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腹黒イケメン登場
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尾行されていないか、度々後ろを振り返りながらバートン家に戻った。
私が館の扉を開けるや直ぐに、満面の笑みのマリアンヌがやって来て私を客間へと押して行った。
何でも、私に合わせたい客が来ているんだとか。
正直そんな客のことよりも、今日、市で会った不審者の話をしたかった。
だが、とても嬉しそうなマリアンヌを見て、水を差すのは申し訳ない気持ちにもなった。
彼女の目尻には、薄っすら涙まで浮かんでいる。
そうか、永らく会えなかった人が訪ねてきてくれた貴重な邂逅なのね。
仕方がない。
ここはにこやかに興味ない方用コミュニケーション呪文を発動させて、時短スキルを行使しよう。
そう、『すごいですねー、すばらしいですねー、素敵ですねー、それではさようならー』だ。
客間に入ると、ソファーに座っていたグラントが笑顔で立ち上がった。
お客さんと思しき人は、黒いフードを被りこちらに背を向けてソファーに座っている。
うん?
何だか見覚えがあるような?
そして、また、左眼の奥に焼ける感覚が・・・。
お客さんはソファーから立ち上がり、ゆっくりとこちらを振り返った。
うっ!
コイツ、さっきのヤバい男だっ!!
咄嗟に逃げようとドアに向かったところ、マリアンヌにぶつかった。
「マリアンヌ、アイツさっき市で付き纏ってきた変な奴よ!何でここにいるの?!」
マリアンヌは私の肩を両手で掴み、それこそ身体を震わせている。
どうしよう、マリアンヌの様子がおかしい。
助けを求めてグラントに視線を移せば、彼も俯いて身体を震わせている。
もしかして、ふたりともこの変な男に魔法をかけられて操られているの?
私が尾行られてしまったが為に、ふたりを危険な目に合わせてしまった。
嫌な汗が背中を流れる。
今ここで、ふたりを守れるのは私しかいないのだ。
女は度胸、ヤルしかない!
そう意を決して、両手に魔力を募らせようとしたその時、ふたりが顔を仰け反らせながら大笑いし出した。
へっ?
何が起こったのか分からず、唖然とふたりを見つめる。
すると、お客という男が物凄ーく長い溜息をした。
「おい、いい加減笑うのはそのくらいにしろ!ったく、何で俺がこんな目に合わなきゃならんのだ!」
男は徐ろに被っていたフードを取ると、不本意そうに私を睨みつけた。
おや!
昨今お目にかかれないくらいのイケメンだ!
黒くクセのある短めの髪はあちらこちらに向いているが、少し前髪にかかっていて男性なのに艶やかな印象だ。
そして、その前髪の隙間から覗く黄金の双眸が、煌めいて見えて吸い込まれそう。
一言で表すと、セクシーと言うのかな?
眉間の皺は何か挟まりそうなほど深いが、それでも美形の顔は損なわれていない。
寧ろ険しいお顔が麗しい。
「貴方がちゃんと名乗らないのがいけないのですよ、ジーク」
「ルナだって、そんな怪しい男ですと言わんばかりの格好で寄って来られたら、つい投げたくもなりますよ」
グラントとマリアンヌが爆笑しながら訴える。
・・・どうやら、私が不審者と思っていたこの男は、ふたりの知人のようだとやっと思い当たった。
あぁ、やっちまいました。
知ってたら投げませんでした、腐り玉。
「あの、・・・どうも勘違いしたみたいで、すみませんでした・・・」
美人な不審者、もとい、お客さんは私の謝罪に興味は無いと言った感じで終始機嫌が悪かった。
このお客さんは、ふたりが帝都にいた時からの知り合いで投資家さんなのだそう。
私より少し年上のようだが、それでもバートン夫妻よりはずっと若そうだ。
そんな人が投資家とは、お金持ちの貴族さまなのかな?
貴族とは名ばかりの我が家と違い、不労所得で食べていけるとは羨ましい。
以前からふたりのポーション作りの良きアドバイザーで、今回私の作ったクセポが帝都でも話題になったことから詳細が知りたくて訪ねて来たという。
「一体、どうやって作っているんだ?」
金眼をぎらつかせて美人が凄むと、ついついしどろもどろになってしまう。
だが、ここは平穏無事な国外脱出ライフのため、美人に屈してはならない。
「普通にククルの茎から抽出してますよ?」
「それだけで、あのような効果がでるものか」
「言いましたよね?企業秘密です」
「おい、俺を怒らせたいのか?」
「ジーク、女性に威圧的な態度は良くありませんよ」
不穏な空気を察知して、グラントが助け舟を出してくれた。
美人のお客さん、ジークさんはムッとして視線を逸らしてしまった。
「実はね、ルナ、ジークはあのドラゴンと縁がある方なのだよ」
えっ?!
