上 下
11 / 13
序章 〜各国の転生者たち〜

権田⑤

しおりを挟む
辺りが明るくなって来たのか、家の中にも明かりが差し込んでくる。
そういえばオークは夜目が人間よりも利くようで、昨日の夜中、電気などの明かりがなくても家の中の物を見ることが出来た。
料理に丸焼きが出てきた事を考えると火を扱う事は出来るようだが、生活はだいぶ異なるようだとゴンダは改めてオークと人間との違いを感じていた。

(さて、今日は昨日兄達から聞いた人間の集落を見に行ってみるとしよう。)
そう思ったゴンダはまだ寝ている兄達や弟のゴンズを横目に寝室を出る。

母は既に起きているようで何やら家事のような事をしている。
「オヤ、ゴンダカ。イツモネボウシテイルアンタガコンナニハヤクオキルナンテ、ヤッパリキノウキイタハナシハホントウナンダネェ。」
ゴンダに気付くとそう声をかけてきた。

ゴンダは母に森に出てくる事を伝えると、
「マトモニナッタカドウカシラナイケド、モリニイクナラ、キヲキッテクルカ、エモノデモトッテキテクレルトタスカルケドネ。」
そう言ってまた家事に戻っていった。

家を出ると辺りはまだ薄暗いようでオークの集落にもあまり人の気配はなかった。

(さて、兄達から聞いた場所にどうやって向かうかだな。このミゾハチの集落から南に向かったミゾハチ山の麓にあると聞いているが、南は果たしてどちらになるのか。ここが地球なら太陽登ってくる方角などから推測出来るのだが・・・。)

と、思案していると
「アニキ、ズイブンハヤオキダネ。オキタライナクテオドロイタヨ。カアサンニキイタケドモリニイクンダロ?キノウノキョウデ、アニキダケジャシンパイダカラオレモイッショニイクヨ!」
ゴンズが声をかけてきた。

(どうしたものかな。・・・様子を見に行くだけなら1人の方が良さそうだが、方角もわからない以上ゴンズに来てもらう方が良さそうだな。)
そう考えゴンダはゴンズの同行を了承した。

早速ゴンズに集落の周囲について聞いてみる。どうやら太陽の出る方向なども地球と同じで、東から登り西に沈んで行くようだ。
地球では当たり前だったことも確認していかなければならないのは一苦労ではあるが、日が出ている間はなんとか方向を把握することが出来る様になった。

早速目的の人間の集落に向かおうと考えていたところゴンズが
「アニキハワスレテルカモシレナイガ、ムラヲハナレルトキハ、チョウロウノトコロニヨッテイカナイトイケナインダ。ヨッテイコウ。」
そんな決まりがある事を教えてくれた。

礼を言いつつ、ゴンズに長老のところまで先導してもらう。
「オレトイッショデヨカッタダロ?」
とゴンズは心なしか嬉しそうにしている。

集落はそこまで大きくない為長老の家にはすぐに着いた。
「チョウロウ、ゴンズトゴンダデス。ソトニデルタメゴアイサツニウカガイマシタ。」
家の入口から声をかけると長老と思わしきオークから中に入るように返答があった。

ゴンズと中に入ると家の入口のすぐ近くに長老は腰掛けていた。長老は老齢のオークのようだがなんとなく見た目に威厳があるような気がした。
集落を出る際に声をかける決まりがある為、長老の家は入口近くが広くなっているようだ。

「ゴンズニゴンダカ。コンナアサカラデカケルノカ。」
「ハイ、モリノソトニモクザイアツメトエモノヲサガシニデテキマス。」
「ソウカ、ゴンズハトモカクゴンダモイッショデダイジョウブカ?」

長老とゴンズのやり取りを黙って聞いていたが、長老からもゴンダは心配をされているようだ。

『心配を有難うございます。ゴンズに迷惑はかけないように気をつけます。』
「ズイブンマトモナヘンジデオドロイタナ。ナンダカイツモノゴンダトチガウヨウダガ・・・。」

普通に答えただけだが、長老は当たり前の返答にも驚いていた為、
『昨日森の外で転んで気を失ってしまったのですが、それ以来昔のことが曖昧でこのような感じなのです。そんなに違うでしょうか。』
説明を続けた。

「ソノヨウナコトガアッタノカ。・・・イツモトチガウノデオドロイタナ。ドレ、ナニカイジョウガナイカミテミルトスルカ。」
長老がそう言うと、宙に何やら文字の書いてある画面の様な物が浮かんだ。

「コレハ・・・ドウイウコトダ?ゴンダナノハマチガイナイヨウダガ、イママデノゴンダトハノウリョクガオオキクチガッテイル・・・。」
長老が驚きを隠せない様子だ。



どのような原理で宙に浮いているのかも疑問ではあるが、
長老が見ている画面を自分でも見てみる。

「マエニミタトキゴンダノチリョクハ1ダッタハズ…。コンナキュウニノウリョクガアガルハズガナイ。シカモショウニンナドソノヨウナオークハミタコトガナイ…。」
長老は驚きながらそのようなことをつぶやいていた。

長老曰く、この画面はゴンダの能力やスキルを示しているようで長老の「鑑定」のスキルによって
個人の能力をある程度把握できるのだという。
また、一度鑑定を受けた後は自分でも能力の確認は出来るとのことだった。

改めて、自身の能力を確認してみるが、名前の後ろに(タケシ)とあることから、やはり自分が権田剛士であることは
間違いないようだが、長老や画面を見ているはずのゴンズもそれに驚いた様子はない。

(画面のすべてが見えているわけではないのか?そもそも能力値というのはなんとなく理解できるが、
スキルとはいったいなんなのだろうか。)

そんなことを考えていると、
「アニキスゴイヤ!コンナニチリョクノタカイオークミタコトナイ!コレナラミンナニバカニサレルコトモナイヨ!」
ゴンズが嬉しそうに声をかけてきた。

一般のオークの能力値がどの程度の物なのか知る由もないが、
ゴンズがそういうのであれば他のオークよりは高いのだろう。

「ゴンダノスキルモミタコトガナイモノバカリダ。イッタイドノヨウナスキルナノカ、ワシニハセツメイデキンガ
ショウニントイウショクギョウトカンケイシテイルノダロウ。スキルノコウカハジブンデタシカメルホカナイヨウジャ。」
長老はゴンダのスキルを見てそのように説明をしてくれた。

スキルのことも気になるが当座の目的はこの世界の情報を集めること、人間の集落を確かめに行くことである。
長老には改めて礼を言い、スキルの効果についてわかったらまた報告することを伝える。

「イママデシュウラクノオニモツダッタゴンダガキュウニコノヨウナノウリョクヲミニツケルトハ、コレハナニカノマエブレカモシレンナ…。キヲツケテイクンジャゾ。」
長老はそういって送り出してくれた。

スキルの存在を知ることが出来たが、まだこの世界のことはわからないことばかりである。
(長老の言葉も気にはなるが、先を急がねば。)
ゴンダはそう考えながらもゴンズと共に村を出発するのだった。
しおりを挟む

処理中です...