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序章 〜各国の転生者たち〜

遠藤⑤

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 戦力で劣るこちらが勝利するには守りでは無く、攻めの一手が必要である。しかもただ闇雲に攻めるのではなく、王将を詰める為の一手が必要だ。

しかし、将棋であれば手持ちの駒を犠牲にしてでも最終的に王将を取ればこちらの勝利だが、今置かれているこの状況では、駒では無く生身の人間を指揮しなければならない。
犠牲を最小限に抑え、かつ相手の王将を取る必要があるとなると迂闊な戦略は取れない。そもそも王将を取ることで今回の侵攻が止まるのかも定かでは無い。
自身の信用を得るためでもあるこの戦いだが、もし失敗したらこのザイン自体支配されてしまうことは想像に難くない。

先程把握したレーダーの状況と併せて、取るべき手は決まった。
ショウさんを始めとした会議の参加者に呼びかける。
『皆さん、まず今の状況を説明します。キリガサからの侵攻について、敵はおよそ250。ほとんどはゴブリンで一部にオークがいるようです。そして、相手の指揮官はオークチーフが1名です。現在の進行速度から考えると街には2時間後には到達する見込みです。』

領主様を始めとした皆が驚いている様子ではあるが、老魔道士が口を開く。
「それは君のスキルによる分析かね?敵の種族や数などもわかるとはなかなかどうして、すごいスキルであるな。」

『ありがとうございます。おっしゃるとおり、これは私のスキル〈状況把握〉による結果です。皆さんに私が見えている状況を共有出来ればより説明しやすいのですが、そこまでは出来ないようです。』

「それでは地図で説明をしてもらうとしよう。」と老魔道士はショウさんに合図し、ザイン周辺の地図を用意してもらうことになった。

『では、説明します。敵は北東から隊列などは組んでおりませんが集団で進軍しています。大多数はゴブリンと種族名が出ていましたが、合間にオークが数名いるようですが、こちらもバラけています。おそらくオークが部隊長のような役目なのでしょう。そして最後尾に複数のオークに囲まれたオークチーフがいます。このオークチーフが今回の侵攻の指揮官と考えます。このまま何もせず進軍を許してしまえば皆さんが危惧しているように、このザインの街は防ぎ切ることは出来ないでしょう。
私の状況把握でこちらの戦力についても確認していますが、主力はここにいる皆さん、あとは町にいる兵士の皆さんということで間違いないでしょうか?』

「ああ、主力は俺ら戦士団と町の兵士がだいたい50人くらいだな。・・・まぁこの間の侵攻での怪我人もいるから少なくはなってるがな。あとは爺さんたち魔道士が5人だ。」ゴウさんが答える。

ゴウさんは戦士団の代表であり、会議に参加していた。戦士団とは街を守る役目の兵士達とは異なり、モンスターの退治などを生業としている集団だという。ショウさんが後で教えてくれた。

『有難うございます、状況把握スキルとほぼ一致しているようです。これで敵の戦力にもほぼ間違いは無いことが確認出来ました。・・・では、私から今回の作戦を提案させて頂きます。』

正直怖くて仕方がない。自分の提案が受け入れられるか、受け入れられたとしてもどれだけ犠牲が出るかは蓋を開けてみるまでわからない。日本にいた頃、命を背負うことなど当たり前だが皆無だった。

『まず、町を守る部隊、相手の指揮官を攻める部隊に分けます。町を守る部隊は兵士の皆さんが中心になってもらいます。そしてゴウさん達戦士団の精鋭と魔道士4名を主力として少数精鋭で敵の指揮官を倒して頂きます。シンプルな作戦ではありますが、今回の侵攻を防ぐためにはこの作戦ではどうでしょうか。』

将棋でも囲みを作って王将を守り、飛車や角を中心に王を詰めていく。実際の戦いでそれが通用するかの保証は無いが、今の自分が出来ることは将棋で身に付けた戦略を体現するだけだ。

「ふむ、シンプルな作戦だがわかりやすくはあるな。主力が指揮官を倒すまでに町が落とされてしまっては元も子もないがその点はどうかね?」
領主様が訪ねる。

『はい、仰る通り攻めと守りのバランスが今回の作戦のポイントです。町を守る戦力と攻める戦力の分配が重要になって来ます。状況把握のスキルで互いの戦力と配置は頭に入っています。後はいかに早く敵の指揮官を討つことが出来るかかと考えています。』

「で、その肝心のどうやって指揮官を早く倒すのかを聞かせて欲しいんだがな。」焦れたようにゴウさんが問いかける。

『まわりくどくてすみません。指揮官のオークチーフの戦力は確かに大きなものではありますが、おそらくゴウさんとショウさんのお師匠様・・・』

「ワシはルーカじゃ。軍師殿」

『ルーカさんが協力すれば倒すことは可能と見ています。それ以外の戦士団の方々もオークに近い戦力を持っています。相手の許をついて急襲をかける戦術で今回は攻めたいと考えています。』
将棋の対局では、奇襲型の定跡をうたれると受け方を知らない人間は一気に負けてしまうことが多々ある。今回はそれを実戦に落とし込んでみる形だ。

「エンドウさんの作戦は理にかなってはいると思いますが、敵陣の奥にいる指揮官相手の急襲がはたしてそんなにうまくいくのでしょうか・・・。」
ショウさんが口を開き、皆も同様に不安げな表情を見せている。

「そうだな、囲まれて犬死になんてのはごめんだぜ・・・。」ゴウさんも呟く。

『お二人がご心配するとおり、確かにタイミングを誤ればゴブリンの群れに囲まれて指揮官を討つ機会を失ってしまうかもしれません。』
そう答えると皆が落胆した表情を見せた

「指揮官を討つということ自体は悪くはない。一か八かの勝負に出るしか無いのかもしれんな・・・。」
領主様が覚悟を決めたように呟いた。




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