乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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渾身のクセポ売り

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帝国ルシュカンはセルバンと違い商業が発達し、店先には見たこともない食べ物や衣料品が並び、お客さんで賑わっていた。

見るもの触れるもの全てが初めてで、異国とはこんなにワクワクする所なのかとはしゃいでしまう。




イケドラ(確)に紹介されたのは50代のバートンご夫妻。

奥さまが薬草を育て、旦那さまがポーションを作り業者に卸している。

若い頃は帝都に住んでいらしたそうで、上流階級の方々の教育係もされていた教養の高いお二人なのだとか。

夫妻にイケドラ(確)との馴れ初めを伺ったのだが、とある高貴な方からご紹介頂いたとしか教えて貰えなかった。

やはり希少なドラゴンの存在は、世間に隠されているのだろう。

余計な事を話して、帝国の偉い人たちに目をつけられないようにしなければ。

ここにいる間は、とにかく目立たずに過ごすのだ。




夫妻の住まいは、帝都から馬車で1週間はかかる田園都市ラグーで、薬草の栽培には中々良い土地でもある。

私はこの地でふたりの弟子として、住み込みでポーション作りのお手伝いをさせて貰っている。

驚くべき事に、奥さまのマリアンヌは何と光魔法を操れるのだ。

然も、爆撃魔法でしかない私と違い、マリアンヌは光魔法の本流である回復・成長促進魔法が使えるのだ。

帝国でも光魔法が使える人は貴重なのだが、強制的に国が召し上げることはしないらしい。

あくまで本人の意思で、国の行政機関に入るか否かを決めるらしい。

何だー、私も帝国に生まれていれば、こんな面倒な道を選ばずに学園ライフをエンジョイ出来たのになあ。

まあ、今もそれなりに楽しいから良いか。




私も光魔法が少し使える事を話すと、マリアンヌは光魔法について色々教えてくれるようになった。

まあ、私の場合、使えるのは爆撃光魔法ですケド。

因みに、闇魔法についてはやっぱり隠してます。

ルシュカンでも闇魔法使いはいないようなので、ここでもフラグが立たないよう気を張ってます。

彼女の指導のお陰で、成長魔法を少し扱えるようになってきた。

けれども、相変わらず光の回復魔法だけは上手く使えないでいる。

これって、センスの問題なのか?




ラグーに来て早2ヶ月、毎日薬草と魔法の勉強をしつつ、ポーション作りにも取り掛かっている。

マリアンヌの旦那さまグラントは水と土の二属性の魔法を操る、ポーション作りのスペシャリストだ。

水で清め土で回復を促す、ポーションの要の力を強化できるのがこの二属性なのだ。

殺傷能力の高い私の光魔法より、何倍もお金に変える力がある。

全くもって羨ましい。




イケドラ(確)は忙しいのか、世界旅行に出かけているのか、私をラグーまで送り届けて以降、姿を見ていない。

まあ、特に彼に用があるわけでも無いので、また何処かで会ったら異国の話を聞かせて貰いたいものだ。




最近になり、バートン家に家族が増えた。

いつものようにマリアンヌと敷地内の薬草園で手入れをしていると、毛足の短い黒猫が足元に擦り寄ってきた。

マリアンヌによれば、以前から見かける子で顔馴染みらしい。

この辺が縄張りなのかな?

毎日やって来ては頭を撫でろとせがむので、モフモフを堪能させてもらっている。

ある日の事、いつもは撫でれば満足して去って行くのだが、その日は作業が終わってもジッとこちらを見ていた。

思わず来るかと尋ねたところ、一声『にゃー』の返事。

可愛さにあてられ、ついバートン家に入れてしまいました。

幸い、マリアンヌもグラントも猫派です。

ふたりのお子さんは既に結婚されて帝都にいらっしゃるので、今は私と黒猫のクロを含め3人と1匹暮らし。

クロはやたらと私の後をついて回るストーカー猫だ。

眠る時も私の枕元で一緒に寝たがる。

ベッド脇にクロ専用のバスケットベッドを用意してあげたのに、全く見向きもしない。

寝坊助の私を決まった時間に起こしてくれるので、助かってはいるのだが。

ただ、それでも起きないと鼻をかじるという荒技に出るので、毎朝ちょっとした闘いになるのだった。







そして半年後、マリアンヌ先生のご指導のもと、ルナ特製回復ポーション第一号が完成したのでした。

テッテレー笑。

光属性を持ちながら回復系がからっきしの私は、何度爆撃により貴重なポーションの材料を黒焦げにさせたことか・・・泣。

回復魔法がほんの少しだけ使えるようになったものの、商品としてポーションを売るには効果が足りなかった。

そこで私は考えたのだ!

