょう」
「そ、それにしたって年齢制限があるんじゃ……。求人広告とか見ると、確か二十代後半までなはずですよね? 私、今年三十に入ります……」
「年齢は関係ありませんよ。本来は年齢や性別で分けてはいけないことです。それに僕が菜緒さんをお守りするために、僕の巫女になるということは僕の配下になるということでもあります。それで悩んでいるんです」
「それのどこが悩みなんでしょうか?」
悩む理由がわからず、菜緒は突っ込みを入れてしまう。
辰巳はまた、ほのかに頬を染めて眉毛まで下げる。
「……僕は村単位の小さな神社の神だったので、巫女なんていなかったんです。だから『巫女』にするよう言われても、頭ではわかっていてもどう扱っていいのか戸惑います」
「そうだったんですか。それは戸惑いますね」
菜緒も同意に頷く。
辰巳は、菜緒の頷きに気をよくしたように本音を話す。
「それに僕は今、多成神社に身を寄せていますけれど、『社無し』の神だということに変わりはありません。そんな僕が巫女を持つなんておこがましいと思うんです」
「そう思っているんですね、辰巳さんは……でも、そんなに堅苦しく考えろって他の、多成や上位の神様達は言ってます?」
「言ってはいませんが……僕からしてみたら『緩すぎじゃないか?』と思ってます」
なるほど――
人にも性格や体格が違うように、神様達にもそれぞれ性格があって体格も違う。
それが『○○神』など名乗る元になっているとも聞く。
豊穣の神なら、それを表すように豊満な体に豊作を喜んでいるような笑顔。
音楽や弁才など芸能の神なら、見目麗しい姿で楽器を手に持つお姿。
辰巳は一見、嫋やかで美女にも見えるほどの青年だれど、実は『竜』の姿を持つ。
固い鱗に覆われた姿を反映するかのように、固陋な性格なのかもしれない。
(あまり緩いとお顔の優しさに相まって軟派な性格に見えてしまうかもしれないから、これはこれでいいのかもしれないけれど)
「それで――私を『巫女』にするしないは置いといて、どうして神様達は私を引き込もうとしているんでしょう? 辰巳さんは理由をご存じなんですよね?」
菜緒の問いに辰巳は、肩が揺れるほど大きな溜め息を吐いた。
呆れているようにも見える。
「……菜緒さんは、北海道出身ですよね?」
「? はい?」
「北海道って、美味しい食材の宝庫ですよね……?」
「? まぁ、そうかもしれません。日本人が好みそうな魚介類が名産だし、土地が広大なので牧場が多いし、自然は豊かだし」
「それですよ」
「……はい?」
「菜緒さんから、北海道の美味しい食材とかメニューとか狙っているんです」
「ぇえっ!?」
思わぬ神々の思惑に、菜緒の開いた口が塞がらなかった。
ようやく出た言葉が、
「冗談ですよね?」
だった。
「本気ですよ」と辰巳は眉間に皺を寄せて簡潔に言う。
――食いしん坊
という言葉が脳裏に浮かぶ。
「いや、食いしん坊なんて思っちゃいけないとは思いますけれど……いったいどうして? 神様は奉納で、色とりどりのたくさんの食事を召し上がっているものだと……」
「調理前の食材が中心ですから……しかも古来からの食材を奉納される方が多いかと思います。そのせいか、目新しい食材に今時のメニューを食べたいと常日頃申していまして……」
「作って食べさせて差し上げればいいのでは?」
と辰巳に聞き返したところで思い出した。
辰巳は料理が得意だが、今時の洋食や中華、はたまた他国の料理など作れない。
おそらく知っていても作ろうとしないだろう。
辰巳は現代の料理――おそらく調味料や食材の飼育方法に疑念を持っていて、それが神徒候補の子供達に何らかしらの影響をもつんじゃないかと、率先的に受け入れようとしない。
(……ここからして意見の食い違いが)
「それを僕が、色々と難癖つけて断っていたせいか、強硬手段に出たというか……」
「じゃ、じゃあ! 私がここに呼ばれたのは……!」
いえ、と辰巳は手を振り「違います」と言った。
「それは本当に偶然でした。けれど、菜緒さんのその巫女の血が救済を求めて、この神社の隣を選んだことで必然となったんです」
「私が辰巳さんに助けを求めたことと、ばったり家の前で倒れたことで『縁』ができて、それを見ていた神様達は『チャンス!』と言わんばかりに縁を深くしようとしたけれど、辰巳さんが反対して色々画策したけれど――結局、こうしているということですね?」
「はい」
「神様達は現代にあるメニューを食べたい」
「はい」
「でも、辰巳さんは作りたくない」
「……はい」
「なら、辰巳さんが作りたくない料理を、私が作ればいいんじゃないでしょうか?」
「…………おそらく、そのつもりで菜緒さんを招いたんだと思います」
「じゃあ、辰巳さんが了承すれば全て解決じゃないですか?」
「………………だから、巫女の血を引くとしても普通の人と変わらない生活をしている菜緒さんを巻き込みたくないし、現代の調味料とか食材に疑念があるから自分で選んだ物で作りたいし、日本に住んでいるのだから洋食や中華とか贅沢だし……」
堂々巡りだ。
菜緒は目をまん丸にした。
「巫女? 巫女ですか? 赤い袴を着て、お守りやお札を販売したり境内の掃除をしたり、神事の奉仕や舞いをする?」
