続きは生徒指導室で

伊吹咲夜

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 いつものように眠い目を擦りながら、昇降口で内履きに履き替えようと下駄箱の蓋を開けると、そこに内履きでない何かが目に映った。

「ん?」

 内履きの上に乗った白い封筒。昔のマンガでみたことのある、封を開けるまでのお楽しみ、なアレだ。

「……いまだにこんな古風な人がいるんだ」

 ラブレターにしろ、素行の悪い連中からのお呼び出しにしろ、珍しいことには変わりない。
 その場で開けて中身を確認したかったが、次々と登校してくる生徒の目が若干ではあるが気になった。
 これがラブレターなら囃されるだろうし、お呼び出しならば正義感に駆られた誰かが先生に言い付けてしまう可能性もある。
 どちらにせよ、面倒事にはなりたくない。

「はよ~花梨。どうした? こんな場所で突っ立って」
「お、おはよう! な、な、な、なんでもないよ!? なんでもっ!」
「そう?」
 
 背後から突然クラスメイトから声をかけられ、慌てて手紙を鞄に突っ込み、ひきつった笑顔で挨拶をし返した。

「それにしても、相変わらず眠そうだな。今日のミニテストの勉強してたから、ってわけではなさそうだな」
「あはははは……ぁあ! テストのこと、忘れてた……」
「マジかよ……」

 冗談を交えた挨拶のつもりが、花梨を絶望に陥れた。
 一応進学校であるこの高校は、ミニテストも内申点に大きく関わってくる。

「そこまで範囲は広くないから、少し復習すれば大丈夫だよ。うん」
「だよね。そうだと信じたい……」

 おかげで眠気は一気に吹き飛んだ。
 同時に、下駄箱に入っていた手紙の存在も、一気に忘れ去ってしまっていた。

 その存在を思い出したのは、家に帰ってからだった。
 明日もミニテストが入っていたため、ライブチャットを始める前に少し勉強しようと鞄を開けた時だった。

「あ」

 教科書の間に無造作に突っ込まれ、若干グシャっとなった白い封筒。
 これがラブレターならば書いてくれた人に申し訳ない扱いとなってしまったが、お呼び出しならば相応の扱いだと鼻で笑える。

「誰だろう? 何が書かれているんだろう?」

 封筒を裏返すが、名前はない。封筒の表の端には、大きな花びらの花がエンボス加工されていた。
 それ以外の特徴はまるでない。
 下手に封筒を破損しないよう注意しながら、ペーパーナイフを使って封を開ける。
 手紙にも、封筒と同じ花のエンボス加工がされている。

「……なにこれ」

『赤いチャイナ 似合うね』

 白い紙に書かれた赤い文字に、ゾクリと背筋が凍った。
 この不気味な赤い文字もそうだが、『赤いチャイナ』という文面。赤いチャイナは、昨夜花梨がライブチャットで着た衣装だ。
 身バレを防ぐために、バタフライマスクをしてウィッグまで付けていた。身バレする情報としては、細身の体躯と、個別チャットに入った者だけ知り得る音声のみだ。
 そもそも、あそこは有料アダルトサイトだ。他人のことは言えないが、高校生が気軽に入れるようなサイトではない。

「どういうこと?」

 心臓が早鳴り、息が苦しくなる。
 見知らぬ誰かにバレたことへの焦りと恐怖で、嫌な汗が背中から滴ってくる。

「ただの、悪戯だよ、な」

 入学当初にも、同じような悪戯はあった。
 ルーズリーフにぐちゃぐちゃと書き殴った文字で、『お前の秘密を知っている』『性別を隠しているようだが無駄だ』という手紙が入れられていた。
 気にしないで放置していたが収まらず、頭にきた花梨が手紙を廊下の掲示板に、『面と向かって言いたいことは言え!』とメッセージ入りで晒したことで、犯人は分からなかったが手紙はピタリと止んだ。