何と!
我々はドラゴンさんの知り合いという、大事なキーワードで繋がった仲だったのか。
イケドラ(確)の知り合いはイケメン。
イケドラ(確)はイケメンを呼ぶのかー。
「イケド・・・じゃなかった、あのドラゴンさんはお元気ですか?最近お会いできていませんが、お怪我はしていないですか?」
彼に出会わなければ、こんな楽しい国外脱出ライフをエンジョイできなかった。
彼との出会いを懐かしく思い、ジークさんに聞いてみた。
「・・・ああ、元気にしている。怪我もない」
「良かったです!」
不機嫌なままで答えるジークさんの横で、グラントとマリアンヌは肩を震わせながら笑いを堪えている。
何がそんなに可笑しいのだろう・・・。
はっ!
腐り玉を投げつけてしまったから、そのせいでイケメンが悲哀のクサメンになってしまったのでは!
イケメンの衝撃映像に、ふたりは思わず爆笑しているのかー。
ここは殊勝に謝罪を重ねていこう。
「あの、本当に先ほどは申し訳ございませんでした。知らなかったとは言え、あんなものを投げてしまい・・・。お怪我はありませんでしたか?」
ぶっすー、という効果音が聞こえてきそうなほどジークさんは嫌そうな顔をした。
居た堪れない・・・。
早くここから離れたい・・・泣。
「ジーク、いい加減機嫌を直してくださいよ。うちの可愛いルナを、これ以上苛めないでください」
グラントが笑いながらまた場を和ませてくれる。
すると、いつの間にやら部屋に入ってきた黒猫のクロが、ジークさんの膝の上にちょこんと飛び乗った。
ジークさんとじっと目を合わせた後、頭をジークさんの手に擦り付けてゴロゴロ言い出した。
「なんだ、お前も機嫌を取りに来たのか」
ジークさんの険しい眼が和らぎ、クロの頭を優しく撫でた。
おおー、イケメンが笑うと流石に絵になるねー。
「それで、そのポーションはどうやって作っているんだ?」
不機嫌さは残るも、会話をしてくれる気はあるようだ。
だがしかし、クセポの製造過程など話せるものではない。
「何故そこまでクセポに拘るのですか?帝国であれば、他国など足元にも及ばない回復薬を生み出す技術がおありでしょう?」
「クセポ・・・、ネーミングのセンスも無いな・・・」
むっ!
製造者は私だ、故に命名権は私にある。
オリジナリティー溢れる私のクセポに難癖付けるのは許さん。
顔に不愉快さを張り付けて、彼への質問の答えを待つ。
「あのような化け物級の回復薬、その技術が他国に渡ったらこの国の脅威になる」
はっ?
化け物級?
どのあたりが?
私、何か間違った?
まずい、・・・もしかしてフラグなのか?
全身に冷や汗が噴き出してきた。
「あのポーションにはルシュカンが誇る万能回復薬以上の効果がある。疫病が治癒するだけでなく、脚や腕を失ったもの、失明したもの、死にかけていたもの、全てのものを治癒させる、元に戻してしまうのだ。そんなものは、もはや回復薬とは言えない。神の御業だ」
ジークさんの言葉に、嫌な単語が頭をよぎる。
・・・聖女。
いやいや、私は聖女じゃないし、ヒロイン降りたし、ストーリーには登場しないし・・・。
ジークさんの金眼を見据えながら、膝の上で力を込めてぎゅっと手を握る。
ふっと、柔らかな感触が触れて、反射的に握りしめていた手を開いた。
クロが、ジークさんの膝から私の膝に移動してきたのだ。
きつく握っていたせいで、掌に爪が食い込んだ痕が出来ていた。
クロはその痕をぺろぺろ舐めてくれた。
優しい子ね。
「売っているのはお前だと皆知っている。だが、製造者やその技術を知る者はいない。そのうち、関係者であるお前やバートン夫妻を脅す輩が出てくるだろう」
私が狙われる、私のせいでマリアンヌとグラントが狙われる・・・。
また、新たな難題が生まれてしまった。
何処にいてもフラグが追いかけてくる・・・。
「・・・分かりました。私がここに居てはいけないということですね。ならば、直ぐにでもこの家を離れます」
「ルナ、待ちなさい」
「そうよ、簡単に決めてはいけないわ」
私の早い決断を、ふたりは優しく諭してくれる。
他人だというのに何処までもふたりは優しい。
その思いに熱いものが喉にせり上がってくる。
「お前はここに居るべきではない」
「ジーク!」
「お前たちふたりを危険に晒すことは、この俺が許さない」
ジークさんの強い言葉に、私も彼の眼を見て強く頷く。
「大丈夫よ。ふたりのお陰で少しは魔法も使えるようになったし、何処に行っても生きていく根性はあるもの」
ふたりに少しでも安心して貰いたくて笑顔を向ける。
およそ1年、短かったけれどルシュカンでの国外脱出ライフは楽しかったな。
次はどの国に行こうか?
