乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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面倒見の良いドラゴンさん

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空の旅は中々快適だった。

上空は温度が低いし風もあるから寒いだろうと思っていたが、そよ風程度で温かかった。

恐らくハゲドラ(仮)の魔力で制御してくれていたんだと思う。

でも、そこは口にしない。

そんなお優しさ満点のヒロインなんて反吐が出る。

アンチ攻略対象者、アンチヒロイン。

心の中では有り難く思えど、敢えて相手の良いところなんて指摘してやらない。

優しさ欲しけりゃ他当たれ。

私はヒロインを下りるのだから。







王都から東へ1時間くらいは飛んだだろうか。

目の前に雪を頂いた山々の連なる光景が見えてきた。




「バルナ連峰だ。その裾野に森林地帯が広がっている」




バルナ連峰を越えれば隣国のルシュカン帝国だ。

バルナ連峰は夏でも大地が凍る永久凍土の上に連なる雪山で、ルシュカンとの国境ともなっている。

人が生活するには厳しい土地だが、逆に貴重な薬草の宝庫でもある。




ドラゴンさんは高度を下げながら速度を落とすと、緑で覆われた開けた土地に降り立った。

足元には膝丈の草が育っているが、よく見ると都市部ではお目にかかれない薬草が茂っている。




「わお!ククルの茎発見!こっちはカーマン草よ!王立薬草園でしか見た事ないわ!野生で然も群生しているなんて凄いところね!」




走り出しそうな勢いの私を、大人ドラゴンは私の髪を咥えて引き留めた。




「おい、勝手にあちこち行くな。見通しが良いとは言え、ここは多くの魔物が通る地でもある。俺の魔力の及ぶ範囲内にいろ」

「それって、結界か何かですか?」

「殆どの魔物は、俺の魔力を感知して寄っては来れない」




互いの位置が分かるGPSみたいなものか?




「それに、俺の周りにいれば空気は浄化され温かく快適だ」




何と!

空気清浄機付きのヒーターなのか!




「夏だと涼しくも出来るんですか?」

「・・・お前、ドラゴンに何をさせる気だ?」

「一家に一台あると便利ですね、ドラゴンって。いつ発売になるんですか?」

「・・・もういいから、早く薬草集めろ・・・」




出来るものなら、根っこごと持ち帰りたい。

この高級薬草の葉っぱや茎だってそれなりに高い値がつくけれど、無くなればそれまでだ。

しかし、栽培に成功すればお金のなる草が出来るわけで、一回限りの収入で終わる事がなくなる。

そしたら、家族に任せて国外脱出も夢ではない。




「おい、何をボーッとしている?」

「この子たち、土ごと持って帰れませんかね?」

「育てる気か?」

「駄目ですか?」

「こいつらは比較的寒暖差がある気候を好む。この国では栽培出来ても量産とはいかないだろう」




そっかー、やっぱり素人には難しいんだなぁ。

お金のなる草計画はそう簡単ではなかったか。

仕方がない。

折角ここまで連れて来て貰ったのだから、純度の高いポーションを作るための材料として葉と茎を採取していこう。

最初の勢いはなりを潜め、ちょっとショボくれてしまった。

家に戻って、円満国外脱出計画を再考しよう。




「遅くなるといけませんから、そろそろ戻りましょう」

「もういいのか?」

「はい、これだけ有れば当面の蓄えは作れそうです」




帰りの空の旅も快適だった。

行きと違い夕焼けが近くに見える。

夕陽が黒い鱗に反射して虹色にキラキラしている。

この鱗、売れるのでは?

触ったら、簡単に剥がれたりしないかな?




「・・・何かまた、良からぬ事を考えているのではあるまいな?」

「またって何ですか?あの薬草たちの栽培は良からぬ事なんですか?」

「特に万能回復薬の元となるカーマン草の栽培は難しい。成功したのはルシュカンだけだ。然もその技術は皇室直轄で管理・秘匿されている」

「詳しいんですね。もし私が栽培に成功したら、それこそ、ルシュカンからの刺客でこの世から消されそうですね」




二度目の人生、命あってのものだ。

自国の王室から逃げた先で、他国の皇室に目をつけられては叶わない。




ポーション製造・販売業は、その辺のお爺さんが作るものから果ては大きな製造業者まで乱立している。

万能回復薬と違い質にばらつきが多く、その為、王立薬草師団の定めた基準がある。

レベル1程度では栄養ドリンク止まりだが、レベル5になると高濃度で抽出された純度の高い魔力が使われ効果もケタ違いだ。

ここまで来ると、通常は騎士団や魔法師団で使われる為、一般庶民には流通していない。

高いしね。

まあ、そのレベルのものを下手に作っちゃうと身バレの元だ。

寧ろ、効果はあるが短時間!みたいな、ちょっと癖になる系薬でリピーターを増やした方がウケそうよね。

そんな匙加減で私の魔力を付与したポーションとかどうだろう?

量産こそ難しいが、質を上げれば少量生産もある意味付加価値になるのでは?

ふふふ、イケる、これはイケるぞ・・・!




