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家族の秘密は、莉緒にはまだ内緒
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「莉緒、寝た?」
声を落としたシオンの問いかけに、莉緒の寝息を聞いていたアリナは頷く。
そろそろとベッドから出て、アリナはリビングへ。
シオンとレフも同様だ。
「今日は一日連れまわしちゃったから、疲れたみたい。すごく深い眠りよ」
「でも、体力はあるね。さすが一族直系の血を引いてるだけあるよ」
「さっさとスウェーデンの本家に連れて行けばいいのに……。莉緒を虐めた家庭のある国に住もうなんて」
「日本が一番安全だと父さんが決めたんだ。僕もそう思うよ。莉緒のママは結婚を断ったけれど、生んで育てたんだ。向こうにとっては予想外の子供だから。連れて行って喜んで受け入れてくれるかわからないし」
「それはそうだけれど……。こういうご時世だし、わたしたちの血ってどんどんなくなってきてるんでしょ? 難しいこと考えないで、受け入れればいいのに」
アリナとレフの話をシオンは黙って聞いている。
「……どうするつもりなんだろう、パパは。いつまでも『嘘』が通じるとは思えないし。いつまで黙ってればいいのかな」
アリナの言葉に、ようやくシオンが口をひらいた。
「昨日、ようやく会えたばかりなんだ。急いで話を進めなくてもいいと思ってるんじゃないか? それに、レフの意見に賛成だよ。本家の爺たちは頭が固いから。化石かよって」
「相変わらず口悪いなぁ、シオンは」
「俺、爺さんたちに好かれてないし」
「そんなことないわよ。少なくてもシオンは、レフはわたしより好かれてるわ。……とくに、半端な『能力者』のわたしなんかより」
アリナが俯く。その姿は寂しそうだ。
「そんなことないさ。少なくても僕らにとっては羨ましい『能力』だよ」
「一族にない能力だからと嫌うのはおかしい。やっぱり化石爺でいいじゃん」
「ありがとう。シオン、レフ。あんたたち、やっぱ、最高」
アリナはもたげていた顔をあげ、ニコリと笑う。
「今夜は月が見える?」
「今夜はクレセントムーンだよ。満月は十四日」
「よりによって莉緒の卒業式の日だもんね。パパが来られないはずだわ」
「化石爺も活発化するから」
シオンの嫌味に、レフもアリナも笑う。
「頑張れ、シオン」
「おねえちゃんが応援する」
「……頑張るよ」
シオンの言葉に安心したようにアリナは深呼吸をすると、ソファから立ち上がった。
「さあて、新しい家のリフォーム工事の指示に付けたしがあったから、メールしちゃおうっと」
「莉緒の理想の部屋って、どういうのか、わかったんだ」
「うん。……あの子、夢がないのかな……。心を読んでもなにがしたいとかなにがほしいとか、そういう欲が薄いんだ。今日の買い物も自分がほしいというのじゃなくて『アリナ姉さん、選んで』とかだし。好きなの選ばせたら、すごくオドオドしながらわたしに『これ』って渡してくるんだよ。それが一番安くて、黒とか茶色とかの、シンプルなデザインなの。ふかーいところで、キラキラした物や淡い色が好きなんだって、わたしに訴えてるのに……」
アリナは、残念そうに眉を下げる。
「心が縮こまってるからな」
「これから、ゆっくり伸ばしていけばいいんじゃない?」
「うん。莉緒の心が自由になれるように、わたしたちが手を貸しましょう」
「……なら、なおさら、本当のことを話したほうがいいと思うんだよな。なるべく早く」
シオンの言葉に、レフが同意する。
「最初から本当のこと、話せばよかったんだよな、父さんも」
「きっと大丈夫だよ」
二人に対して、アリナは楽観的な返答だ。
「どうしてそう言えるんだよ」
「だって、わたしだってそうじゃない? それに莉緒は、そこまで弱い子じゃないって思うよ。これは勘じゃない、確信」
アリナの自信たっぷりの顔に、シオンとレフは顔を見合わせて、笑った。
「アリナが言うんだったら、大丈夫だな」
「だね」