「きっと今回もそうだ」

 またどこかの誰かが、悪戯で入れてきたに違いない。
 赤いチャイナも、花梨が女顔で細身だから、それを揶揄って持ち出したのかもしれない。
 そう思わないと、恐怖で心がどうにかなってしまいそうだった。

「まだ、辞めるわけにはいかないんだ」

 ライブチャットも学校も。
 バイトは禁止されていないが、こんな未成年に相応しくない仕事をしていることが分かれば、なんらかの処分は下されるだろう。

「きっと大丈夫、これは単なる悪戯なんだから」

 花梨はそう思うことにし、手紙をビリビリに破いてごみ箱の中に投げ入れた。



「はあぁ……」

 放課後、花梨は机の上にうつ伏してした。
 
「ボク、何かしたのかなぁ」

 あれからも手紙は止むことはなかった。
 毎日毎日、ある日はライブチャットで着ていた衣装のことを、ある日は昼休みに屋上で昼寝していることが、あの赤い不気味な文字で書いた手紙が入れられていた。
 誰かの怨みか? とも思ったが、誰かに怨みを買うようなことをした覚えはない。
 何回か女子から告白されたことはあったが、円満に(?)お断りさせてもらっているので、こんなことをされるとは思えない。
 では、花梨に告白してきた女子を好きだった男子から、逆恨みでされたのか? と思うが、その可能性も低い。

「もうヤダぁ。何とかならないからぁ」

 前のように掲示板に晒したいところだが、あまりにも個人的なことが書かれ過ぎていて、そんなことは出来なかった。
 誰かに相談出来ればいいのだけれど、こんなこと相談出来る相手などいなかった。

(コウさんに、話せればよかったんだけど) 

 ライブチャットのことを話せば、きっと軽蔑されるだろう。
 いくらお金のためだとはいえ、風俗まがいのことをやっていると知れれば、軽蔑だけでなく疎遠にされてしまう可能性もある。

「花梨、具合でも悪い? ずっと机に伏してブツブツ言ってるけど?」
「えあっ!? だだだ、大丈夫! 何でもないよ!? うん!」
「そう? 本当に具合悪いようだったら、まだ保健室の先生いたからね?」
「うん、ありがとう」

 まだ教室にクラスメイトが残っていたとは思わなかった。
 声を掛けられ、慌てて顔を上げて作った笑顔で答えた。 
 ついでにチラリと周りを見ると、まだ数人のクラスメイトが残っていた。

(ここじゃあ、ゆっくり考え事も出来ないな)

 それにこのまま席でうだうだとしていたら、また他のクラスメイトから『具合が悪いの?』と声をかけられそうだった。
 荷物をまとめ教室を出ると、帰る体を装って校内をウロウロとし始めた。

「生徒会室に代わる、どこかゆっくり出来そうな教室、ないかなぁ」

 オリエンテーションで校内はグルリと回ってはいるものの、一年生ゆえに行ったことのない教室が結構あった。
 生徒会室だって、コウが生徒会長という役割についていなかったら、三年間の高校生活の中で足を踏み入れることはなかった場所だっただろう。
 花梨がいる一年生が使っている東棟とは、反対の西棟へ足を進める。
 西棟は主に三年生の教室と、実習室が存在していた。

 さすがに三年生の教室を覗いていては悪目立ちしてしまうので、三年のプレートが掲げられていない一階の教室を見て回ることにした。
 生物室、科学実験室、地学準備室……。絶対に誰もいないと分かる実習室だったが、高価な物や危険な薬品が置いてあるのだろう、しっかりと施錠されていた。

