童貞魔法使い 異世界へ

ミノル

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現代編

生きましょう。

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 絶望しそうになる俺に娘が何か伝えようとしている。

「かさ……。家に傘を取りに帰ろうよ。」
「傘? なぜ、今更……。 それに、取りに行ったとしても家と一緒に灰になってるだろ。」
「良いから早く!!」
「お、おう。」

 娘の迫力に負け、急いで家に向かった。

 家の物は全て燃えてしまっていたのに、不思議な事に傘は、無事で傷ひとつなかった。
 傘を持ち二人で近くの公園に行くと、いつもの鳩が集まってくる。

「今日は、パンはないんだ。 ごめんな。」

 娘が傘を開くよう命じる。 命じられたまま、その場で傘を開く。 すると、傘の裏側に魔法陣が描かれていることに気付いた。

「前は、こんなのなかったはずなのに……。」

 発動条件があったのだろうか。

「それは、転移魔法陣です。」
「えっ?」
「これで、私達が住んでいた異世界へ行く事が出来ます。 母は、今窮地に立たされています。母は、貴方の素質を見抜き貴方なら助けてくれるかもしれないと――。」

 だから、あんなに傘を返して欲しかったのか……。
 俺は、頭の中でバラバラのパズルが完成し、絶望した。全て仕組まれていた事だったのか? あの優しさも嘘で童貞の俺をもて遊んでいただけで、レベルアップの為に大量殺人を起こし、この世界に居場所を無くさせ、選択肢を奪う事も計算の内だったのだろうか、結局俺は、ただの操り人形だったんじゃないか。

 

「助ける? 誰が誰を? 嫌だ。 これ以上、もて遊ばれるのも辛いのも苦しいのも嫌だ。 」

 いくらレベルアップして魔法を覚えても、いくら肉体が強化されたとしても精神が強化される事はない。 心は、元の弱く卑怯でセコいただのおっさんだ。 そんな俺がこの状況を耐えられる訳がなかった。

 頭が混乱し、心が乱れる。

 職を失い、家を失い、愛を失った。

「お前らは、俺がこうなることを見越して近付いたのか? 俺を利用するため好きでもないのに結婚までしたのか? こんな世界なら死んだ方が…………。」


 俺は、それ以上喋る事も考える事が出来なかった。
 
 娘が近付き俺を強く抱き締め、口を塞いだ。

 しばらくの間、時間が止まったかの様に短いが永遠にも思える時間が過ぎた。
 童貞の俺は、知らなかった。
 この世にこれ程までに、柔らかいものが存在する事をそして、愛される嬉しいさを今の今まで知らなかった。

「貴方が死ぬ事は、私が許さない。 母が急に居なくなったと言うのに私を見放さないで、私の作った美味しくない料理を泣きながら美味しいと言ってくれた。 他人の私を必死に守ってくれた。 そんな優しい貴方を短い間でしたが、ずっと見ていました。 私は……私は、貴方を――。」

 餌を上げていたお礼か、ここぞとばかりに鳩達が一斉に羽ばたき飛び立つ。

  娘の言葉に雲がかかっていた心が晴れていく。

 利用され、斬り捨てられるだけの人生だった。
 俺は、産まれてこんなに、愛された事があるだろうか。
 必要とされた事があるだろうか。

 この言葉が、この気持ちが計算されたものじゃないことくらいは、理解できた。

 そして、俺は、娘の母親、俺の嫁を助けに行く事を決意する。

「行こう。 一緒に生きて。 異世界で嫁と娘を守るため 俺が、生きるために。」

 娘が真っ赤な傘をさす。
 二人でその中に入る。

「貴方の膨大な魔力が必要です。 転移する座標と呪文は、私がやります。 それでは、行きますよ?」

「パルプンテ」

 傘の内側が光りに包まれる。

 公園には人の姿はなく、俺は、この世界から完全に消え去った。





行きましょう。
一緒に生きましょう。 異世界で
母と私を守るため あなたが、生きるために

異世界では、人の命の重さは、軽い
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