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序章 〜各国の転生者たち〜

遠藤③

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『疑いを晴らせることは嬉しいんですが、一体どうやって……』と言いかけ、気付いた。
軍師という職業のこともあり、この隣国からの侵攻をなんとかしたら信用する、ということなのだろう。 
 
『私には無理ですよ、人とケンカをしたのだって小さい頃に何度かしたくらいですし、まして戦争だなんて……』

「そうですか、しかし隣国の侵攻をなんとかしなければあなたにも被害は及ぶ可能性もあります。やはりあなたのその軍師としての力を貸して頂きたいと思っています」と、断れない雰囲気を醸し出している。

 訳のわからないところに来ている上に、無理難題を押し付けられ八方塞がりの状況ではあるが、元々事故に遭う前も似たようなものだった。ならば、今の状況で出来ることをすることが大事なのかもしれない。
 
『……わかりました。役に立てるとは思えませんが俺で良ければ使ってください』意を決してショウさんに答える。

「ありがとうございます、そう言っていただけると大変助かります!」そう言うとショウさんは付いてきて欲しいと部屋の外へ歩き出した。

「それじゃあたしは家に戻ってるよ!侵攻に備えなきゃならないからね!」

 とセツさんも部屋を出る。セツさんにお礼を伝え、ショウさんの後を追う。

「この部屋です、中へ。」ショウさんが足を止めた部屋の入り口には【会議室】のプレートが下げられており、既に中からは何人もの人たちの話し声が外まで聞こえている。

「失礼します」ショウさんに続いて部屋に入ると強面の男数人、魔法使いらしき老人が1名、身なりの良い中年が1人、テーブルに腰掛けて議論を交わしている最中だった。

「遅かったじゃねぇか。ショウ!何してやがったんだ!」強面の男の1人がショウさんを怒鳴りつける。

「まぁまぁ、ショウも忙しいんじゃろうて」魔法使いらしき老人が男を諫める。
 
「お師匠様、ゴウさん、遅くなりましてすみません、取り調べの最中でしたので。状況はいかがでしょう?」
 
「どうもこうもねぇよ、キガリサからの侵攻だよ。ついこないだ追っ払ったばかりだってのによ。。。」先程怒鳴りつけたゴウと言われた男が答える。

 キガリサとはなんだろうか?会話の流れから地名のようなことは推測できるが俺の知っている場所に思い当たるところは無かった。

「キガリサというのは山を挟んで接している隣国の都市です。侵攻の規模はどの程度なのでしょう?」不安げに見ていた俺に説明をしつつ、他の面々へ問いかける。

「こないだよりは多いな。見張りの報告じゃ1中隊程度はいるらしいってことだ。この間の侵攻で怪我人もいるし、正直ヤバイ状況だよ」ゴウが吐き捨てるように説明した。

「それよりショウ、その人は誰なんだね?」黙ってやり取りを見ていた身なりの良い男性が口を開いた。

「は、ご紹介が送れました。先程取り調べをしていた男性でエンドウユウサクという方です。町の民家の前で倒れていたが、素性がわからない為役所へ調べに来ていたという訳です。しかし、この遠藤さんを鑑定しましたところ、非常に稀な【軍師】の職業持ちでした為、この緊急事態を好転させるために同席をしてもらったという訳です」ショウさんから皆さんに紹介してもらったが気の利いた挨拶も出来ず、慌てて頭を下げる。
 
「ふむ、軍師とは過去の歴史でも戦争時に活躍した記録のある職業だね。私も初めて会うが……」身なりの良い男性をはじめ、皆俺を値踏みするようにじろじろと見ている。
 
「はい、領主さま。その軍師でございます。許可なく会議へ同席させてしまい申し訳ございません。ですが危機的状況を打破する為にもお連れ致しました」

「なるほど、事情はわかった。確かに戦力が欲しい状況ではあるが、果たして信頼は出来るのかね?」
領主と呼ばれた男が俺を値踏みするように見ながら言う。

 「エンドウ…さんだったかね?力を貸して頂くにあたってステータスを見せてもらえないかな?」俺は促されステータスボードを展開する。一度鑑定を受ければあとは自分の意思で出し入れが出来る、と鑑定の際にショウさんから聞いていた。


「ふむ……、確かにショウの言う通り軍師ということは、間違い無いだろう。見た事のないスキルも高レベルで持っているようだが、君は何者なんだね?」領主様も不安げに尋ねる。
 
『何者と言われてましても……。申し訳ないのですが事故にあってから自分が何故ここにいるのかもわかっていないんです。』
 
「ふむ、やはりそれでは君を全面的に信用することは領主としては出来かねるな。外からも攻められ、中からスパイに内通されては守れるものも守れないからな。」
 
 町の責任者としてはそう判断するのが普通だろう。俺が逆の立場でもおそらく信用は出来ないだろう。
ゴウと呼ばれた戦士風の男やショウさんの師匠も同様の考えのようであり、全面的に歓迎されている感じではなかった。
 俺をこの場に連れてきた人間として、ショウさんにもその不満げな表情を向けている。

「しかし領主さま、今回の侵攻の規模からすると町の防衛自体が危ういと考えております。このまま手をこまねいていてはその通りになってしまうでしょう」
 
 そのことは領主、他の参加者も理解しているようで皆険しい表情をしている。更にショウさんは続ける。

「国からの援軍も期待できない今、町を守るには彼の軍師としてのスキルを借りることが必要ではないかと私は考えます。ご覧頂いた通り彼は複数のスキルを所持しており、しかも高レベルのスキルももっていました。エンドウさんがもし他国のスパイであったときには推薦した私が責任を負いましょう。なんとか彼の助力を仰ぐことは出来ませんでしょうか?」

 ショウさんにそこまで言わせてしまったが、俺自身は不安でしか無い。出来ることなら領主さまには断ってもらいたいと思っている。しかし、ショウさんの表情は真剣そのものであり、町を守りたいという決意が強く現れており、領主さまもそれを見て考え込む。

 「わかった。そこまでお前が言うのであれば彼の力を借りることにしよう。今まで町に貢献してきたショウがそこまでいっているならば周りも反対は出来ないだろう」
 
 「それでは改めてエンドウさん、あなたの力をお借りできますかな?」 

 強面の男たち、魔法使い風の男、ショウさん、皆の視線が俺に集まる。領主さまの了承を得たものの、まだ一部の人間は疑いの目を向けている。

 まぁ無理もない、いきなりやってきた得体の知れない男が力を貸すと言っても怪しい以外の何物でもないだろう。しかし、俺はここで協力を拒んでしまえば推薦してくれたショウさんの立場も無いだろうし、スパイとして拘束される危険もある。

 自分が何かを出来るとも思えないが、先程ショウさんにOKを出したうえに、ここまで追い込まれたこの状況で無理と言うわけにはいかないだろう。

 俺は頷くしか無かった。
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