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第2章 流浪
出会い
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僕は恐る恐る村に足を踏み入れる。
村の入り口には、かろうじて形を保っている木製の柵があるものの、あちこち朽ちて今にも崩れ落ちそうだった。
村の中も同様に、家々は傾き、畑は痩せ細って、作物の姿はほとんど見えない。
時折聞こえるのは、風に揺れる枯れ草の音と、遠くで響く魔物の咆哮らしき不気味な響きだけだった。
人々は僕のような見慣れない旅人に対して、警戒の色を隠さない。
彼らの視線は、僕の古びた衣服と、背中に背負った包みに向けられていた。
そんな中、僕は、か細い腕で井戸から必死に水をくみ上げている女性に声をかけた。
僕と同じくらいの年だろうか…
「お手伝いしましょう」
僕の声に、女性は警戒するように振り向いた。
その顔は土埃に汚れ、髪は乱れ、痩せこけているにもかかわらず、瞳には強い意志と警戒の光が宿っている。
しかし、体全体には疲労の色が色濃く浮かんでいた。
「旅の方……こんな僻地で、何か御用ですか?」
彼女の声は掠れていて、今にも消え入りそうだった。
僕は慌てて首を横に振る。
「いえ、その……道に迷ってしまい、それで、ここに……」
自分の口下手に嫌気がさす。
(けど、何を言っても、きっと怪しまれるよな…)
彼女は僕の返事に眉をひそめ、さらに警戒心を露わにした。
彼女は僕の体をじっと見つめた後、かすかにため息をつく。
「この村には、旅人を泊める余裕なんてありませんよ。それに、今は魔物も頻繁に出る。
危ないですから、早くここを離れた方がいい」
彼女の言葉は突き放すようだったが、その奥には、僕を心配するような響きが微かに感じられた。
僕は、何かできることはないかと必死に考えた。
「あの……僕、魔道具師なんです。もし、何か困っていることがあれば、お役に立てるかもしれません」
僕の言葉に、彼女は呆れたような顔をした。
「魔道具師?あんたが?
こんな辺境の、魔力すら枯れかかっているような村で、一体何の役に立つというの?
それに、あんた、魔力あるの? なさそうだけど」
彼女の言葉は、まるでかつての家族のようだった。いや、家族よりはやさしいか。
どう返そうかと思っていた時、一人の老人がゆっくりと井戸に近づいてきた。
深い皺が刻まれた顔には、村の苦労がそのまま刻まれている。
「エレン、どうした?ん?見慣れない顔だのう」
「村長…」
長老か…
どうりで年老いているが、声に落着きがある。
彼女が僕のことを説明した。
長老は僕の全身をじっと見つめる。その目は僕の持つ「魔力喰らいの短剣」が包まれたボロ布に一瞬止まった。
「魔力は感じんのぅ。が……それで魔道具師か。珍しいのう」
長老は僕に、嘲笑ではなく、どこか興味深げな視線を向けた。
「ワシはこの村を統べるガンツじゃ。
何か困っていることがあれば、と申したな。この村は、今、大変な飢饉に苦しめられておる。
畑は荒れ果て、魔物は作物を食い荒らし、水も枯れかけている。
もし、本当に魔道具師であるならば、この状況を打開する術があるのか、見せてもらえんか」
ガンツの言葉は、僕にとっての試練であり、同時に希望でもあった。
(僕の、魔道具なら……!)
村の入り口には、かろうじて形を保っている木製の柵があるものの、あちこち朽ちて今にも崩れ落ちそうだった。
村の中も同様に、家々は傾き、畑は痩せ細って、作物の姿はほとんど見えない。
時折聞こえるのは、風に揺れる枯れ草の音と、遠くで響く魔物の咆哮らしき不気味な響きだけだった。
人々は僕のような見慣れない旅人に対して、警戒の色を隠さない。
彼らの視線は、僕の古びた衣服と、背中に背負った包みに向けられていた。
そんな中、僕は、か細い腕で井戸から必死に水をくみ上げている女性に声をかけた。
僕と同じくらいの年だろうか…
「お手伝いしましょう」
僕の声に、女性は警戒するように振り向いた。
その顔は土埃に汚れ、髪は乱れ、痩せこけているにもかかわらず、瞳には強い意志と警戒の光が宿っている。
しかし、体全体には疲労の色が色濃く浮かんでいた。
「旅の方……こんな僻地で、何か御用ですか?」
彼女の声は掠れていて、今にも消え入りそうだった。
僕は慌てて首を横に振る。
「いえ、その……道に迷ってしまい、それで、ここに……」
自分の口下手に嫌気がさす。
(けど、何を言っても、きっと怪しまれるよな…)
彼女は僕の返事に眉をひそめ、さらに警戒心を露わにした。
彼女は僕の体をじっと見つめた後、かすかにため息をつく。
「この村には、旅人を泊める余裕なんてありませんよ。それに、今は魔物も頻繁に出る。
危ないですから、早くここを離れた方がいい」
彼女の言葉は突き放すようだったが、その奥には、僕を心配するような響きが微かに感じられた。
僕は、何かできることはないかと必死に考えた。
「あの……僕、魔道具師なんです。もし、何か困っていることがあれば、お役に立てるかもしれません」
僕の言葉に、彼女は呆れたような顔をした。
「魔道具師?あんたが?
こんな辺境の、魔力すら枯れかかっているような村で、一体何の役に立つというの?
それに、あんた、魔力あるの? なさそうだけど」
彼女の言葉は、まるでかつての家族のようだった。いや、家族よりはやさしいか。
どう返そうかと思っていた時、一人の老人がゆっくりと井戸に近づいてきた。
深い皺が刻まれた顔には、村の苦労がそのまま刻まれている。
「エレン、どうした?ん?見慣れない顔だのう」
「村長…」
長老か…
どうりで年老いているが、声に落着きがある。
彼女が僕のことを説明した。
長老は僕の全身をじっと見つめる。その目は僕の持つ「魔力喰らいの短剣」が包まれたボロ布に一瞬止まった。
「魔力は感じんのぅ。が……それで魔道具師か。珍しいのう」
長老は僕に、嘲笑ではなく、どこか興味深げな視線を向けた。
「ワシはこの村を統べるガンツじゃ。
何か困っていることがあれば、と申したな。この村は、今、大変な飢饉に苦しめられておる。
畑は荒れ果て、魔物は作物を食い荒らし、水も枯れかけている。
もし、本当に魔道具師であるならば、この状況を打開する術があるのか、見せてもらえんか」
ガンツの言葉は、僕にとっての試練であり、同時に希望でもあった。
(僕の、魔道具なら……!)
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