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序章 〜各国の転生者たち〜

遠藤②

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 セツさんに連れられて役所に着くと、俺を入り口の脇に待たせて受付の女性とセツさんが何やら話をし始めた。聞き耳を立てていると、不審な男が家の前に倒れていたので鑑定をしてもらいたい、というような趣旨の話をしていたようだ。

 受付の女性が他の職員に報告に行くためにカウンターの奥へと消えていった。そうしてしばらくすると若い男性がこちらへやってきた。

「お待たせしました。あなたはこちらへ。セツさんもご一緒に来られますか?」と笑顔で話しかけて来た。「あたしも連れてきた責任があるからね、一緒に行かせてもらうよ」と同行してもらうことになった。

 若い男性に通された部屋は机が一つ、椅子がいくつかあるだけの簡素な部屋だった。

「それではそこにかけてください。セツさんはあちらの椅子へ」と男が説明する。男は続けて「私はショウと言います。役所で鑑定の仕事をしておりますが本職は魔道士です。普段はこうやって役所で事務をしたりしております。さて、あなたお名前は?」『俺は遠藤ユウサクと言います。何故ここにいるのか、ここがどこなのかもわかっていません。ここは一体どこなんでしょうか?』

「あなたの質問に答える前にまずは鑑定を済ませてしまいましょう」ショウと名乗った男が何か呟くと光が俺を包んだ。特に痛みも何もないが、今何が起きているのだろうか。

「終わりましたよ。…名前はエンドウユウサク、年は23歳、職業は【軍師】ですか。…この職業の方には初めてお会いしましたが軍師というからにはあなたはどこかの軍属なのでしょうか?」

『軍師?何かの間違いじゃないんですか?』
 俺は将棋というゲームのプロではあるが軍を指揮したことがあるどころか、軍にも属したことがない。そもそも俺のいた日本では自衛隊はあるが軍隊も無く、しかも俺の職業からかけ離れている。
 
「しかし鑑定は間違いがありませんし、あなたの職業は【軍師】です。所持スキルからもそれは間違いはないでしょう」
『所持スキル?スキルとはなんでしょうか』
ショウさんはそんなことも知らないのか、と訝しがりながらもスキルとは生まれ持ったもの、後天的に身に付けられるもので実に様々な物があると言ったようなことを説明してくれた。
 
 ステータスボードの出し方は本来子供の頃に習うのが普通であり、俺のような大人が教わるということ自体不自然なようだった。ステータスボードをショウさんに展開してもらったところ、俺のステータスは以下の通りだった。


 
『あの、、、これで俺がスパイではないということが証明できたのでしょうか』
 ショウさん曰く、加護持ちは神に人生を捧げる聖職者以外は珍しいということに加え、この軍師という職業は初見だという。
「この職業自体は過去にも存在はしていたようですが、現在我が国の住人の記録には一人もおりません。罪の履歴はありませんでしたが、やはりもうしばらくは監視下に置かせて頂きたいと考えております」

 ステータスボードによってスパイ疑惑を晴らすどころか逆に新たな疑惑を生んでしまったようだ。
「その軍師、ってのはどんな職業なんだい?スキルを見たところ戦闘系の職業じゃなさそうだね」とセツさんが訝しげにショウさんに尋ねる。
「軍師というのは軍を指揮する能力に非常に長けている職業と伝えられています。過去に存在したとされる軍師はいずれも国家統一や民族の統一に大いに貢献をしたと記録にはありましたね」

「でもあたしはそんな職業聞いたことないねぇ。でもこの人はその軍師ってやつなんだろ?軍を指揮っていうんだったらやっぱり他国の人間なんじゃないのかい?」セツさんは続ける。
「そうかもしれませんね…。エンドウさんはしばらく役所管轄にて監視させて頂くことに致します。疑いが晴れれば自由にはなれますがもうしばらくは我慢してください」
 
 この世界で行く当てがある訳では無いが、疑われたまま監視下に置かれるというのは気分の良いものではない。
『監視って、一体いつまで俺を疑うんですか?』不安になりショウさんに尋ねるが、
「あなたが他国の軍人ではないことがわかれば、としか…。申し訳ありませんが戦時中ですし、不審な人物を野放しには出来ないのです」

 ショウさんが言い終わったその時、表から大きな鐘の音が何度も打ち鳴らされる音が聞こえてきた。

『あれは?何かあったのですか?』二人に尋ねると、「隣国の侵攻だよ!あんたが手引きでもしたのかい!」セツさんからあらぬ誤解をかけられ慌てて否定する。『俺が目を覚ましてからセツさんとずっと一緒ですし、そんなことはしていません!』ただでさえ自分がどこにいるのか、この状況が何なのかわからない上にますます疑われることは避けたかった。疑惑の目を向けるセツさんとは対照的にショウさんは無言で考えごとをしていたが、ふと思い付いたように「遠藤さん、早速ではありますがあなたの疑いを晴らす機会が来ましたよ」と、声を発した。




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