クセポの売り上げで、多少何処かで暮らせるだけの蓄えはできた。
やっぱり、クセポの中に闇の治癒魔法入れるのは失策だったかー。
もうちょっと少なく付与すれば良かったなー。
でも、あれって加減が難しいんだよね・・・とほほ。
「お前を俺の監視下に置く」
はっ?
何ですと?
ジークさんの言葉に固まる。
「えっ、あの、監視?まさか私、収監されちゃうんですか?それ、困るんですけど・・・」
「お前に拒否権は無い」
えっ?
この人、もしかして刑事さん?
「な、何も悪いことしていないのに、監獄とか、ほんと、嫌ですっ!」
「牢屋ではないが、ある意味、監獄かもな」
ジークさんは美しい顔で、それはそれは悪い笑みを浮かべた。
あっ、やっぱり、腐り玉ぶつけたことを恨んでいるんだ!
「私、この国の人間ではないので、この国の法律で裁かれることは無いですよね?普通、生国に強制送還ですよね??」
「帝国に足を踏み入れた時点で、お前はこの国の法に縛られる」
「べ、勉強不足でした!でっ出直してきます!!」
立ち上がり逃げ出そうとする私の手首を、向かいに座っているにも関わらず物凄い早業で掴んだジークさんは満面の笑みだ。
この人、やっぱり警察の人?
逮捕の手業が素早すぎる。
「逃げられると思うな」
こうして、新たなフラグが頭に突き刺さった私は、ルシュカン帝都にドナドナされていったのでした。
私が館の扉を開けるや直ぐに、満面の笑みのマリアンヌがやって来て私を客間へと押して行った。
何でも、私に合わせたい客が来ているんだとか。
正直そんな客のことよりも、今日、市で会った不審者の話をしたかった。
だが、とても嬉しそうなマリアンヌを見て、水を差すのは申し訳ない気持ちにもなった。
彼女の目尻には、薄っすら涙まで浮かんでいる。
そうか、永らく会えなかった人が訪ねてきてくれた貴重な邂逅なのね。
仕方がない。
ここはにこやかに興味ない方用コミュニケーション呪文を発動させて、時短スキルを行使しよう。
そう、『すごいですねー、すばらしいですねー、素敵ですねー、それではさようならー』だ。
客間に入ると、ソファーに座っていたグラントが笑顔で立ち上がった。
お客さんと思しき人は、黒いフードを被りこちらに背を向けてソファーに座っている。
うん?
何だか見覚えがあるような?
そして、また、左眼の奥に焼ける感覚が・・・。
お客さんはソファーから立ち上がり、ゆっくりとこちらを振り返った。
うっ!
コイツ、さっきのヤバい男だっ!!
咄嗟に逃げようとドアに向かったところ、マリアンヌにぶつかった。
「マリアンヌ、アイツさっき市で付き纏ってきた変な奴よ!何でここにいるの?!」
マリアンヌは私の肩を両手で掴み、それこそ身体を震わせている。
どうしよう、マリアンヌの様子がおかしい。
助けを求めてグラントに視線を移せば、彼も俯いて身体を震わせている。
もしかして、ふたりともこの変な男に魔法をかけられて操られているの?
私が尾行られてしまったが為に、ふたりを危険な目に合わせてしまった。
嫌な汗が背中を流れる。
今ここで、ふたりを守れるのは私しかいないのだ。
女は度胸、ヤルしかない!
そう意を決して、両手に魔力を募らせようとしたその時、ふたりが顔を仰け反らせながら大笑いし出した。
へっ?