「ですよね……」

 施錠されていない教室のほうがレアなのだ。盗難もだけど、人気のない教室で虐めが行われたなんていう話も聞く。

「諦めて帰るしか……、ん? 開いてる……」

 一番奥の教室に手をかけると、予想外にスルリとドアが開いたのだ。
 見るとそこには『生徒指導室』とプレートが掲げられている。

「こんな教室、あったんだ」

 名だたるご子息・ご息女ばかりが集う進学校だけに、こんな教室は必要ないし、存在しないものだとばかり思っていた。
 開いた隙間から中を覗くと、簡素な椅子とテーブルに、担当しているであろう先生の私物を入れるためのロッカー、そして事務机が置いてあった。

「鍵は開いているし、誰もいない」

 そうなれば答えはひとつ。生徒会室の代わりにここを使わせてもらうしかない。
 
「なかなかいいんでない?」

 椅子の座り心地も悪くない。
 西側に面しているせいで、若干日当たりが悪く寒く感じるが、耐えられない程ではない。静かという点においては、生徒会室よりも静かかもしれない。

 ぼんやりと窓の外を眺めながら、手紙の対策を考える。
 やはり放置が一番なのだろうか。下手に刺激するよりは、相手が飽きるのを待つか、看過できない行動に出たところで行動を起こすのがいいのかもしれない。
 しかし、いつまで手紙は続くのだろうか? どこまで自分の精神は持つのだろうか?
 不安にかられていると、花梨の心に呼応するように、窓の外ではしとしとと雨が降り始めていた。

「本降りになる前に帰ろう」

 悩みが解決したわけではないが、ずっとここにいるわけにはいかない。
 鞄を持ち昇降口へ向かう。
 西棟と東棟の中間点まで来ると、花梨は視線を感じた。辺りを見回すと、さっき花梨が歩いてきた廊下に、澤田が立っていた。

「澤田先生……」

 いつから花梨の背後にいたのだろうか。全然気がつかなかった。

「今日は生徒会長と一緒じゃないのか?」
「あ、はい。用事があるからって、先に帰りました」
「そうか。鈴木も気をつけて帰れよ」

 澤田は少し眉間に皺を寄せながら花梨から視線を外すと、大股に傍らを過ぎていった。

(あ、いい匂い……。香水かな?)

 すれ違いざまにほのかに香った、甘い匂い。今のように心細く感じていると、この匂いのする腕にぎゅっと抱き締められたくなってしまう。
 
(イケナイイケナイ! ここは学校!)

 ブンブンと頭を振って、一瞬過った欲望を頭から追い出す。
 こんな欲望知られてはいけないと、澤田の姿が見えなくなったのを確認してから、花梨は昇降口へと向かった。



「花梨、なんか最近疲れてない? 疲れてるっていうか、元気がない?」
「え? 全然!? 元気だよ、ボクは」
「そうは見えないけど。もし何か悩んでいて元気がないなら、俺でよかったら相談に乗るよ?」
「ううん、大丈夫。ちょっと心配ごとがあるだけ。コウさんに話すほどでもないよ」
「そうか? いつでも話、聞いてやるからな」

 放課後。コウと並んで帰宅中、そんなことを言われた。
 手紙のことは未だに解決せず下駄箱に入れられ続けていたが、疲れているのには別に理由があった。
 澤田に抱いた欲望を打ち消そうと、連日SNSで知り合った相手と身体を交わしていたのだ。
 寝不足に加えて、体力も限界にきていたので、元気がないように見えるのは仕方がないことだった。

(全然消えやしない)

 いくら抱かれても、あのとき抱いた欲望は消えなかった。
 むしろ校内で澤田とすれ違うたび、あの香水の匂いを嗅ぐたび、澤田に対する欲望は増していった。

(いつもなら誰かに抱かれれば、こんな欲望消えるのに)

 澤田に対する第一印象は、入学式に見た凛とした姿に『かっこいい』と軽い一目惚れのようなものだった。
 だんだんスーツの内側に隠された体躯を想像するようになり、『もし抱かれたら』という妄想をするようになった。
 そんな妄想でオナニーしたり、それで足りないところは誰かに抱かれたりする程度で、ここまで欲望を抑えられなくなるようなことはなかった。

