捨てられた魔法道具師は天才だった。究極の道具で国を救いますよ?

みなわなみ

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第2章 流浪

貧しい村

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 行くあてもなく、ただひたすらに歩き続けた。

 ひゅう、と喉から漏れるのは、もはやうめき声ともつかない息。


 アルバスの屋敷を後にしたあの日から、何日が過ぎたんだろう。

 感覚はすでに麻痺していた。ただ、一歩ずつ、重い足を前に進めることだけが、僕にできる全てだった。

 背中には、使い古されたボロ布に包んだをしっかりと括り付けている。
それは、あの家族から何の役にも立ちそうもないと笑われて、持ち出すことを許されたボロタガー。

 けれど、僕にとっては違う。
僕が唯一手にした、そして唯一信じられる、未来への希望だ。

 この短剣タガーだけが、僕の全てを賭けた証明になるはず。
 僕の相棒。
 僕は短剣タガーに「秘密アポクリフォス」という名をつけて、ともに進んだ。

ーーーーーーーーーー

 道なき道を彷徨さまよい、気がつけば国境近くまで来ていた。

 目の前にあるのは、草木もまばらな荒れ地と、その中に点在する粗末な小屋の集落。
遠くには、焼け焦げた木々が立ち並び、生々しい傷跡のように空を突き刺さしていた。

 (…これは…ひどい…。まるでこの世の果てだ…)

 僕は知らずと足を止めた。
 集落の入り口まで近づくと、人影が見える。
しかし、彼らの姿は、僕の心を締め付けた。

 彼らの顔には、諦めと疲弊の色が深く刻まれていた。
土埃ちちぼこりにまみれた衣服は擦り切れ、その瞳の奥には、生きることに精一杯な、しかし、それでも懸命に生きていこうとする微かな光が宿っていた。

(僕と、同じだ……)

 僕も、あの屋敷では、ただ生きるのに必死だった。
家族に蔑まれ、存在しないものとして扱われ、ただひたすらに耐え忍んでいた。

 彼ら村人の瞳の奥に宿る光が、僕の心に、微かな、だが確かに温かい光を灯した。
それは、忘れかけていた、人間らしい感情の揺らぎ。

(魔道具で、なにか助けることができないだろうか…)

 アルバス家の魔道具は、王族や貴族、一部の富裕層のためのものだった。華美で、強力で、地位や権力を象徴するような道具ばかり。僕が生活に役立ちそうなものを作っても、鼻で笑われた。

 だが、この村の人々は、僕がこれまで見てきた誰よりも、魔道具を必要としているように見えた。
贅沢品ではなく、生き抜くための魔道具が。
そう考えると、胸の奥から、じんわりと温かいものが込み上げてきた。

(僕の魔道具で、誰かを助けることができるかもしれない)

 ただ純粋に、彼らの苦しみを和らげたいと思った。

 僕は意を決して、集落の門へと足を踏み入れる。
警戒の視線を浴びても構わない。僕には、もう失うものなど何もないのだから。
唯一あるのは、この短剣タガーと、この胸に灯った、小さな希望の光だけだ。
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