王子さまは二人いる

鳴澤うた

文字の大きさ
26 / 42
家族の秘密は、莉緒にはまだ内緒

しおりを挟む
「莉緒、寝た?」
 
 声を落としたシオンの問いかけに、莉緒の寝息を聞いていたアリナは頷く。
 そろそろとベッドから出て、アリナはリビングへ。
 シオンとレフも同様だ。

「今日は一日連れまわしちゃったから、疲れたみたい。すごく深い眠りよ」
「でも、体力はあるね。さすが一族直系の血を引いてるだけあるよ」
「さっさとスウェーデンの本家に連れて行けばいいのに……。莉緒をいじめた家庭のある国に住もうなんて」

「日本が一番安全だと父さんが決めたんだ。僕もそう思うよ。莉緒のママは結婚を断ったけれど、生んで育てたんだ。向こうにとっては予想外の子供だから。連れて行って喜んで受け入れてくれるかわからないし」
「それはそうだけれど……。こういうご時世だし、わたしたちの血ってどんどんなくなってきてるんでしょ? 難しいこと考えないで、受け入れればいいのに」
 
 アリナとレフの話をシオンは黙って聞いている。

「……どうするつもりなんだろう、パパは。いつまでも『嘘』が通じるとは思えないし。いつまで黙ってればいいのかな」
 アリナの言葉に、ようやくシオンが口をひらいた。

「昨日、ようやく会えたばかりなんだ。急いで話を進めなくてもいいと思ってるんじゃないか? それに、レフの意見に賛成だよ。本家の爺たちは頭が固いから。化石かよって」
「相変わらず口悪いなぁ、シオンは」
「俺、爺さんたちに好かれてないし」
「そんなことないわよ。少なくてもシオンは、レフはわたしより好かれてるわ。……とくに、半端はんぱな『能力者』のわたしなんかより」
 アリナが俯く。その姿は寂しそうだ。

「そんなことないさ。少なくても僕らにとってはうらやましい『能力』だよ」
「一族にない能力だからと嫌うのはおかしい。やっぱり化石爺でいいじゃん」
「ありがとう。シオン、レフ。あんたたち、やっぱ、最高」
 
 アリナはもたげていた顔をあげ、ニコリと笑う。

「今夜は月が見える?」
「今夜はクレセントムーンだよ。満月は十四日」
「よりによって莉緒の卒業式の日だもんね。パパが来られないはずだわ」
「化石爺も活発化するから」
 
 シオンの嫌味に、レフもアリナも笑う。

「頑張れ、シオン」
「おねえちゃんが応援する」
「……頑張るよ」
 
 シオンの言葉に安心したようにアリナは深呼吸をすると、ソファから立ち上がった。

「さあて、新しい家のリフォーム工事の指示に付けたしがあったから、メールしちゃおうっと」
「莉緒の理想の部屋って、どういうのか、わかったんだ」

「うん。……あの子、夢がないのかな……。なにがしたいとかなにがほしいとか、そういう欲が薄いんだ。今日の買い物も自分がほしいというのじゃなくて『アリナ姉さん、選んで』とかだし。好きなの選ばせたら、すごくオドオドしながらわたしに『これ』って渡してくるんだよ。それが一番安くて、黒とか茶色とかの、シンプルなデザインなの。ふかーいところで、キラキラした物や淡い色が好きなんだって、わたしにうったえてるのに……」
 アリナは、残念そうに眉を下げる。

「心が縮こまってるからな」
「これから、ゆっくり伸ばしていけばいいんじゃない?」
「うん。莉緒の心が自由になれるように、わたしたちが手を貸しましょう」
「……なら、なおさら、本当のことを話したほうがいいと思うんだよな。なるべく早く」
 
 シオンの言葉に、レフが同意する。

「最初から本当のこと、話せばよかったんだよな、父さんも」
「きっと大丈夫だよ」
 
 二人に対して、アリナは楽観的な返答だ。

「どうしてそう言えるんだよ」
「だって、わたしだってそうじゃない? それに莉緒は、そこまで弱い子じゃないって思うよ。これは勘じゃない、確信」
 
 アリナの自信たっぷりの顔に、シオンとレフは顔を見合わせて、笑った。

「アリナが言うんだったら、大丈夫だな」
「だね」
「パパが言うまで、わたしたち家族の秘密は、莉緒には内緒」
 
 アリナが人差し指を立てシッと、唇にあてた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

処理中です...