(なんだろう)

 これは自分が欲求不満のせいだと言い訳をして、過った感情の可能性を否定する。
 すべては気のせいなんだ、と。

(こういうときは……)

 寝るに限る。寝てしまえば大体のことはリセットされる。
 そう決まったら、向かう場所はひとつしかなかった。
 生徒指導室。
 今日もまた施錠はされておらず、花梨が潜り込んだあと誰も入ったような気配はしなかった。

「あーー!! 嫌になる!」

 机にうつ伏すなり、花梨は叫んだ。

「なんなのさボク! なんなんだよこの気持ち!」

 意味が分からない、と呟くと花梨はダランと力を抜いた。

「コウさんに話したところで、解決はしないだろうな……」

 しょんぼりとしていると、寝不足だったせいか眠気が襲い掛かってくる。
 うつらうつら……。
 最初から寝るつもりで来ていたから、誘われるままに眠りに落ちてく。

 気持ち良く眠りの世界に浸っていたのも、ほんのわずかな時間だった。
 もぞもぞと自分の身体をまさぐる何かに、花梨は一気に現実世界へと引き戻されたのだ。

「!?」

 パッと目を開け、見回す。
 すると文化祭の会議中でいるはずのないコウが、花梨の横に立っていた。

「コウさん……? どうしてここに?」
「どうしてって、花梨がここにいるからだろう?」
「え?」

 何を言っているんだ? と一瞬呆けてしまうが、自分が今普通でない格好になっていることに気づいて青ざめた。
 シャツのボタンは全部外されており、下半身はズボンどころか下着まで脱がされていた。

「なにこれ……」
「もう少し寝ていてくれたら、最後までシてあげられたのに。でも目が覚めていれば、花梨が喘ぐ声が聞けるから、逆に良かったのか」
「コウさん? なにいって……」
「花梨だって、俺に抱かれたいって思っていたくせに。画面越しに『襲って』って、ディルドを咥え込んで懇願していたじゃないか」
「画面越しって……」

 この言葉で、花梨の背中に悪寒が走った。
 コウは花梨がライブチャットをやっていることを知っている。しかも、個別チャットに入ってきている。

「コウさん、ボクがライブチャットやってること知って……」
「当然じゃないか。俺が花梨のことで、知らないことはなにもないんだよ?」

 あまりの恐怖に、身体が硬直する。今すぐここから逃げなくちゃと思うが、身体はいうことを聞かない。

「昨日は中年の親父と、××区の〇〇ホテルでセックスしていただろう? 二時間たっぷり、中出し三回。一昨日は大学生のイケメンと、そいつのアパートで。騎乗位で二回イったよね?」
「やだ、離れて!」
「ただ、俺でも知らないことがある。そう、花梨の中。画面で見せてくれた花梨のピンク色をしたアソコの中は、どれだけ温かくて、締まりがいいんだろうね」

 コウの手が花梨の頬に触れる。そしてゆっくりと顔が近づく。

「嫌っ!」

 唇が花梨の唇に触れる寸前、硬直していた身体を何とか動かして、思いっ切りコウを後ろへ突き飛ばした。
 突き飛ばされたコウは、油断していたこともあり、頭と背中をロッカーに打ちつけて床に座り込んだ。

「花梨、きさま……!! 俺にこんなことをしていいと思ってるのか!? こんなにまで花梨のことを愛して、大切にしているのに!」
「違う、こんなのボクの知ってるコウさんじゃない……! 触らないで!」
「本当は気付いていたんだろう? 俺の気持ち。個チャでも俺と分かっていて、あんなことして誘惑して。なのにリアルで会っても素知らぬフリして。焦れる俺の様子を見て、楽しんでいたんだろう?」
「ボクは本当に知らな」
「だから約束も平気で破れるんだよな? 『もうライブチャットは辞めて、俺だけの花梨になる』って約束したのに」