「神事の奉仕や舞いをする巫女はまた違う巫女ですね。でも、小さな神社ではそれもひとくくりでしょう」
「そ、それにしたって年齢制限があるんじゃ……。求人広告とか見ると、確か二十代後半までなはずですよね? 私、今年三十に入ります……」
「年齢は関係ありませんよ。本来は年齢や性別で分けてはいけないことです。それに僕が菜緒さんをお守りするために、僕の巫女になるということは僕の配下になるということでもあります。それで悩んでいるんです」
「それのどこが悩みなんでしょうか?」
悩む理由がわからず、菜緒は突っ込みを入れてしまう。
辰巳はまた、ほのかに頬を染めて眉毛まで下げる。
「……僕は村単位の小さな神社の神だったので、巫女なんていなかったんです。だから『巫女』にするよう言われても、頭ではわかっていてもどう扱っていいのか戸惑います」
「そうだったんですか。それは戸惑いますね」
菜緒も同意に頷く。
辰巳は、菜緒の頷きに気をよくしたように本音を話す。
「それに僕は今、多成神社に身を寄せていますけれど、『社無し』の神だということに変わりはありません。そんな僕が巫女を持つなんておこがましいと思うんです」
「そう思っているんですね、辰巳さんは……でも、そんなに堅苦しく考えろって他の、多成や上位の神様達は言ってます?」
「言ってはいませんが……僕からしてみたら『緩すぎじゃないか?』と思ってます」
なるほど――
人にも性格や体格が違うように、神様達にもそれぞれ性格があって体格も違う。
それが『○○神』など名乗る元になっているとも聞く。
豊穣の神なら、それを表すように豊満な体に豊作を喜んでいるような笑顔。
音楽や弁才など芸能の神なら、見目麗しい姿で楽器を手に持つお姿。
辰巳は一見、嫋やかで美女にも見えるほどの青年だれど、実は『竜』の姿を持つ。
固い鱗に覆われた姿を反映するかのように、固陋な性格なのかもしれない。
(あまり緩いとお顔の優しさに相まって軟派な性格に見えてしまうかもしれないから、これはこれでいいのかもしれないけれど)
「それで――私を『巫女』にするしないは置いといて、どうして神様達は私を引き込もうとしているんでしょう? 辰巳さんは理由をご存じなんですよね?」
菜緒の問いに辰巳は、肩が揺れるほど大きな溜め息を吐いた。
呆れているようにも見える。
「……菜緒さんは、北海道出身ですよね?」
「? はい?」
「北海道って、美味しい食材の宝庫ですよね……?」
「? まぁ、そうかもしれません。日本人が好みそうな魚介類が名産だし、土地が広大なので牧場が多いし、自然は豊かだし」
「それですよ」
「……はい?」
「菜緒さんから、北海道の美味しい食材とかメニューとか狙っているんです」
「ぇえっ!?」
思わぬ神々の思惑に、菜緒の開いた口が塞がらなかった。
ようやく出た言葉が、
「冗談ですよね?」
だった。
「本気ですよ」と辰巳は眉間に皺を寄せて簡潔に言う。
――食いしん坊
という言葉が脳裏に浮かぶ。
「いや、食いしん坊なんて思っちゃいけないとは思いますけれど……いったいどうして? 神様は奉納で、色とりどりのたくさんの食事を召し上がっているものだと……」
「調理前の食材が中心ですから……しかも古来からの食材を奉納される方が多いかと思います。そのせいか、目新しい食材に今時のメニューを食べたいと常日頃申していまして……」
「作って食べさせて差し上げればいいのでは?」
と辰巳に聞き返したところで思い出した。
辰巳は料理が得意だが、今時の洋食や中華、はたまた他国の料理など作れない。
おそらく知っていても作ろうとしないだろう。
辰巳は現代の料理――おそらく調味料や食材の飼育方法に疑念を持っていて、それが神徒候補の子供達に何らかしらの影響をもつんじゃないかと、率先的に受け入れようとしない。
(……ここからして意見の食い違いが)
「それを僕が、色々と難癖つけて断っていたせいか、強硬手段に出たというか……」
「じゃ、じゃあ! 私がここに呼ばれたのは……!」
いえ、と辰巳は手を振り「違います」と言った。
「それは本当に偶然でした。けれど、菜緒さんのその巫女の血が救済を求めて、この神社の隣を選んだことで必然となったんです」
「私が辰巳さんに助けを求めたことと、ばったり家の前で倒れたことで『縁』ができて、それを見ていた神様達は『チャンス!』と言わんばかりに縁を深くしようとしたけれど、辰巳さんが反対して色々画策したけれど――結局、こうしているということですね?」
「はい」
「神様達は現代にあるメニューを食べたい」
「はい」
「でも、辰巳さんは作りたくない」
「……はい」
「なら、辰巳さんが作りたくない料理を、私が作ればいいんじゃないでしょうか?」
「…………おそらく、そのつもりで菜緒さんを招いたんだと思います」
「じゃあ、辰巳さんが了承すれば全て解決じゃないですか?」
「………………だから、巫女の血を引くとしても普通の人と変わらない生活をしている菜緒さんを巻き込みたくないし、現代の調味料とか食材に疑念があるから自分で選んだ物で作りたいし、日本に住んでいるのだから洋食や中華とか贅沢だし……」
堂々巡りだ。
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