何が起こったのか分からず、唖然とふたりを見つめる。
すると、お客という男が物凄ーく長い溜息をした。
「おい、いい加減笑うのはそのくらいにしろ!ったく、何で俺がこんな目に合わなきゃならんのだ!」
男は徐ろに被っていたフードを取ると、不本意そうに私を睨みつけた。
おや!
昨今お目にかかれないくらいのイケメンだ!
黒くクセのある短めの髪はあちらこちらに向いているが、少し前髪にかかっていて男性なのに艶やかな印象だ。
そして、その前髪の隙間から覗く黄金の双眸が、煌めいて見えて吸い込まれそう。
一言で表すと、セクシーと言うのかな?
眉間の皺は何か挟まりそうなほど深いが、それでも美形の顔は損なわれていない。
寧ろ険しいお顔が麗しい。
「貴方がちゃんと名乗らないのがいけないのですよ、ジーク」
「ルナだって、そんな怪しい男ですと言わんばかりの格好で寄って来られたら、つい投げたくもなりますよ」
グラントとマリアンヌが爆笑しながら訴える。
・・・どうやら、私が不審者と思っていたこの男は、ふたりの知人のようだとやっと思い当たった。
あぁ、やっちまいました。
知ってたら投げませんでした、腐り玉。
「あの、・・・どうも勘違いしたみたいで、すみませんでした・・・」
美人な不審者、もとい、お客さんは私の謝罪に興味は無いと言った感じで終始機嫌が悪かった。
このお客さんは、ふたりが帝都にいた時からの知り合いで投資家さんなのだそう。
私より少し年上のようだが、それでもバートン夫妻よりはずっと若そうだ。
そんな人が投資家とは、お金持ちの貴族さまなのかな?
貴族とは名ばかりの我が家と違い、不労所得で食べていけるとは羨ましい。
以前からふたりのポーション作りの良きアドバイザーで、今回私の作ったクセポが帝都でも話題になったことから詳細が知りたくて訪ねて来たという。
「一体、どうやって作っているんだ?」
金眼をぎらつかせて美人が凄むと、ついついしどろもどろになってしまう。
だが、ここは平穏無事な国外脱出ライフのため、美人に屈してはならない。
「普通にククルの茎から抽出してますよ?」
「それだけで、あのような効果がでるものか」
「言いましたよね?企業秘密です」
「おい、俺を怒らせたいのか?」
「ジーク、女性に威圧的な態度は良くありませんよ」
不穏な空気を察知して、グラントが助け舟を出してくれた。
美人のお客さん、ジークさんはムッとして視線を逸らしてしまった。
「実はね、ルナ、ジークはあのドラゴンと縁がある方なのだよ」
えっ?!
何と!
我々はドラゴンさんの知り合いという、大事なキーワードで繋がった仲だったのか。
イケドラ(確)の知り合いはイケメン。
イケドラ(確)はイケメンを呼ぶのかー。
「イケド・・・じゃなかった、あのドラゴンさんはお元気ですか?最近お会いできていませんが、お怪我はしていないですか?」
彼に出会わなければ、こんな楽しい国外脱出ライフをエンジョイできなかった。
彼との出会いを懐かしく思い、ジークさんに聞いてみた。
「・・・ああ、元気にしている。怪我もない」
「良かったです!」
不機嫌なままで答えるジークさんの横で、グラントとマリアンヌは肩を震わせながら笑いを堪えている。
何がそんなに可笑しいのだろう・・・。
はっ!
腐り玉を投げつけてしまったから、そのせいでイケメンが悲哀のクサメンになってしまったのでは!
イケメンの衝撃映像に、ふたりは思わず爆笑しているのかー。
ここは殊勝に謝罪を重ねていこう。
「あの、本当に先ほどは申し訳ございませんでした。知らなかったとは言え、あんなものを投げてしまい・・・。お怪我はありませんでしたか?」
ぶっすー、という効果音が聞こえてきそうなほどジークさんは嫌そうな顔をした。
居た堪れない・・・。
早くここから離れたい・・・泣。
「ジーク、いい加減機嫌を直してくださいよ。うちの可愛いルナを、これ以上苛めないでください」
グラントが笑いながらまた場を和ませてくれる。
すると、いつの間にやら部屋に入ってきた黒猫のクロが、ジークさんの膝の上にちょこんと飛び乗った。
ジークさんとじっと目を合わせた後、頭をジークさんの手に擦り付けてゴロゴロ言い出した。
「なんだ、お前も機嫌を取りに来たのか」
ジークさんの険しい眼が和らぎ、クロの頭を優しく撫でた。
おおー、イケメンが笑うと流石に絵になるねー。
「それで、そのポーションはどうやって作っているんだ?」
不機嫌さは残るも、会話をしてくれる気はあるようだ。
だがしかし、クセポの製造過程など話せるものではない。
「何故そこまでクセポに拘るのですか?帝国であれば、他国など足元にも及ばない回復薬を生み出す技術がおありでしょう?」
「クセポ・・・、ネーミングのセンスも無いな・・・」
むっ!
