魔王様の弟子

tsuyu

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第一部

9.コンラート様は○○○

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 ウインクを爽やかにするこのお兄さんは、ユーリさんに「でかい図体でウロチョロするな! 邪魔だ! 座れ!」と言われ、近くにあった椅子に座った。
 ユーリさんは、自分の隣の椅子に私を抱き上げ、座らせる。

「へぇ~、魔王が甲斐甲斐しいね」
「魔王言うな」
「あの、その魔王って何ですか?」

 首を傾げると、コンラート様は面白そうに教えてくれる。

「歴代最年少の十二歳で、国家認定の魔導師になったこいつのあだ名だよ」
「十二歳! それって凄いんですよね? でも何で魔王なんですか?」
「こいつ昔から無愛想で、笑ったら笑ったで笑顔が怖いから、『氷の魔王様』とか『魔導師の大王様』とか呼ばれてんの。略して『魔 (導師の大) 王様』」
「失礼な」
「…なるほど」
「レディ? 何が『なるほど』なのかな?」

 黒いオーラが漂ってそうな笑顔でこちらを向くユーリさんは、まさしく魔王様だと思います!

「そう言うところだろ」

 コンラート様に心の中で激しく同意した。
黒い笑顔から無愛想な顔に変化したユーリさんの抗議を、コンラート様は笑顔でかわす。

「仲がよろしいのですね」
「ああ、ユーリは父方の従弟なんだよ」
「そうなんですか!? 道理で顔立ちが似ているなぁと! ユーリさんがコンラート様の髪色と目の色が一緒だったら、兄弟って言われたら納得します!」

 一瞬、二人が目を見開いて固まる。

「「よくわかったな(ね)」」
「え?」

 二人が視線を交わし、ユーリさんが頷き、右耳にしていた蒼色のピアスを外すと、髪色が黒髪から一瞬で水色がかったシルバーの髪に変化し、蒼い眼は青紫色に変化した。

 吃驚ビックリして目を見開く。

「このヴォルフガング帝国では、この髪色だと目立つからね。城下にいるときユーリは魔導具で変装しているんだ」
「目立つ? そういえば、市場でも濃い髪色の人が多かったですね」
「貴族は魔力量の多い者が多くて、髪の色が淡いんだ。特に皇族に近いほど水色がかったシルバーの髪をしているよ」


「え?」


「あれ? ユーリから聞いてない?」
「まだ言ってないな」

 驚いてユーリさんを見ると、フッと笑っていた。

 え? ちょっと待って! コンラート様の家名、ヴォルフガングって言った!?
慌てて二人を交互に見ると、そっくりな笑顔で自己紹介される。

「ヴォルフガング帝国 皇弟ヴォルフガング公爵の孫、ユリウス・ゲーテ・ヴォルフガングだ。ああ、黒髪の時は『ユーリ・ミカエル』のままで頼む」

 やっぱりお貴族様でした! しかも皇族!
ゲーテさん… なんと『魔王様』にお似合いなミドルネームでしょう…

 というか、『ユーリさん』のファミリーネームは今初めて聞きましたけど!?
何故、大天使様?

「~~はい」

 色々飲み込んで返事をしたら、またユーリさんに頭を撫でられました。
もうっ! 本当に色々解せないよ!?

 いつまでも頭を撫でているユーリさんに、いい加減にしてください! と、頬を膨らませそっぽ向くと、コンラート様にまで笑われた。

「でも何で偽名が『ユーリ・ミカエル』なんですか? 『ルシファー』とか『ベリアル』とか『メフィストフェレス』とかならまだしも、『サタン』とかの方が魔王様ぽくないですか?」
「ああ! それは俺が名付けたんだ! ハルカちゃん、『ミカエル』の “ み・か・え ” を一文字ずつ繰り上げて、ずらして読んでごらん?」
「繰り上げて、ずらす?」

