乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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運命の出会い?

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街はずれに小高い丘がある。

その麓には子供の背丈ほどの低木が広がり、薬草もちらほら生えている。

街から遠く離れた森に行くほど訪れる人も少ないので当然薬草がたくさん残っているが、その道中、不届きな輩や魔物と遭遇する確率も高くなる。

ゲームのヒロインだったら、危ないところをヒーローという名の攻略対象者が助けに来てくれてーとかになるんだろうけど、そうは問屋が卸さない。

こちとらアンチ攻略対象者。

そんなフラグが立つっぽいことは、当然回避の一択。

なので、近場の安全な低木の茂みで薬草狩りだ。







だがしかし、なかなかどうして薬草は見つからない。

同じこと考える人間はたくさんいるんだなー。

しゃがんで低木の根元を隈なく探すが、薬草の刈り取られた跡ばかり。

うーん、作戦を変更するべきか。

早くも壁にぶち当たっているよ、ふぅ。




地面に体育座りをして今後の方針を思案していると、後ろの方でカサカサ何かが擦れる音がした。

動物でもいるのかと振り返って驚いた。

真っ黒な蝙蝠みたいな翼と、鳥にしては少し長い首を持った金眼の生き物がこちらを見ていた。




うーん、これはもしやのドラゴンか?




ドラゴンものの物語は大好きだ。

だが、目の前の生き物は黒くツヤツヤとしていて、何だか犬の濡れた鼻の頭のようで触り心地に不安を感じる。

背に乗って青空を滑空する・・・には、その身体は小型犬並みと心許ない。

潰してしまいそうだ。

しかし、漆黒の身体にクリクリの金眼にぽてぽてした白いお腹はかなり愛くるしい。

白い部分は何だかマシュマロを彷彿とさせるなあ。

あのポテ腹を触ってみたい・・・。

互いに言葉も無くじーっと凝視していると、諦めたのかドラゴンが目を逸らした。

そしてこちらに背を向けようとしたが、フラフラしてバランスが取れていない。

よく見ると右の翼が破けている。

血こそ出ていないが、穴の空いた翼じゃ飛べないだろうに。




「ちょっと待って」




私の言葉に少し驚いたようだが、振り返ったドラゴンの金眼は半眼だった。

悲しいかな、胡散臭い奴に思われていそう・・・。




「痛むの?」




尋ねるとドラゴンは首を振った。

おや、素直。

言葉を理解できるのね。

ここは翼を治して恩を売っておけば、今後何か役に立ってくれるかも。

例えば攻略対象者に刺されそうになったら、大きくなって建物の天井を破壊しながら助けに来てくれるとか。

やっぱり、ドラゴンは大きくなってなんぼよね!




「あなた大きくなれるの?」




つい好奇心で聞いてみたが、首を傾げるだけで答えになっていない。

うーん、言葉が通じなければ助けに来てもらえないじゃない。

まあ、ドラゴンさんとの相互愛が叶えば例え小さくても、きっと助けに来てくれる。

それに、あのポテ腹に触らせてくれるかも。




「翼に触っても良いかしら?」




いきなり触って火でも吹かれたらたまらん。

小さくても猛獣には違いない。

ちゃんと許可を得てから触りましょう。

ちびドラゴン、略してちびドラは訝しげにじっと私を見据えた後、身体のわりに長い首をこくんと動かした。

右の翼の付け根近く、丸に近い形の穴が3箇所もあった。

石でも投げられたのか?