「パパが言うまで、わたしたち家族の秘密は、莉緒には内緒」
アリナが人差し指を立てシッと、唇にあてた。
声を落としたシオンの問いかけに、莉緒の寝息を聞いていたアリナは頷く。
そろそろとベッドから出て、アリナはリビングへ。
シオンとレフも同様だ。
「今日は一日連れまわしちゃったから、疲れたみたい。すごく深い眠りよ」
「でも、体力はあるね。さすが一族直系の血を引いてるだけあるよ」
「さっさとスウェーデンの本家に連れて行けばいいのに……。莉緒を虐めた家庭のある国に住もうなんて」
「日本が一番安全だと父さんが決めたんだ。僕もそう思うよ。莉緒のママは結婚を断ったけれど、生んで育てたんだ。向こうにとっては予想外の子供だから。連れて行って喜んで受け入れてくれるかわからないし」
「それはそうだけれど……。こういうご時世だし、わたしたちの血ってどんどんなくなってきてるんでしょ? 難しいこと考えないで、受け入れればいいのに」
アリナとレフの話をシオンは黙って聞いている。
「……どうするつもりなんだろう、パパは。いつまでも『嘘』が通じるとは思えないし。いつまで黙ってればいいのかな」
アリナの言葉に、ようやくシオンが口をひらいた。
「昨日、ようやく会えたばかりなんだ。急いで話を進めなくてもいいと思ってるんじゃないか? それに、レフの意見に賛成だよ。本家の爺たちは頭が固いから。化石かよって」
「相変わらず口悪いなぁ、シオンは」
「俺、爺さんたちに好かれてないし」
「そんなことないわよ。少なくてもシオンは、レフはわたしより好かれてるわ。……とくに、半端な『能力者』のわたしなんかより」
アリナが俯く。その姿は寂しそうだ。
「そんなことないさ。少なくても僕らにとっては羨ましい『能力』だよ」
「一族にない能力だからと嫌うのはおかしい。やっぱり化石爺でいいじゃん」
「ありがとう。シオン、レフ。あんたたち、やっぱ、最高」
アリナはもたげていた顔をあげ、ニコリと笑う。
「今夜は月が見える?」
「今夜はクレセントムーンだよ。満月は十四日」
「よりによって莉緒の卒業式の日だもんね。パパが来られないはずだわ」
「化石爺も活発化するから」
シオンの嫌味に、レフもアリナも笑う。
「頑張れ、シオン」
「おねえちゃんが応援する」
「……頑張るよ」
シオンの言葉に安心したようにアリナは深呼吸をすると、ソファから立ち上がった。
「さあて、新しい家のリフォーム工事の指示に付けたしがあったから、メールしちゃおうっと」
「莉緒の理想の部屋って、どういうのか、わかったんだ」
「うん。……あの子、夢がないのかな……。心を読んでもなにがしたいとかなにがほしいとか、そういう欲が薄いんだ。今日の買い物も自分がほしいというのじゃなくて『アリナ姉さん、選んで』とかだし。好きなの選ばせたら、すごくオドオドしながらわたしに『これ』って渡してくるんだよ。それが一番安くて、黒とか茶色とかの、シンプルなデザインなの。ふかーいところで、キラキラした物や淡い色が好きなんだって、わたしに訴えてるのに……」
アリナは、残念そうに眉を下げる。
「心が縮こまってるからな」
「これから、ゆっくり伸ばしていけばいいんじゃない?」
「うん。莉緒の心が自由になれるように、わたしたちが手を貸しましょう」
「……なら、なおさら、本当のことを話したほうがいいと思うんだよな。なるべく早く」
シオンの言葉に、レフが同意する。
「最初から本当のこと、話せばよかったんだよな、父さんも」
「きっと大丈夫だよ」
二人に対して、アリナは楽観的な返答だ。
「どうしてそう言えるんだよ」
「だって、わたしだってそうじゃない? それに莉緒は、そこまで弱い子じゃないって思うよ。これは勘じゃない、確信」
アリナの自信たっぷりの顔に、シオンとレフは顔を見合わせて、笑った。
「アリナが言うんだったら、大丈夫だな」
「だね」
「パパが言うまで、わたしたち家族の秘密は、莉緒には内緒」
アリナが人差し指を立てシッと、唇にあてた。
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