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第一章:監禁されるは生徒会

第六話:告知されるは生徒会

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 全員が昼食を取り終えたのを確認して、俺は口を開いた。
「それでラムダ。朝言っていた委員会の話って?」
 俺はラムダに訊ねる。するとラムダはしばらく黙り込むと、ふいと目を逸らした。
「や、単にうちの学校は委員会には全員参加で、二人は私と同じところに所属になった……というだけで。や、勝手にアルファが決めたんだが……」
 ラムダの声は徐々に小さくなっていき、最後には完全に消えてしまっていた。
「まさか! 勝手に委員会を決められてしまいましたの!?」
 帝野は声を荒げ机をバンと叩くと、立ち上がった。大声と机を叩く音にびっくりしたのか、ラムダは「ひゃあっ!」と声を漏らし、体をびくと震わせた。
「ミ、ミカエル。違うんだよ。私は悪くなくて……というか、委員会だけど委員会じゃないから……にゃあ」
 ラムダは言い訳の言葉を捲し立てた。おそらく帝野の怒りの標的にならないようにだろう。終いには猫の鳴き前をしている。いや、可愛さではどうしようもならないだろう。そんなことを思いながらも、帝野の方に目をやる。
 帝野はおもむろに席に座ると、俯いてしまった。どちらかと言うと、怒っていると言うよりもショックを受けているようだ。ずうんという音が聞こえてきても不思議じゃあない。
 とは言え、俺も勝手に委員会を決められたと言われて、ショックを受けていないわけではない。委員会というと、非常に面倒なものも含まれている。もちろん、楽な委員会もあるのだが、面倒な委員会に決められたとなるとちと面倒だ。もうね、メンドー×メンドーだよ。ハンター×ハンターもびっくりだよ?
 俺は楽な委員会だと良いなあと思いながら、目つきでラムダに続きを促した。真の英雄は眼で殺す。がるるう~。
 ラムダはぴゅうぴゅうと下手くそな口笛を吹くと、俺から視線を逸らした。
「二人が入るのは……生徒会だよ?」
「……は?」
 俺は思わず聞き返す。生徒会? 都会に憧れている田舎人が言う「Say! 都会!」じゃなくて?
 ラムダに視線を向けると、うんうんと頷いている。なるほど、どうやら俺たちは生徒会に入るらしい。なるほど……何故? 自分で言うのもなんだが、俺と帝野は入学初日に喧嘩で停学になるという問題児だ。そんな問題児が模範生徒の代表格みたいな生徒会に入るなんて考えられない。何故なんだ?
 俺はラムダに視線で問いかける。
 俺の視線に気がついたラムダは小首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「いや……俺たちには相応しくないだろ」
 俺がそう言い切る。しかしラムダは一瞬、顎に手を当てて何かを考えるような仕草をしたが、すぐにサムズアップした。
「んちゃ!」
「あざとさで誤魔化すにも限度があるからな!」
「ぶーぶー」
 俺の指摘にラムダは口を尖らせる。いや、何に対してブーイングしているんだよ。
 呆れと生徒会という如何にも面倒そうなフレーズに、自然とため息が溢れる。
 そんな俺とは裏腹に、帝野は生徒会という言葉に心が躍っているようだ。瞳なんかキラッキラだ。正直、そこら辺のアイドルより輝いている。というか、現実を知ったアイドルの瞳なんて、ドロドロ濁っているからね。
「生徒会……素敵響きですわ! ワタクシに……相応しい! 良いですわ! 正直委員会とか面倒くさいだけで、絶対嫌だと思っていましたが、生徒会となれば話は別です! この! 帝野家の! 桔梗が! 入って差し上げますわ~!」
「いや……冷静に考えて、何で俺たちなんだよ。停学騒ぎを起こすような問題児が入る会じゃねえだろ。生徒会は」
 生徒会という響きに興奮している様子の帝野をよそに、俺は疑問をぶつける。しかしラムダは俺の疑問に対して、冷笑で返した。
「停学騒ぎを起こすような問題児が入る会? 新しい同好会かい?」
 ラムダはべえと舌を出し、目を細める。まるで「君は馬鹿だなあ」と言っているかのような目つきだ。
 ラムダの人を馬鹿にするかのような仕草といい、揚げ足を取るかのような発言といい、軽い怒りが込み上げてくる。ストレスは体に悪い。故に怒りは溜め込まない。それが俺のモットーだ。
 言葉と怒りは、無意識下で体外へと放出された。
「そんなにかいかい言って、お前怪物くんなのか?」
 俺の発言に少しは不快感を覚えるかと思いきや、ラムダは腹を抱え、けたけたと笑った。
「ああ、怪物だよ。美貌のね」
「……ナルシスト」
「ナルシストで結構。自己認識は多少誤っていても良い。大事なのは自己認識を行えているという事実だ。自己認識が行えるということは、アイデンティティが強固に確立されているということだからね」
 ラムダはぺらぺらと小難しい言葉を並べると、俺を見て肩をすくめた。まるで「俺には言っている意味が理解できないだろう」とでも言いたげだ。
 あまりにも癇に触るラムダの言動に、理性が失われていく。ああ、帝野に殴りかかる前の状態とよく似ている。
 しかし同じ過ちは犯さない。学習できる人間こそが俺だ。息を止め、怒りを鎮めていく。今日からできるアンガーマネジメント、筆頭候補だ。
 そんな様子を見て、ラムダは申し訳なさそうにちろと舌を出した。
「ごめんごめん。ここしばらく人間と話していなかったから、ついつい……ね? 次からはあまり煽らないようのするよ。悪いね」
「……わかった」
 俺は息を止めたことで体に溜まった二酸化炭素を、言葉と同時に吐き出した。
 ラムダは俺の言葉を聞くと、ぱあと表情を明るくさせた。
「ありがとう。それで、君たちが生徒会に選ばれた理由だが……放課後に生徒会室で話そうか。じきに昼休みが終わる」
 そう言ってラムダはひらひらと手を振り、教室から出て行った。
 その様子を眺めていた俺の背後から、ボソリと帝野が呟いた。
「お花を摘みに行きましたわね」
「お前……デリカシーは家にでも忘れてきたのか?」
「生憎と他人本意の心は持ち合わせておりませんの」
「少しくらいは持っておけよ……」
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