因みに翼の触り心地はやはり湿っぽい・・・泣。




「治しても良い?」




私の言葉にちびドラの瞳孔が拡がった。

私はにっこり笑うと、目を閉じ両の掌で翼を挟むようにして仄暗い温かい光を募らせる。




これ、光魔法ではない。

実は闇魔法なのだ。

世の中には回復魔法は光魔法が一般的、というか光魔法でないと回復出来ないと考えられている。

がしかし、私の持つ光魔法はなんと爆撃魔法、つまりは攻撃魔法だけなのだ。

光魔法で回復して下さい、と言われたら、あなた爆発しますよ、としか言えない・・・とほほ。

そして私の持つもう一つの属性、闇魔法は何と治癒魔法なのだ。

治癒ですよ、治癒。

闇魔法が、ですよ。

闇で治るなんて思いつきもしないでしょ。

光魔法使いもレアだけど闇魔法使いは激レアというか、自分で言うのも何ですが、伝説級なのですよ。

見つかったら最後、死ぬまで王宮から出して貰えない。

このVIP級のスペックとチートさが、ヒロインたる所以だと思うのよね。

まあ、今目の前にいるのはイケメンとは程遠いちびドラ。

攻略対象者でなければヒロイン感出してもフラグは立たんでしょ。




掌にあったピリピリとした感触が次第に滑らかに変わっていき、翼が再生されていくのを実感する。

掌の仄暗い光が消え、目を開ける。

穴の開いていた右の翼は左側と同じように美しく艶めき、穴の開いた箇所は全て再生されていた。

ドヤァー!と言わんばかりに満面の笑みを浮かべてちびドラを見る。

ちびドラはまん丸金眼を限界まで見開き、恐る恐る動かして翼を確かめている。

その場で左右の翼を強く羽ばたかせ、両足を蹴って浮き上がった。

おおー、こりゃ飛べそうだね。

良か良か。

地面に座っている私の頭くらいの高さまで浮かぶと、頭の上をクルクル旋回し始めた。

そのまま飛び去るかと思ったが、私の膝の上に降りてきた。

うん?

礼でも言うのか?




「・・・驚いたな、闇の治癒魔法なんて初めて見たぞ」




おっ、喋ったぞ。

さすがはドラゴンさん、知能も高くていらっしゃる。

だが、何だか嫌な予感がする。

喋れるドラゴンって、物語とかでは鍵となる存在なのでは?

このままこの子と仲良くなることで、何かのフラグが立ちそうな気がするのだ。

これ以上、余計な行動をせずにひとまずずらかろう。




「それではドラゴンさん、ご機嫌よう」




私は顔に笑顔を張り付けながら立ち上がり、後退った。

ちびドラは怪訝な顔をして、私の頭の上に着地した。

爪が頭皮に食い込んで地味に痛いです・・・泣。




「おい、そう慌てて去ることもなかろう?」

「いや、早くお家に帰りたいんです。用事がありまして」

「まだ自己紹介もしていない、俺は・・」

「あ、そういうのはいいんで」

「俺に興味は無いのか?」

「はい、まったく」

「俺はお前に興味があるが」

「そういうのも要らないんで」

「お前、可愛くないな」

「それはお礼ということですね」




では、と立ち去ろうとする私に根負けしたとばかりに、頭の上からちびドラの首が垂れ下がってきた。




「失言だった。助けてもらっておきながら無礼な事を言った。謝罪する」

「私が勝手にしたことです。お礼も要りません。とにかく私のことは忘れてください」

「・・・闇魔法使いだと知れるのを恐れているのか?」

「そうです。だからここで会った事は忘れてください」

「簡単に忘れることは出来んが、誰にも話さないことは約束しよう」

「ありがとうございます。それでは今度こそご機嫌よう」

「いや、俺はもう少しお前と話がしたいのだが?」




やけに食い下がるドラゴンね。

はっ!

まさかフラグか?

攻略対象者の誰かと繋がっているのか?

背中に嫌な汗が流れる。




「・・・何を話したいんですか?」

「そう警戒するな」




今日は全く薬草が採れなかった。

国外脱出に向け準備を進めなければならないのに、収穫ゼロ。

早く帰って計画の見直しをしたいが、ちびのくせにやたら上から目線のドラゴンに捕まっている。




「お前の名は何という?」

「好きに呼んでください」

「お前、それは・・・」

「明日以降二度と会わないので、名前は互いに必要ありません」

「勝手に決めるな」

「明日以降も私に纏わりつく気ですか?」

「お前が名乗らなければそうしよう」




ほう?

こいつ私にストーカー行為を働くつもりだと?

このちびドラ、大きくなれないのよね?

