王子さまは二人いる

鳴澤うた

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ごめんなさい、シオンくん

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「腹減ったな。莉緒も食おうよ」
 
 シオンくんは、そう言ってルームサービスを頼む。
 もう夜の八時だ。
 今までずっと警察の人がきて色々聞かれて、こんな時間になってしまった。
 
 最初は泥棒しようとした男の人に対しする質問だったんだけれど、子供だけで高級ホテルに泊まっていることを不審に思ったみたい。

「お父さんとお母さんは?」から始まって、家族構成とかいろいろ聞かれた。
 シオンくんが答えて、支配人も説明してくれたけれど信用してくれなくて、警察署に連れていかれそうになってしまった。
 
 業を煮やしたシオンくんが、テレビ電話でお父さんに連絡。
 そこから警察の偉い人に連絡がいったようで、今度は警察の人が頭を下げながら帰っていった。
 
 わたしは緊張の連続で、あまりお腹が空かない。
 どうしようかと思いながらメニュー表を見ていたら、鍋焼きうどんがあったのでそれにした。
 
 シオンくんはロコモコ丼にカツサンド。色々聞かれて疲れているはずなのに、タフだなぁ。
 男の子ってみんなこんな感じなのかな?
 
 ルームサービスと一緒に支配人もやってきて、改めて謝罪された。
 今回のルームサービスと今夜の宿泊代は請求しないということと、サービス品をたくさん置いて行ってくれた。
 
 鍋焼きうどんにえび天が入ってて、普段だったら嬉しいんだけれど、今回は胃には重たそう……。

「天ぷら食えない? 俺もらおうか?」
「助かります」
 
 鍋焼きうどんからえび天を取って、あっという間にシオンくんの口の中に消えた。
 
 わたしは改めてシオンくんに謝らなきゃ、って思っていた。
 こうして向かい合って、ご飯を食べている今がチャンスじゃないかな。
 必死に階段を上ってきて助けてくれたシオンくんに、わたしは向き合わないといけない。

「シ、シオンくん……、今日は、ありがとう……。それからごめんなさい」
「ありがとうはわかるけど、ごめんなさいはわからない」
 
 シオンくんは、目をパチパチさせながら尋ねてくる。

「電車で別れたでしょ? あのとき、わたしシオンくんと二人っきりになったことに怖くなったっていうか……ごめんなさい。シオンくんが怖いなんて言って。その、本当はそんなことないってわかってるのに、クラスの男子たちを思い出しちゃって……」
「俺の口調がキツく感じるからか?」

「……うん。でも! 本当はぜんぜん違うってわかってるの! シオンくんが優しくて、わたしに温かい飲み物をくれてり、寒いからってジャンパーを貸してくれたり、さっきだって、一人にさせちゃいけないって、すぐに追いかけてきてくたりする優しさを知ってるのに……わたし、弱虫で臆病おくびょうで……シオンくんを困らせちゃって……」
 
 ポトポトと、わたしのひざに大きな滴が落ちていく。
 
 泣いてる、わたし。
 泣いてる場合じゃないのに。シオンくんの誤解を解かなきゃいけないのに。
 
 カタン、と椅子を引く音がして顔をあげたら、すぐ隣にシオンくんが立っていた。




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