隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた

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十章 神様達とご対面

(1)

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 医院を閉めて帰宅の路についたのは二十時十五分。
 診療時間の三十分前に受付を終了するものの、すぐに帰れないことはざらだ。
 しかし、菜緒の想いが天に通じたのか、今日は思ったより早く終了した。

「お疲れ様でした!」
「はい、お疲れ様」

 ナースウェアで家を出たので、着替えもないから早いものだ。
 いつもナース姿で帰る浜田さんよりも早く医院を出る。
 何せこの後、藤村宅にお邪魔しなくてはならない。
 あまり遅くなっては子供達の就寝時間に影響が出てしまうかもしれない。
 子供には質の良い睡眠だって、食事と同じくらい大事だ。

 菜緒は早足で藤村宅に向かったので、いつもより大分早く着いた。
(早足どころじゃなかったか)
 息切れして胸がドキドキする。
 深呼吸して呼吸を整えると「よし」と気合いを入れて、藤村宅の軒をくぐる。

「菜緒さん、お待ちしてました。急がせて申し訳ありません」
「いえ、お待たせしてしまったのは私の方ですし」
 出迎えてくれたのは、やはり辰巳であった。

 しかしながらいつもと趣が違って、今回は藤色の狩衣に髪の毛を後ろにくくりつけた姿だった。
 二回ほど見て、これが本来の辰巳の姿だと、菜緒にはわかっている。

(改めて見ると……)

 この姿でいる辰巳は神々しい。立ち止まり拝みたくなる。
 しかし立ち止まるわけにもいかず、菜緒は後ろについて歩きながら掌を合わせた。

「私なんかよりももっと凄い神様がお目見えしますから、お気を楽にしてくださいね」
 見抜かれていた。
 こちらを向いて微笑まれて菜緒は「はい」としか返せなかった。

 案内された部屋はいつもの客間ではないようで、そこを通り過ぎて奥へと進む。
 平屋の木造住宅は一見狭く見えてもその実、広いようだ。

「結構広いですよね、この家」
「ええ、異空間に建てられた家ですから。その気になれば城のようなものも建てられますよ。でも私一人で城を建てるほどの神使候補の面倒をみることはできないし、動くとしたらこのくらいが丁度いいんです」
「住む人にあった家のほうがいいのは賛成です」

 菜緒も同意して、あっと思った。
「人」じゃなくて神様だったわ、と。




 辿り着いたのは、剣道場のような大きな板間だった。
 けれど――入った瞬間、ここは普通の板間ではないと菜緒は直感する。
 それもそうだろう、真正面の壁際に神棚が一つ。
 そして左右の壁際にも一つずつ神棚が設置されているのだから。

「辰巳さん、ここは?」
「ここは神様の道の一つなんです。この神棚から神様がおいでになります。といっても、日本の神様は八百万と言われるほど多いので、神様一人ずつ神棚を作るわけにはいかなくて、おいでになるときはこの三つの神棚のうち好きなところから来てもらっています」
「なるほど」
 こどもの日に辰巳が、お供えに持って行った皿の数が多いのに合点がいく。

 だけど――
「三つなんですね。四つあるのかと思いました。こどもの日に四皿持っていったので」
 ああ、と辰巳。
「一つは多成神社にです。あの時は五月でしたので佐保姫様と恵比寿様、田の神に食事をお渡ししました」
「あれで足りました?」
 菜緒の意外な質問に辰巳は一瞬驚いてから「ぷっ」と噴き出す。

「そうですね、足りなかったかも。でも普段は食事に籠められた『気』や『思い』を召し上がるんです。だから大丈夫ですよ」
「そうなんですね。……あれ? でも、『気』や『思い』を召し上がるのなら、普段の辰巳さんの食事でもいいんじゃありませんか?」
「そのはずなんですけれどねえ……この世の食べ物を見て、食べてみたくなってしまったそうで」
 と辰巳は深く息を吐き出す。

 ――食いしん坊
 また菜緒は、この言葉を思い出した。

「間もなくおいでになります」
 辰巳の言葉に一気に緊張する。
「辰巳さん、おいでになる前に私が準備することってありますか? というか、どんな礼儀作法でお待ちしていればいいんでしょうか?」
「そのままでいいと思いますが……とりあえず座ってお待ちしますか?」

 菜緒の緊張が伝わったのか辰巳が座るよう促す。
 突然倒れたら、立ったままだと怪我をしかねないと思ったのか。

「はい、そうします」と菜緒はその場で正座をすると、すぐに「あっ」と声を上げた。
「この床板! 温かい! それに板なのに柔らかい! 床暖房? クッション素材の入った板間?」

 ヒヤッとして固い床板しか知らない菜緒は目を見張った。
 驚いている菜緒を見て、辰巳は柔らかな笑みを見せた。

「菜緒さんのこと歓迎しているんですよ。天然の、鎮守の森で育った樹木を使っていますから。使われた木々にも神気が宿っているんです」
「ありがたいですね。子供達の体を心配してるからこそなんでしょうね」
「……やっぱり菜緒さんは、言わなくても伝わってしまうことが多いですね」
「そうですか?」
 菜緒の問いに辰巳は、さっき以上に柔らかい笑みを見せた。

 刹那、空気が変わる。
 誰かがやってくる、それも大勢。賑やかな雰囲気を乗せた空気だ。

「ああ……ごめんなさい、菜緒さん」
 突然辰巳に困惑気味に謝られて、首を傾げた。

「一度にたくさん来られるとビックリするから、菜緒さんを推した恵比寿様のみおいでくださいと頼んだはずなんですが……」
「そんなにたくさんおいでになるんですか!?」
「七福神様方がおいでになりますね……」
 困った顔を見せる辰巳に菜緒は「大丈夫です」と明るく返す。

「少しですが、休憩時間にネットで恵比寿様の他に七福神様方も頭に入れておきました」
「すみません、ちょっと騒々しいかも」

 申し訳なさそうに何度も頭を下げてくるので、こっちが申し訳なくなってくる。
 辰巳だとて龍神で神様の一人だ。
 ただの人間にそんな頭を下げられては恐縮過ぎて菜緒は、

「いいですから、頭をあげてください」
 とお願いする。

(辰巳さん、腰が低すぎるよ。神様なんだからもっとどっしり構えていていいのに)
 なんて困っていたら突然、頭上から笑い声が聞こえた。

「ほーっほっほっほほ」




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