捨てられた魔法道具師は天才だった。究極の道具で国を救いますよ?

みなわなみ

文字の大きさ
17 / 51
第2章 流浪

王都にて

しおりを挟む
 王都に到着した僕は、グラハム院長に連れられ、王宮魔導院の広大な施設に案内された。
 そこは、僕が育ったアルバス家の工房より巨大で、最新の設備が整っていた。

(こんな場所で研究できるなんて……夢みたいだ…)

 グラハム院長は、僕の魔力に依存しない技術を高く評価してくれた。
 彼は僕を「稀代きだいの魔道具師」と呼び、僕が自由に研究できる環境を整えてくれる。

 僕に与えられた部所は、納屋とは比べ物にならないほど広く、さまざまな素材や道具が惜しみなく与えられた。
 僕の心は、研究への尽きることない情熱で満たされていく。

 王都には、村とは比べ物にならないほど多くの人々が暮らしている。
 彼らの生活をより豊かにするため、僕は新たな魔道具の開発に没頭した。
 大量生産をするときは、正確に模様が描ける絵師も動員された。

 僕がまず発表したのは、「魔力消費ゼロの簡易照明具シャイン・エッジ」。
 これまでの照明具は魔力石を燃料とし、高価で一般には普及していなかった。
 だが、僕の作った照明具は、大気中の微細な魔力を吸収・変換するだけで、半永久的に光を放つ。

(これがあれば、夜の街も明るくなる。夜間の防犯にも役立つはずだ)

 発表会の日、僕の魔道具は、王都の人々に衝撃を与える。

「なんてことだ! 魔力石を使わず、こんなに明るいのか!?」
「これなら、貧しい者でも夜の闇を恐れずに済む!」

 人々は僕の照明具を手に取り、その輝きに歓声を上げた。
 彼らの喜びの声を聞くたびに、僕の胸は温かいもので満たされた。

(僕の魔道具が、こんなにも多くの人を笑顔にできるなんて……!)

 次に僕が開発したのは、「自動清掃型魔導具クリーン・ゴースト」。
 これは、微弱な魔力流を発生させ、空気中のほこりちりを自動で吸い取る。
 貴族の屋敷だけでなく、一般家庭でも手軽に使えるよう、小型化と低コスト化を追求した。


「こんなに楽になるなんて‼ 毎日掃除に追われていたのが嘘みたいだわ!」

 裕福な商家の奥様が、涙を浮かべながら僕に感謝を伝えてくれた。
 感謝の言葉にまだまだ慣れない僕は、
「お役に立てて光栄です」
 と、控えめに答えるのがやっと。

(エレンがいたら笑われてるな…)

 感謝を伝えられるたび、僕の頭には村の人々が思い浮かぶ。


 僕の生み出す魔道具は、これまで魔力を持つ貴族や一部の者しか扱えなかった常識を覆し、平民にもその恩恵をもたらした。
 瞬く間に、僕の魔道具は王都中で話題となり、王家からの信頼も寄せられるようになる。

 ある日、グラハム院長が、壮年の男性を僕のもとに案内してきた。

「リヒト殿、国王陛下だ…」
「あ、え?…え…?」

 グラハム院長の紹介に、僕は大慌て。
 が、国王陛下の微笑みに我に返り、たどたどしいが臣下の礼をとる。

「よいよい。リヒトであったか?」
「はい」
「そなたの魔導具は、この王国に多大な恩恵をもたらしている。
 魔力に頼らない技術は、まさに時代の夜明けだ」

 国王陛下直々にそう褒めれて、僕の心臓は激しく高鳴った。


 国王陛下も認めた僕を、民衆も「稀代の魔道具師」と呼び、称えた。

 その実績は、『アルバス家の名を汚した出来損ない』という、僕にまとわりついた過去の汚名をそそぐ。
 かつて「お前は家の恥だ」と罵られた僕が、今、王都で最も輝く魔道具師として脚光を浴びていた。

 しかし、僕の心には常に、あの村のあたたかな光景とアルバス家の冷たい視線があった。

(この名声は、僕を信じてくれた村の人々のために、そして、僕を否定したアルバス家への……)

 そこまで考えて、僕は首を横に振った。復讐のためではない。
 ただ、僕の魔道具が、誰かの役に立ち、人々を笑顔にできるのが、今の僕にとっての最高の喜びだ。

 いつしか巨万の富と名声が、僕の元に押し寄せるようになった。
 豪華な屋敷を与えられ、専属の使用人もついた。
 だが、僕は以前と変わらず、質素な生活をしている。
 唯一の贅沢は、研究に使える素材や資料が無限に手に入れることだった。

 僕は、古い魔道具書を買いあさり、片っ端から読んだ。
 国王陛下の許可で、王宮の図書室にも出入りできるようになり、研究に没頭していった。


「リヒト殿、こんなに素晴らしい魔道具を次々と生み出すとは、貴殿は本当に人間なのでしょうか?」
 
 グラハム院長が冗談めかして言う。
 僕は少し照れながら答えた。

「いえ、僕はただ、魔力がないからこそ、道具の本質を見極めようとしただけです。
 それに、僕の魔道具は、まだ完璧ではありません。
 もっと改良しなければならない点がたくさんあります」

 僕の謙遜の言葉に、グラハム院長は目を細め、深く頷いた。

「なるほど。その飽くなき探求心こそが、貴殿の真の才能なのだな」
「…ありがとう…ございます…」

 彼の言葉は、アルバス家の誰よりも、僕の心を温かく包み込んだ。
 僕のいる場所は、もうあの冷たい家ではない。
 ここにも、僕の技術を理解し、応援してくれる人々がいる。
 僕は、新たな居場所で、彼らの思いを裏切らないよう最高の魔道具師として生きていくのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...