なら、私の爆撃魔法でトカゲの黒焼きをつくってみせようか。

いつまで私の頭で休憩しているわけ?

頭の上で寛ぐちびドラを右手で鷲掴みにし、左手に握り拳を作った。

前世のオバサン人生でも、空手やってましたからね。

瓦割りもやった事ありますよ。




「もう一度、翼に穴を開けてやろう・・・」




ドスを効かせた低い声で唸るように言い放った。




「おい、落ち着け」

「悪いドラゴンはここで成敗する」

「はあ、いいだろう。付け回しはしない。名前も嫌なら必要ない」




私は拳の力を抜いてドラゴンを解放した。




「で、何が聞きたいんです?」

「・・・ここで何をしていた?」

「薬草を探していたんです」

「ここは町に近いから、目欲しいものは残っていないぞ」

「分かってます。でも、遠く離れた森に行くには時間もかかるし、何より護衛が必要です。そんなお金、うちにはありません。だから、数が少なくても安全な近場で採取するしかないんです」




少し間があって、ちびドラが口を開いた。




「ならば、俺が連れて行ってやろう」






その身体でどうやって?

もしかして、この子、こんなに小さいけれど私を咥えて飛ぶくらいの力持ちなの?

ちびドラは地面に降り立ち両翼を広げ、私を見上げた。




「おい、俺の額に手を当てろ」




小さいくせに上から目線なちびドラだ。

偉そうな物言いだが、ぷっくり出たお腹が子供らしくて思わず笑みが零れる。

ここは大人の余裕で言うとおりにしてやろう。

屈んでちびドラの目線に合わせようとしたが、彼は地面から飛び上がった。




「目を閉じろ」




立ったまま、左掌をちびドラの額に翳して目を閉じる。

すると、左掌に温かい魔力が湧き起こってきた。

暗闇の中、ちびドラから光を感じる。

と、自分たちは光の渦の中にいるようで、目を瞑っているのに眩しくてお思わず右手で目を覆ってしまった。

!!

一瞬、左眼の奥にジリっと焼けるような痛みを感じた。

あまりにも強い光だったから、網膜が焼けちゃうほどだったのかな?

危ない危ない、失明しちゃう。

この光って、もしかして転移魔法か何か?

なんか、それ、楽しそう。




光が落ち着く気配がして目を開けると、そこには大人の2倍くらいのちびドラがいた。

あ、もうチビじゃないから、ただのドラゴンか。

うーん、あれだけ盛大に光ったら、ここは時空移動、転移魔法でしょう。

でも景色は変わらず、変わったのはドラゴンのサイズだけだった。

わくわくして損した気分だ。




「なんだあ、大きくなれるんだ。てっきり転移魔法が発動したのかと思ったのに」

「・・・どこまでも失礼な奴だな」




大人サイズドラゴンは顔もそれなりの大きさになったからか、何だか人が中に入っているみたいで変な感じだ。




「ほら、この大きさならお前も背中に乗れるだろう?」

「え?ここに乗るんですか?なんかゴツゴツしていて乗り心地悪そうですけど?」

「お前、遠慮って言葉を知らないのか?」

「遠慮したせいで落下でもしたら、どうしてくれるんです?」

「そんなヘマはしない」

「過去に人を乗せて飛んだこと、あるんですか?」

「・・・」




眼を逸らすドラゴンをジト目でみる。




「落ちて死んだら、化けて付き纏いますからね」




仕方なく背中に跨り腰を下ろす。

翼の外側は産毛のような柔らかい毛で覆われており、モフモフとまではいかないが感触は良い。

ちびドラの時と違い、背中は鱗だけでなく少し長い鬣が生えている。

落ちそうになったら、引っこ抜けるほど強く鷲掴みにしてやる。

ふふふ、そうしたらハゲドラの出来上がりだ。 

小さい時はちびドラ、大人サイズになったらハゲドラと呼ぼう。




「・・・何を考えてるか分からんが、お前不気味だぞ」




ひとり忍び笑いをする私に、ハゲドラ(仮)は呆れた口調で言った。

そう言うあなたも、乙女に対してかなり失礼ですけど?

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