「おい、聞いているのか?」

「は?」

「先ほどから話かけているが、お前は全くヒトの話を聞いていないのだな」

「あなた、ヒトなんですか?」

「・・・もういい、俺が馬鹿だった」




円満国外脱出計画第一歩を立案中で、ハゲドラ(仮)の声は全く聞こえていなかった。

心なしか、がっかりしているような気がする。

彼のお陰でポーションの材料を手に入れられたから、ここは少し褒め言葉で労っておこう。




「それにしても凄いですね。王都から隣のルシュカンまで、1時間もあれば着いちゃうなんて。世界一周も一日で出来そうですね」

「・・・連れて行ってやろうか?」

「本当ですか?!ドラゴンに乗って世界一周旅行、ワクワクしますね!お勧めの国はありますか?」

「南の海に点在する無人の島々は美しいぞ、そこで獲れる魚も美味い」

「ドラゴンも海に潜って魚を獲るんですか?」

「やってやれない事はない」

「異文化を集めた商業国パルジャも面白い。全ての種族、全ての宗教を受容れる寛大な国だ」

「へーっ。喧嘩にならないんですか?」

「居住権を得たければ、多種多様な文化を尊重する事が条件だ。それを侵害すれば極刑と法律で定められている」

「厳しいですが大事な事ですね」




さすがはドラゴン、博識だ。

ドラゴンにガイドして貰いながらのツアーってどうかしら?

結構人気出るんじゃない? 

複数ドラゴンがいたら、それだけ売り上げも上がりそう。




「あなた以外にもドラゴンって沢山いるんですか?」

「・・・お前、観光案内にドラゴンを使うつもりじゃないだろうな?」

「なかなか良い企画だと思うんですが、もちろんお礼はしますよ?ドラゴンもお金使ったりするんですか?」

「薬草といい、お前は金儲けの事ばかりだな」




ハゲドラ(仮)は思いっきり嘆息した。

金に泣くものは人生に泣く!

前世でも苦労したのだよ。

大事にしよう、金と人生。




「人生かかっているので、中途半端な計画で死にたくないので」

「随分、切羽詰まっているのだな」

「ええ、今すぐ国外脱出したい程には」

「なぜ国外に出たいんだ?」

「この国にいると自分の身に碌な事が起こらないので」

「何があった?」

「これから起こりそうなので」

「まだ起こってもいない事を気に病んでいるのか?」

「起きてからでは遅いんです!」




私の勢いに押されたのか、はたまた呆れたのか、ドラゴンは暫し黙って飛んでいた。

夕陽が大地に沈みかける頃、出発地の丘に戻ってきた。

ハゲドラ(仮)の背から降りると、正面に回り礼を言う。




「ありがとうございました。お陰で薬草も採れたし空からの眺めも最高でした。では、ドラゴンさんもお元気で!」




さあ、家に戻ったら『癖になるポーション』作りの計画を練らねば!

世界ドラゴンツアーは無理でも、これから4年のうちに『癖になるポーション』、略してクセポを流通させるのだ!




「おい、お前この国を出て、行く当てがあるのか?」




意気込みを胸に足を踏み出した私に、背後からハゲドラ(仮)が声をかけてきた。




「いえ?でも、4年のうちに伝手を作るつもりです。我が家に出入りする商人もいるので、彼らを頼ってもいいですし・・・」

「なら、俺が紹介してやろう」

「ドラゴンさんにひと伝手ってあるんです?」

「こう見えて人脈は豊富だ」

「ふーん・・・?どうしてそこまでしてくれるんです?」

「お前は恩人だ。ドラゴンは恩を返す生き物だ」

「お礼なら頂きましたよ?」

「ドラゴンの翼はそう簡単に治るものではない。飛べない間は敵からの攻撃に弱くなる。だからお前は俺の命を救ったも同然だ」




随分と律儀な生き物なのだな、ドラゴンとは。

少し考えてみる。

これは、確かに美味しい話かもしれない。




「どんな方を紹介してくださるんですか?」

「お前は薬草採取やポーション作りが好きなのだろう?その道の人間を知っている」

「その方はどちらにいらっしゃるのですか?」

「帝国ルシュカンだ」

「私のような他国の小娘を、然も学者でも何でもない素人を弟子にしてくれるような懐の広い方なのですか?」

「俺の推薦が有れば問題ない」




本当だろうか?

色々知ってそうだし、ドラゴンさまともなれば人間の一人や二人、知り合いがいても可笑しくは無い。

ドラゴンさまの人脈なんて、そうそう使えるものでも無い。

けれど・・・、




「家族に何と言ったら良いか・・・」

「俺の方からルシュカンに招くと、お前の親に親書を送ってやろう」

「えっ?ドラゴンってそんな事も出来ちゃうんですか?」

「このくらい朝飯前だ」




何だか頼りになるドラゴンだ。

ハゲドラ(仮)改め、イケメンドラゴン、名付けてイケドラ(確)だ。

あれ?男の子よね?




「ところで、お前の名前を知らなければ親書を送れないんだが?」




おや、そうでした。

私の名前、そんなに知りたかったのかー。




「ルナです、ルナ・ヴェルツ」

「ルナか・・・」




こうして、トントン拍子に話が纏まり、数日後には念願の国外脱出に成功したのだった。

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