治癒魔法である闇魔法をエッセンス程度に入れたら、スズメの涙くらいな私の回復魔法も嵩上げされるのではと。

二人の見ていないところで、こっそり治癒魔法を付与してみた。

マリアンヌとグラントには内緒だけれどね。

試しに、クロが捕まえてきた弱った鳥に舐めさせたところ、一日で元気に飛んでいった。

そして元気過ぎたのか、翌日には番いを連れて鳥ライフをエンジョイしていた。

これ、結構いけるかも。







そんな訳で、早速クセポ第一号の試し売りに出かけてみた。

ラグーには週末市というフリーマーケットがある。

出店する際には登録が必要で、既にマリアンヌ達が済ませているので私も便乗させて貰った。

初めて製造に成功したクセポの本数は、取り敢えず10本。

今日はこれを完売させる予定だ。

意気揚々と出掛けたは良かったのだが、お客さんはなかなか足を止めてはくれない。

市に来ている人は沢山いるし、店を開いている場所はマーケットの入り口にも近いから決して場所が悪い訳では無い。

寄って行って貰おうと声を掛けてはみるが、こちらに見向きもしない。

うーん、私は初心者だ、最初から上手くはいかないよねー。

だが、このくらいでめげてはいけない。

こうなったら実演販売だ。

誰か弱っている人を捕まえて、このクセポを口に突っ込めば良いのだ。

ターゲットを求め辺りをキョロキョロしてみる。

だがしかし、マーケットは賑やかで、お年寄りまで皆元気で楽しそうだ。

身体の調子が悪かったら、こんなとこに来たりせず治療院に行くよねー。

ふーっと溜息をついて、木陰に腰を下ろして休むことにした。

眼を瞑り妙案がないか考えていると、手の甲に湿った感覚があった。

ハッとして自分の手に視線をやると、痩せて毛並みも悪い犬が擦り寄って来ていた。

朝食べたパンの匂いでも手についているのかな?

生憎、今は手持ちの食べ物は無い。

餌ではないが、あのポーションでも舐めさせてみるか。

少し勿体ない気もするが、どうせ売れ残るくらいなら、ちょっとでも役に立つ方が気分も良い。

弱ったワンちゃんを抱きかかえてマリアンヌの居る露店を広げた場所まで戻る。




「元気の無い子ね。お腹が減っているのかしら?」




マリアンヌが露店の売り物のクッキーを崩して掌にのせてみるが、ワンちゃんは食べようとしない。




「食べる元気も無いのかな?なら、私特製のポーションをちょっと舐めさせてみるよ」

「勿体ないんじゃない?」

「今日は売れる気がしないから、この子にあげても良いかなって」




私がそう言うと、マリアンヌは笑顔を見せて頷いてくれた。

クセポを一本手に取り、掌に少し垂らしてワンちゃんの鼻まで近づけてみた。

クンクン匂いを嗅いで確かめた後、ワンちゃんは恐る恐るクセポを舐めてくれた。

美味しかったのか掌の雫が無くなると、お代わりを強請るように私の顔を見上げてきた。

瓶からもう少しクセポを掌に垂らしてあげると、今度は尻尾を振って舐め始めた。

マリアンヌとふたり、ほんわかした気持ちで眺めていると、小さな女の子がこちらに駆け寄って来た。

どうやら、このワンちゃんのご主人らしい。




「何を舐めているの?」




女の子が怪訝そうに聞いてきた。




「回復ポーションよ。この子、元気が無かったからあげたのだけれど、迷惑だったかな?お金は要らないよ。なかなか売れないけど、味と中身は保証するわ」




女の子は目を丸くした後、とても嬉しそうに笑ってくれた。




「ううん!ありがとう!弱っているこの子にお薬を買ってあげたいけど、お金無いし、お母さんも病気がちだから・・・」




おっ!

いらっしゃいましたよ、ご病人。




「貴女はここで何かを売っているの?」

「お母さんが作ったエプロンを売りに来たの」

「一枚おいくら?」

「5ルド」

「そう、なら一枚頂くわ。貴女、とても優しい女の子だから、これもあげるね」




そう言って、私は5ルドとクセポを2本、女の子の手に握らせた。

女の子はびっくりしてこちらを見上げた。




「大丈夫、変な薬じゃないわ。このワンちゃんが保証してくれると思うよ。この子が元気になったら、お母さまにも飲ませてあげて」




にっこり笑って女の子の頭を撫でると、女の子はワンちゃんを抱き上げた。




「私、リンダって言うの。ありがとう、優しいお姉さん!」

「お母さまも元気になるといいわね」




私とマリアンヌは、手を振って元気に走って行くリンダを見送った。

結局、この日、クセポは一つも売れなかった。

けれども、可愛い女の子とワンちゃんの役に立てれば、クセポもポーション冥利に尽きるってものだ。

私の良いところは、自分で言うのも何だけど何時でも前向きなところ。

多少の躓きは、この先の跳躍に必要なステップなのだ。

また明日からクセポ作りに励もう。

来たるべき爆売れの為に。
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