製造者は私だ、故に命名権は私にある。
オリジナリティー溢れる私のクセポに難癖付けるのは許さん。
顔に不愉快さを張り付けて、彼への質問の答えを待つ。
「あのような化け物級の回復薬、その技術が他国に渡ったらこの国の脅威になる」
はっ?
化け物級?
どのあたりが?
私、何か間違った?
まずい、・・・もしかしてフラグなのか?
全身に冷や汗が噴き出してきた。
「あのポーションにはルシュカンが誇る万能回復薬以上の効果がある。疫病が治癒するだけでなく、脚や腕を失ったもの、失明したもの、死にかけていたもの、全てのものを治癒させる、元に戻してしまうのだ。そんなものは、もはや回復薬とは言えない。神の御業だ」
ジークさんの言葉に、嫌な単語が頭をよぎる。
・・・聖女。
いやいや、私は聖女じゃないし、ヒロイン降りたし、ストーリーには登場しないし・・・。
ジークさんの金眼を見据えながら、膝の上で力を込めてぎゅっと手を握る。
ふっと、柔らかな感触が触れて、反射的に握りしめていた手を開いた。
クロが、ジークさんの膝から私の膝に移動してきたのだ。
きつく握っていたせいで、掌に爪が食い込んだ痕が出来ていた。
クロはその痕をぺろぺろ舐めてくれた。
優しい子ね。
「売っているのはお前だと皆知っている。だが、製造者やその技術を知る者はいない。そのうち、関係者であるお前やバートン夫妻を脅す輩が出てくるだろう」
私が狙われる、私のせいでマリアンヌとグラントが狙われる・・・。
また、新たな難題が生まれてしまった。
何処にいてもフラグが追いかけてくる・・・。
「・・・分かりました。私がここに居てはいけないということですね。ならば、直ぐにでもこの家を離れます」
「ルナ、待ちなさい」
「そうよ、簡単に決めてはいけないわ」
私の早い決断を、ふたりは優しく諭してくれる。
他人だというのに何処までもふたりは優しい。
その思いに熱いものが喉にせり上がってくる。
「お前はここに居るべきではない」
「ジーク!」
「お前たちふたりを危険に晒すことは、この俺が許さない」
ジークさんの強い言葉に、私も彼の眼を見て強く頷く。
「大丈夫よ。ふたりのお陰で少しは魔法も使えるようになったし、何処に行っても生きていく根性はあるもの」
ふたりに少しでも安心して貰いたくて笑顔を向ける。
およそ1年、短かったけれどルシュカンでの国外脱出ライフは楽しかったな。
次はどの国に行こうか?
クセポの売り上げで、多少何処かで暮らせるだけの蓄えはできた。
やっぱり、クセポの中に闇の治癒魔法入れるのは失策だったかー。
もうちょっと少なく付与すれば良かったなー。
でも、あれって加減が難しいんだよね・・・とほほ。
「お前を俺の監視下に置く」
はっ?
何ですと?
ジークさんの言葉に固まる。
「えっ、あの、監視?まさか私、収監されちゃうんですか?それ、困るんですけど・・・」
「お前に拒否権は無い」
えっ?
この人、もしかして刑事さん?
「な、何も悪いことしていないのに、監獄とか、ほんと、嫌ですっ!」
「牢屋ではないが、ある意味、監獄かもな」
ジークさんは美しい顔で、それはそれは悪い笑みを浮かべた。
あっ、やっぱり、腐り玉ぶつけたことを恨んでいるんだ!
「私、この国の人間ではないので、この国の法律で裁かれることは無いですよね?普通、生国に強制送還ですよね??」
「帝国に足を踏み入れた時点で、お前はこの国の法に縛られる」
「べ、勉強不足でした!でっ出直してきます!!」
立ち上がり逃げ出そうとする私の手首を、向かいに座っているにも関わらず物凄い早業で掴んだジークさんは満面の笑みだ。
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