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序章 〜各国の転生者たち〜

遠藤⑥

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『皆さん待ってください、この作戦にはまだ続きがあります。』

険しい表情の皆にそう伝えると、
「なんだよ、勿体ぶってないで早く言えよ!」
苛立ちを隠さずにゴウさんが答える。

『はい、それは私のスキル〈指揮〉を使うことです。状況を把握出来る私が戦況に応じて皆さんを指揮します。ただし、このスキルは私のことを信用して貰えなければ発動が出来ないようです。・・・いきなり現れた男を信じてもらうのは難しいかもしれませんが、この作戦は皆さんの協力が無ければ成功はしません。皆さんなんとか私を信じて貰えないでしょうか。』

俺は腹を決めてそう伝える。
こちらと敵との戦力差を考えても勝てない戦いでは無いはずだ。こちらには飛車、角に相当する戦力はある。王将を詰めるにはあとは冷静に手を進めていくだけだ。定跡を知らない相手との一局と考え、予想外の手に備えつつこちらの考える通りに進めていければ勝てるはずだ。

「〈指揮〉って言われても初めて聞くスキルだしよくわかんねぇな。いったいどうなるってんだ?」

「エンドウさん、私はあなたに賭けることにした人間です。まずこの場で私を指揮して貰えませんか?」

『ショウさんありがとうございます。では・・・、』
俺は〈指揮〉のスキルを発動してみる。
薄暗い会議室の中で俺とショウさんが淡い光を発した。

(ショウさん、ショウさん。私の声は聞こえますでしょうか?聞こえていたら右手を上げてください。)
「こ、これは?エンドウさんの声が聞こえます!これで良いでしょうか?」
ショウさんは右手を上げる。

(ありがとうございます、それではショウさんも声に出さすに私に話かけて貰えないでしょうか?)
(こちらの声も届くのですか!これならば戦場で離れていても連携を取ることが可能ですね。)
(ありがとうございます、ショウさんのおかげでこのスキルを実践出来ました。)

「なんだよ、2人がうっすら光ってる以外、黙ってて何してんのかわかんないぜ。結局〈指揮〉ってのはどうなんだ?」
「ショウの反応からすると念話のようなものじゃろう。似たような魔法はあるが、〈指揮〉とは何か違うんじゃろうかの。」
ゴウさんとルーカさんが様子を伺いながらそう呟く。

(・・・気のせいかもしれませんが、なんだか身体が軽いような気がしています。これも〈指揮〉のスキル効果なのでしょうか?)
(そうかも知れませんが、まだ自分でもよくわかっていません。もう少し時間があればスキルについて確かめてみたいのですが、敵が迫っている中では難しそうですね。ご協力有難うございました。)
ショウさんに指揮スキルでお礼を伝え、スキルを解除する。

「皆さん、このスキルは念話のように離れている遠藤さんと会話が出来るスキルのようです。また、これは確かめられてはいませんが、身体強化も同時に発動しているように感じました。このスキルがあれば、エンドウさんに〈状況把握〉をしてもらいながら臨機応変に対応する事ができるのではないでしょうか。」
実際にスキルを体験したショウさんの言葉に、ゴウさんも続いた。

「そんな便利なもんがあるなら、俺も試してみるぜ。おいエンドウ!俺に〈指揮〉を使ってみろ!」

言われる通りにゴウさんにもスキルを発動してみると先程と同様、うっすらとゴウさんと自分が光を放っている。

(ゴウさん、聞こえていますか?聞こえていたらその場で両手をぐるぐる回してもらえますか?)
(おお!ホントに聞こえるんだな!こんな感じか?)

ゴウさんがその場で手をぐるぐる回し始めたが、その勢いはかなりのもので腕が机に当たり大きくひび割れてしまった。

「ゴウよ、壊した机の修理費はお前の報酬から引かせてもらうからな。」領主様がゴウさんの力に驚きつつも、冗談混じりに声をかける。

「領主様そりゃないですよ!俺はコイツの指揮に従っただけです!請求ならコイツにしてください!」慌てて返事をするが、まだ指揮スキルは解除されていない。スキルの影響下でも普通に会話することも可能なようだ。

「やはり、身体強化も同時に発動しているようですね。ゴウさんがいくら力自慢と言ってもあの程度で机があそこまで壊れるはずがないですからね。これはかなり心強いスキルだと思います。」
自身の考えを確かめるようにショウさんがつぶやく。

「確かにいつもより身体が軽いし、今だって特別に力を入れて腕を振り回してたわけじゃないからな。これなら指揮官のオークチーフも俺1人でも倒せるかもしれねぇな。」

指揮スキルの効果をゴウさんに実感して貰えたのは心強い。ゴウさんは今回の作戦の要であるし、もしゴウさんに賛同して貰えなかったら奇襲作戦は難しいだろう。

『では、スキルも実感頂いたことですし、そろそろ出る準備をしましょう。けっこう時間がかかってしまいましたので、防衛に回る部隊についてはショウさんが声をかけてください。集まった後の具体的な作戦は〈指揮〉でお伝えします。』
「わかりました。それでは私は出て参ります。エンドウさん、よろしくお願い致します。」
ショウさんが退出する。

『では、ゴウさん。戦士団の手練れを5名選出してください。出来れば近接戦闘の得意な方を3名、弓など遠距離から攻撃出来る方が2名欲しいところです。』
『ルーカさんも街にいるショウさん以外の魔道士3名を集めて頂けますでしょうか。』

今回の部隊は全員で10名。
ゴウさんを含む近接戦闘要員4名、遠距離攻撃要員が2名、魔道士がルーカさんを含めて4名だ。

それぞれの役割を将棋の駒に当てはめ、勝つための手を頭の中に思い描く。

『まさか、この世界でも対局することになるとはね。。。しかも実戦で。。』

周りに聞こえないように独り言を呟くが泣き言を言っている暇はない。
必勝の手を描くべく、俺は〈状況把握〉のスキルを発動した。
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