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カフェ「潮音」
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平成25年、夏。
東北の小さな港町は、真夏の太陽が降り注ぐにもかかわらず、どこか時間が止まったようだった。
町の中心部から少し外れた高台、かろうじて津波を免れた古びた建物に「潮音」のプレートが揺れる。
「潮音」を営む美咲は、通り過ぎる人々に挨拶をすることもなく、ただ静かに店の前の掃除をする。
彼女の瞳は、時々、遠い海を見つめているようだった。
❖❖❖
…カラン…
ドアベルが鳴る。
「すいません、お店やってますか?」
日焼けした健康的な肌の青年が声をかけた。美咲は顔を上げ、ただ頷く。
青年は屈託のない笑顔で「お邪魔します」と声をかけた。
彼の明るい声とは対照的に、美咲の表情は氷のように固かった。
「カフェラテ、お願いします」
青年はカウンターに腰掛け、美咲がコーヒーを淹れる手元をじっと見つめる。
その手は、まるで時を刻む時計の針のように、寸分の狂いもなく動いていた。
豆を挽く音、お湯を注ぐ音、ミルクを温める音。すべての所作が洗練され、無駄がない。
青年は、その完璧さに驚き、同時にどこか寂しさを感じた。
「あの、お姉さんって、いつもそんなに無口なんですか?」
青年がそう尋ねると、美咲はただ一瞬だけ彼に視線を向け、再びコーヒーカップに視線を戻す。
青年は苦笑いしながら、スマホをいじりだした。
ほどなくして美咲が運んできたカフェラテは、きめ細かな泡が美しく、豊潤な香りをまき散らす。
「ありがとう」
お礼を言った青年は、一口飲んで、目を丸くする。
「うわ、めっちゃうまい‼ 神戸でもこんなうまいのんに当たったことがない‼」
興奮する青年の言葉に、美咲は、なんの反応も示さなかった。
青年は少しだけ寂しさを感じたが、なぜか翌日も「潮音」に足を運んだ。
そして、その翌日も。
東北の小さな港町は、真夏の太陽が降り注ぐにもかかわらず、どこか時間が止まったようだった。
町の中心部から少し外れた高台、かろうじて津波を免れた古びた建物に「潮音」のプレートが揺れる。
「潮音」を営む美咲は、通り過ぎる人々に挨拶をすることもなく、ただ静かに店の前の掃除をする。
彼女の瞳は、時々、遠い海を見つめているようだった。
❖❖❖
…カラン…
ドアベルが鳴る。
「すいません、お店やってますか?」
日焼けした健康的な肌の青年が声をかけた。美咲は顔を上げ、ただ頷く。
青年は屈託のない笑顔で「お邪魔します」と声をかけた。
彼の明るい声とは対照的に、美咲の表情は氷のように固かった。
「カフェラテ、お願いします」
青年はカウンターに腰掛け、美咲がコーヒーを淹れる手元をじっと見つめる。
その手は、まるで時を刻む時計の針のように、寸分の狂いもなく動いていた。
豆を挽く音、お湯を注ぐ音、ミルクを温める音。すべての所作が洗練され、無駄がない。
青年は、その完璧さに驚き、同時にどこか寂しさを感じた。
「あの、お姉さんって、いつもそんなに無口なんですか?」
青年がそう尋ねると、美咲はただ一瞬だけ彼に視線を向け、再びコーヒーカップに視線を戻す。
青年は苦笑いしながら、スマホをいじりだした。
ほどなくして美咲が運んできたカフェラテは、きめ細かな泡が美しく、豊潤な香りをまき散らす。
「ありがとう」
お礼を言った青年は、一口飲んで、目を丸くする。
「うわ、めっちゃうまい‼ 神戸でもこんなうまいのんに当たったことがない‼」
興奮する青年の言葉に、美咲は、なんの反応も示さなかった。
青年は少しだけ寂しさを感じたが、なぜか翌日も「潮音」に足を運んだ。
そして、その翌日も。
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