精霊士養成学園の四義姉妹

霧島まるは

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126.キロヒ、成長する

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 クルリは土で盾を立てる。
 クルリには、植物や風と同じくらい土の要素がある。
 それはこの海において、大事な要素だった。土という一点においては、クルリにとって砂浜は悪い環境ではないからだ。
 意識しないと間違えそうになるのは、クルリは地面にある砂を使って盾を立てるわけではない、ということである。
 魔物も精霊も、物理的な攻撃は効かない。
 水の要素が強いエムーチェ海男が、滝の側で水の壁を出した時もそうだが、その場に数多く存在する無級精霊の協力で作り上げられた、精霊由来の力になる。風と違って土ははっきり目で見えるので、キロヒの足の下にある砂と同じもののように感じてしまう。
 だが違うものだと理解すれば、表面の「砂」ではない「土」を引き出せる。
 一年の時にイシグル指導担当が言ったことを、キロヒは覚えている。
『イミルルセ、水は空からだけしか降ってこないわけじゃない。それを覚えておいて』
 その時、イシグルは霊量器に映る井戸を見て言った。彼女の精霊ヌクミの水の要素のひとつだ。
 水は空から降るだけではない。地上にたまるものもあるし、井戸の中にもある。井戸の中にもあるということは、土の下にもたまっているということだ。
 サーポクの友人であるザブンも、土の要素を持っている。それは海の下にも土があるからだ。
 だからキロヒも気づいた。
 この砂浜の砂の下にも硬い土がある。クルリが上霊したことで、影響を与えられる範囲も広がり、より深くに集う扱いやすい土の精霊を引き出せる。
 土、水分量、整形、圧。
 昨夜、雷の灯りに照らされた砂浜で、キロヒが練習したのがそれだ。これまで放置し続けた、土の使い方をひたすら繰り返した。
 キロヒはとっさの判断が弱い。それを見抜いた先輩たちは、足の下に地面がないことはほとんどないだろうからと、土の壁の整形をとっさにクルリができるように訓練した。不意打ちの一撃で助かれば、対策の取りようがある、と。
 戦闘訓練の選択授業では、こういう精霊にあった発想の訓練が行われるという。元々戦闘に素養の高いシテカが、あれほど柔軟に海の敵に対応できたのは、その授業の成果でもあるのだろう。
 氷の道を沖まで歩いていったゴゴが、無造作に魚型の魔物を飛ばす。キロヒは心臓が口から飛び出しそうだった。
 ついに始まった追試。
 しかも魔物は、さっき立てた盾とはずれた位置に飛んでくる。それは勿論、キロヒも織り込み済みだ。最初に一つ目の盾は、昨夜の練習通りにできるかというお試しに過ぎない。
「クルリ!」
「ぴゅうるりぃー」
 黄色い枯葉のスカートを海風に閃かせ、クルリが両腕を上げる。魔物が突っ込んでくる目の前に、だ。
 精霊由来の硬く圧をかけた土壁に激突し、壁を崩壊させながら魔物は落下する。ゴゴに飛ばされた力と静止したクルリの硬い壁で、魔物も気絶するのかは分からないが、少なくとも無事では済まない。
 昨夜は、エムーチェの精霊が魔物に見立てた水の球を飛ばしてきて、それに間に合うように壁を立てる、を練習した。
「ぴゅういぃー!」
 ふわりと浮いたクルリの木の足が、倒れた魔物のエラの隙間に突き刺さる。
 とどめはいろいろ考えたのだが、謎精霊につけられた足が強すぎて、二人の先輩に「足が確実」というお墨付きをもらってしまった。
 さすが特級でありながら、厳しい亜霊域器の環境で育った謎精霊である。木の両足はクルリの持つ力を、圧倒的に越えていた。男二人がクルリの足を見つめ、「上級の足の強さじゃない」と太鼓判を押すほどに。これはキロヒも複雑な気持ちだ。元々のクルリの力ではないのだから。
 けれど、キーが今回の条件につけた中には、キロヒとユミだけではなく謎精霊も含まれていた。それならば、足での攻撃も許されるだろうとキロヒはあきらめることにした。
 そうしてクルリは、海の魔物が投げられては盾で衝撃を与え、足でとどめを刺すを繰り返した。
 ここまでが迎撃のクルリである。
「ユミ、浜に飛んでくる魔物、代わってもらっていいですか?」
「お任せください」
 蜘蛛の巣の網と木の枝を持ったユミに砂浜を任せて、キロヒは海に近づいていく。
 シテカは氷の道の途中で狩りをしている。
 その氷の道を、キロヒは使わない。波打ち際で、クルリがスカートの裾からしゅるりと枯葉色の蔓を一本延ばす。それが海の中を進んでいく。
 砂の下に土がある。海の中にも土がある。
 そして海の中にも──植物はある。海藻だ。浜にも打ち上げられたたくさんのそれらは、まるで海の枯葉だとキロヒは思った。そんな海の枯葉にも、無級精霊はちゃんといた。
 上級精霊が漂わせる海の蔓は、水に逆らわずゆらりゆらりと進んでいく。
 初級精霊よりも、ずっともっとおいしそうな上級精霊の気配が、海の中を進むのである。察知した魔物が、放っておくはずがない。
 蔓を追って魔物が物凄い勢いで迫って来る。
「ぴゅうるりぃー!」
 そして浅瀬に突っ込んできた魔物に土の盾をズドン。
 クルリはこうして、魔物釣りを覚えた。

「……合格だ」
「ありがとうございました」
 昨日から今日にかけて、キロヒは自分が大きく成長したことを実感した。戦うことは相変わらず好きにはなれないが、クルリの新しい可能性を模索するという意味では充実していた。
 これでようやく、彼女は休暇に入ることができる。
 疲労で少しよろよろしながら、浜辺から町へ戻ろうとした時、向かいから誰かが近づいてくるのが分かった。
「キロヒ、おったとよー!」
 大きな大きな声が、彼女の名前を呼ぶ。背中に大きな亀を背負って、飛び跳ねるように手を振っている少女を、キロヒは見間違えない。
 そして。
 その隣を歩いてくるフードと長い金色の前髪で、ほとんど顔の分からない少女が誰かもすぐに分かった。白い素足に草履をはいているのは、彼女もこの地の洗礼を受けたからなのだろう。
「来てくれたんですね……」
 スミウが、キロヒのために港まで迎えにきてくれた。
 キロヒは大声を出さない。キロヒはがむしゃらに手を振ったり走ったりしない。
 それでも小さく手を振って、できるだけ早足で二人の方へと頑張って近づいて行ったのだった。
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