 あの時聞き取れなかった『約束』。それがこんなことだったと知っていれば、あの相手がコウだと分かっていたら、首を縦には振らなかっただろう。
 今さらそんなことを思っても、時間はあの時に戻らない。
 
「手紙を入れても、俺だとは気付いてくれなかった。わざわざ花梨の花のレターセットを作らせて、それを使ったのに。花梨に、花梨の花がどういうものか教えたのは、俺だったのに」
「あの手紙って、コウさんの仕業だったの!? あれでボクはどれだけ心を病んだのか、コウさんは分からなかったの!?」
「そんなの、花梨の自業自得だ。俺の言うとおりにしないから」

 コウはゆっくりと腕を伸ばし、花梨の首に手を当て、グッと力を込めていった。
 一瞬のことに、抵抗する間もなく息が出来なくなり、意識が遠くなる。
 酸素を求めて首を絞められた手を外そうと足搔くも、上手く力が入らない。

「や、め……」
「お仕置きだよ。俺に逆らうから、こんな目に遭うんだよ」

 さらに力が加わる。

「そういえば、首を絞められながらイクと、かなり気持ちいいらしいね。挿れられている側だけじゃなく、挿れている側もかなり締まっていいらしい」

 そう言うと、一瞬花梨の首の力が弱まった。
 朦朧とした意識の中、カチャカチャという音が聞こえてきて、音が聞こえなくなったと思ったら、花梨の両脚がグイっと大きく開かれた。

「やっとひとつになれる」

 前戯もなにもなく、コウは一気に自分のモノを花梨の穴の中へ挿し込んだ。

「うっ。花梨の中、ヤバイ」

 言いながらコウは力強く腰を振り始めた。同時に、一度緩めた手が再び、花梨の首を絞め始めた。

「ああっ、締まる、すごい締まる……」
「く……、かはっ……」
「すぐにイっちゃいそうだ」

 まだイキたくないのか、一旦腰の動きを止め、大きく深呼吸する。
 だが、それが花梨にとって好機となった。

「!?」

 意識が朦朧としていた筈の花梨がガバッと上半身を起こし、コウに頭付きをしたのだ。
 もう抵抗する力なんてないだろうと考えていたコウは、ズボンが足元にたごまっていたのもあり、思いっ切り後ろへ倒れ込んだ。
 その隙をついて花梨は椅子から転がるように降り、ドアへ向かった。
 が……

「!!」

 手をかけドアを開けようとスライドさせたが、ドアはピクリとも動かなかった。

「鍵がかかっているからね。ちゃんと立って鍵を開けないと、鍵は開かないよ」
「誰かっ! 誰か助けてっ!」
「助けを呼んでも無駄だよ。こんな実習室しかない奥まった教室に、しかも放課後に、誰がやって来るんだい?」

 ガタガタとドアを揺らし音を立て叫ぶも、首を絞められていたせいで声は声にならず、物音も聞こえなかったのか誰かがこちらに来る気配はまるでなかった。

 立ち上がれば鍵を開けれるとコウは言っていた。ならば、と花梨はぼやけた視界の中、手探りで鍵の場所を探しながら立ち上がった。
 が、鍵の場所が見つかる前に、花梨は床に引きずり戻された。

「無駄だと言っただろう」

 コウはさらに花梨をズルズルとドアと反対方向へ引っ張っていくと、バシッと花梨の頬を引っ叩いた。

「誰にでも股を開くアバズレのくせに! もったいぶるんじゃねーよ!」

 もう一度頬を叩く。
 
「動けないように縛ってからヤればよかったか。ま、それは家でヤるときにすればいいか」

 前髪を掴み、花梨の顔を持ち上げ、顔を寄せる。
 唇が触れようとしたとき、鍵がガチャと音を立て、勢いよくドアがスライドした。

「鈴木!」
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