『み』『か』『え』を一文字ずつ繰り上げる?
『み』の前…


「え? ……『まおう』?」


『み』の一つ前は、あいうえお順だと『ま』
『か』の前は『お』
『え』の前は『う』

「やっぱりハルカちゃん、日本人でしょ!」
「な、何で…」
「あ、俺も転生する前は日本人だったからね!」


 めいいっぱい、間を開けて、「はぁああああああああ!!!」と叫び、ユーリさんにもうちょっと声落として、と大きな手で口を塞がれました。


 何回も驚いて叫んだので、落ち着きなさい、と手渡されたのは、目覚めた最初の日にユーリさんが入れてくれて飲んだ、薄い緑色のお茶でした。
 ユーリさんが調合した乾燥果実のフレーバーティー(果実茶)だそうです。

 飲んでいる間に、コンラート様の話を聞いたところ、コンラート様は日本人でピアニスト兼、音楽教諭だったそうです。
 名前を伺ったら、私でも知っている有名なピアニストでした!
私が知っている限り、ご存命だったから、こちらの世界に来たのは時間軸が違ったのでは? とのこと。

 コンラート様は五歳の時に前世の記憶を思い出して、転生した事に気付いたそうです。
コンラート様が転生者という事は、コンラート様のご両親と、あと同じ公爵家の敷地内に住んでいて一緒に遊んでいたユーリさん改め、ユリウス様たち公爵家の皆様にとっては、公然の秘密だそうです。

 私が合掌した時もユーリさん(ユリウス様にユーリで、と笑顔で命令されました)が、『いただきます』に反応したのは、コンラート様が言っていたからだそうです。

 そして!

 魔力を操作すると、ゲームみたいにステータス画面が見えると教えてもらいました!
早速やってみました!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

          名 前:ハルカ
          年 齢:10歳
          H  P :400/500
          M  P :800/1000
          属 性:光・水・緑・金
          種 族:薔薇の精霊 (転生者)
        レベル:6
  特殊スキル:錬金術・香料精製・植物操作

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 十歳!?
え! 小さいと思ってはいたけど、身長110cmぐらいしかないから、六歳ぐらいかと思ってたよ!?
 そしてMPがやたらと多い!!
種族に至っては精霊とか!? 人ですらなかったよ!?


「ユーリさん、コンラート様…」

 二人に見てもいいか? と聞かれて頷き、情報公開の方法を教えてもらう。


「やっぱりな」

 ユーリさんの第一声がそれだった。

「鑑定スキルでHPとMPと種族属性の転生者の所は、森で倒れていた時に見て知っていたんだ。精霊というのは見えていたけど、特殊スキルの保護魔法で詳細はわからなかったけどね。ごめんね」
「薔薇の精霊か。道理で。ハルカちゃんから花の香りがするのはそのせいか」
「…凄い魔導師のユーリさんでも、全部見れなかったんですか?」

 ユーリさん、そのごめんねってどういう意味?

「保護魔法が掛かっていると言うことは、高位の精霊の加護があると言う事だ。だが、ハルカはここに来た時の記憶は無いようだし、もしかしたら生まれたてだったのかな? とか思っていたけど、十歳なんだね。小さい割に魔力量が多いと思っていたけど、精霊でその年齢なら普通だし納得いくね」
「魔力枯渇寸前だったなら、小さいのはそれでじゃない?」
「魔力の省エネって事ですか?」
「省エネ、うん。多分?」

 コンラート様は省エネ発言がツボに入ったのか、クスクス笑っている。

「魔力感知や鑑定スキルでは、自分より魔力量やHPが高い相手だと見えない。低い相手だと見える。名前や年齢、属性は本人が許可しないと見えないようになっているから気を付けて」

 個人情報は、こちらの世界でも重要だそうです。
ちなみにユーリさんとコンラート様のステータスは、一部見せてもらいました。
 ユーリさんは、コンラート様の(転生者)という所を見て知っていたので、私の事を紹介してくださったそうです。

もっと早く教えてくれてたら良かったのに! と拗ねたら、コンラート様が近々来るのが分かっていたので、一石二鳥だから驚かそうとしたらしい。

 ごめんね? とニッコリしても、今回ばかりは許しません!
撫で撫でしても、誤魔化されないですよ!


「そう言えばハルカちゃんは、何歳までの記憶あるの?」
「え? 成人してました。月城 陽華つきしろ はるか、三十四歳です」

「「え?」」
「え?」

 二人に撫で撫でされました。嘘じゃないよ!! 解せぬ!!!
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