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第1章 目覚め
禁断の書
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僕は自ら、納屋暮らしを選んだ。
学園を卒業した日から、僕の仕事は馬鹿みたいに増えた。
与えられた仕事を終わらせ、やっと屋敷へ戻ると、扉には鍵がかかっていた。裏口も。
(もう、いいや…)
納屋で体を丸めて眠り、翌日、父に「今日から納屋で暮らす」と伝えた。
「やっと身の程を知ったか」
とカイ。母は、いつものように無表情で、祖父はフンと鼻を鳴らした。
「好きにしろ。1日1回は食事を届けてやる」
「ありがとうございます」
父へ礼を述べ、納屋へ急いだ。あの人たちと顔を合わす機会が減るだけでよかった。
ーーーーーーーーーーー
その日から、僕は薄暗い納屋の奥を片付けた。
モノ作りが好きな僕にとって、倉庫奥は宝の山だった。
ほかの人が見ると、きっと「ガラクタ」と言うだろうけど…。
埃とクモの巣を払い、僕はいろんな材料を集めた。
「あれ?」
ある日、いつものように埃まみれの山を整理していると、壁際の古びた棚の裏に手が吸い込まれた。
(なんだ?)
不自然な空間。
好奇心に駆られて手を伸ばすと、指先に、ひんやりとした感触がした。
小さな取っ手を引いてみる。出てきたのは、ひっそりと埃を被った、古い木箱だった。
箱を開けると、目に飛び込んできたのは、奇妙な図で埋め尽くされた古文書。
表紙の羊皮紙は黄ばみ、触れると今にも角が崩れ落ちそうなほど脆い。
そっとページをめくると、難しい文字の羅列の中に、ところどころ見覚えのある図形や魔道具の設計図のようなものが描かれている。
少し眺めて驚いたのは、どうもその設計図のどれもが、現代のアルバス家が用いる「魔力ありき」の理論とは全く異なるようなことだった。
「これ……なんだ?」
僕は夢中になって文献を読んだ。陽が傾き、納屋に影が長く伸びるのも忘れて、ただひたすらに読み進めた。
そこに記されていたのは、古代魔道具に関する禁断の教え。
(これは、おじいさまや父上が探し回っているものでは…)
アルバス家が、この世から消去ために、長年探し求めていたとされる本。
アルバス家の歴史から抹消された魔道具師が遺したもので、魔力の有無に関わらず、道具の本質を見極めるという、僕にとってはまさしく目から鱗の「異端の教え」だった。
『魔力に頼るな。道具そのものの力を引き出せ……』
……ドクッ……
僕の胸が、これまで感じたことのない熱を帯びる。
…魔力がなくても、僕は魔道具師になれるのかもしれない。
いや、魔力がない僕だからこそ、この教えを理解できるのかもしれない…。
家族に「出来損ない」と罵られ、魔力がないことを悔やみ続けた日々。
その欠点が、実は僕だけの可能性になるなんて、夢にも思わなかった。
以来、僕は夜明けとともに起き、文献を読み進めた。
鉛筆を手に、文献の図形を何度も何度も模写する。
表に人の声がする頃には、家の作業を開始し、その間は理解できない部分を考え続けた。何日も。
学園を卒業した日から、僕の仕事は馬鹿みたいに増えた。
与えられた仕事を終わらせ、やっと屋敷へ戻ると、扉には鍵がかかっていた。裏口も。
(もう、いいや…)
納屋で体を丸めて眠り、翌日、父に「今日から納屋で暮らす」と伝えた。
「やっと身の程を知ったか」
とカイ。母は、いつものように無表情で、祖父はフンと鼻を鳴らした。
「好きにしろ。1日1回は食事を届けてやる」
「ありがとうございます」
父へ礼を述べ、納屋へ急いだ。あの人たちと顔を合わす機会が減るだけでよかった。
ーーーーーーーーーーー
その日から、僕は薄暗い納屋の奥を片付けた。
モノ作りが好きな僕にとって、倉庫奥は宝の山だった。
ほかの人が見ると、きっと「ガラクタ」と言うだろうけど…。
埃とクモの巣を払い、僕はいろんな材料を集めた。
「あれ?」
ある日、いつものように埃まみれの山を整理していると、壁際の古びた棚の裏に手が吸い込まれた。
(なんだ?)
不自然な空間。
好奇心に駆られて手を伸ばすと、指先に、ひんやりとした感触がした。
小さな取っ手を引いてみる。出てきたのは、ひっそりと埃を被った、古い木箱だった。
箱を開けると、目に飛び込んできたのは、奇妙な図で埋め尽くされた古文書。
表紙の羊皮紙は黄ばみ、触れると今にも角が崩れ落ちそうなほど脆い。
そっとページをめくると、難しい文字の羅列の中に、ところどころ見覚えのある図形や魔道具の設計図のようなものが描かれている。
少し眺めて驚いたのは、どうもその設計図のどれもが、現代のアルバス家が用いる「魔力ありき」の理論とは全く異なるようなことだった。
「これ……なんだ?」
僕は夢中になって文献を読んだ。陽が傾き、納屋に影が長く伸びるのも忘れて、ただひたすらに読み進めた。
そこに記されていたのは、古代魔道具に関する禁断の教え。
(これは、おじいさまや父上が探し回っているものでは…)
アルバス家が、この世から消去ために、長年探し求めていたとされる本。
アルバス家の歴史から抹消された魔道具師が遺したもので、魔力の有無に関わらず、道具の本質を見極めるという、僕にとってはまさしく目から鱗の「異端の教え」だった。
『魔力に頼るな。道具そのものの力を引き出せ……』
……ドクッ……
僕の胸が、これまで感じたことのない熱を帯びる。
…魔力がなくても、僕は魔道具師になれるのかもしれない。
いや、魔力がない僕だからこそ、この教えを理解できるのかもしれない…。
家族に「出来損ない」と罵られ、魔力がないことを悔やみ続けた日々。
その欠点が、実は僕だけの可能性になるなんて、夢にも思わなかった。
以来、僕は夜明けとともに起き、文献を読み進めた。
鉛筆を手に、文献の図形を何度も何度も模写する。
表に人の声がする頃には、家の作業を開始し、その間は理解できない部分を考え続けた。何日も。
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