乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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ジークさんの正体(1)

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私は両眼に力を込めて、無言で彼を睨み続けた。

ひとしきり私の視線を受け止めた後、ジークさんは一度目を伏せて再び私を見た。

何か意を決したのか、或いは諦めたのか、そんな表情だ。



「俺には呪いがかけられている」



呪い?

そいつは物騒な話だ。

さあ、続きをどうぞ。

貴方の呪いと私に何の関係があるんですか?

私は黙って先を促す。



「俺はこの国の皇帝と神殿の巫女の間に出来た子だ」



ほう、皇子さまでいらっしゃいますか。

どおりで偉そうですね。

で?



「生まれた時には何もなかった力が目覚めたのは、俺が10歳の時だ。目の前で義弟が死んだ時、気が付けば俺は・・・化け物になっていた」



ほう?

バケモノとな。

さらに物騒ですね。

それで?



「その後の記憶はないが、目が覚めたら捕われていた。この化け物の力は封印され秘匿されてきたが、いつまた発現するか分からない」



おや、貴方も収監されたことがおありで。

それから?



「だが、俺の力を密かに知った者たちが、今、俺を亡き者にしようとしている。抗うためにはこの呪いを解かねばならない」



なんだが、物語のヒーローみたいですね。

ううんー?

これって・・・。



「俺にかけられた呪いを解くには、お前の力が必要だ」



ああ、やっぱりソレですか・・・泣。

これ、何かのフラグですね。

この人の呪いとやらを解いて、ヒーローが力を取り戻し悪を滅多切りにして、ヒロインとゴールインっと。

ヒロインって私なのか?

ジークさんと結ばれるってのか?

それ、なんかヤダねー。

顔は美人だが性格が悪すぎる。

乱暴だし、説明も全くせず人をモノのように扱う人非人。

乙女ゲーの攻略対象者みたく優しい雰囲気はかけらも無い。

男はやっぱり中身なのですよ。

前世の旦那さまは、何をするのも私を優先してくれて、それはそれは愛情たっぷ・・・。



「おい、聞いているのか?」

「それです!」

「は?」

「その物言いです。人に協力を願う態度ではありません」



考え込むうちに外していた視線をジークさんに戻し、挑むように睨む。



「貴方は私に協力を求めているのですよね?ならば私を尊重すべきです。なのに、あなたの態度は最初からそうではありません」

「お前を従わせることが出来ないとでも?」

「出来ませんよ。私、強いですから」

「・・・強いだと?」

「試してみますか?」



口の端を上げて挑発してみせる。

ジークさんに絶対零度の眼力で凄まれ、彼の背後から冷気を伴った風が巻き起こってきた。



「封じられているとは言え、俺に力が使えないわけではない・・・」

「その程度ですか?」

「何だと?」



私は左掌に光の魔力を募らせた。

こんなそよ風、吹き飛ばしてくれるわ!



私の光魔法を見て、ジークさんの金眼が大きく広がった。

ふふふ、驚いたか、我が光魔法に!

彼の背後から巻き起こる竜巻めがけて、左手の魔力を放り投げる。が。

あ、コントロールミスった・・・。

私の投げた光り玉は、ジークさんの顔面に向かっていってしまった。

まあ、腐り玉を顔面にぶつける誓いを立てていたから、代わりに光り玉ってことで。

腐り玉みたいに臭わないよ、ちょっと火傷するだけで・・・てへ。



麗しい顔に当たるのを期待して見ていたのだが、さすがはヒーロー、ヒットする前に私の魔力を手で掴み取り、風の力で握りつぶしてしまった。

うっへっ、マジですかー。

今までの恨みを全てぶつけたのにー、くー無念。



「お前、光魔法まで・・・」



渾身の光魔法をいとも簡単に潰され、私は更に機嫌が悪くなった。

冷静にいこうと思っていたのに、チャッカマン気質の私には無理だった。

彼の顔に向け指を差し大声で捲し立てた。



「それ!『お前』って何ですか?私は貴方のモノではありません!『おい』とか、『お前』とか、相手をそう呼んで良いと誰に教わったんですっ?」



彼は少し面食らった顔をして私を見た。



「・・・人に指を差していいと誰に教わった?」

「はい!そこ!上げ足!私の協力を得たければ、貴方は態度を改めるべきです!はっきり言いますが、貴方に選択権はありません。私にあるんですよ?貴方が私を『おい』とか『お前』と呼ぶのであれば、私は貴方に協力なんて絶対しません!!」



暫しの沈黙の後、彼はまたまたお馴染みの溜息を吐いた。



「はい、それ!人の顔を見れば毎度お得意の溜息、失礼だとは思わないんですか?その癖も、次に私の前でやったら容赦なく顔面パンチします!」



私の言葉にまた溜息を吐きそうになったジークさんは、思わずといった感じで息を飲み込んだ。

おっ、殊勝に言うことを聞く気になったか?



「・・・他に望みはあるのか?」



何だ?

懐柔策に出るつもりか?



「望み?私は昔も今も自由です。誰かに与えられるものでも、誰かに制限される謂れもありません。今までは下手に出てあげてましたが、貴方の性根の悪さにもうその必要性を感じなくなったので、本来の自分に戻ります」

「・・・」

「貴方こそ、他に話があるのですか?」



溜息を堪えているのが分かる。

ジークさんって、コツを掴めば割と分かりやすい人かも。



「協力を頼みたい」

「嫌です。貴方の態度が変わったと、私が判断したら考えてあげます」

「・・・分かった」



またお得意だった溜息を飲み込んで、ジークさんは部屋から出ていった。

私たちのやり取りに部屋の隅っこで縮こまっていたクロを呼ぶ。



「ごめんねクロ、怖かったでしょう。クロには光り玉も腐り玉も投げたりしないから大丈夫よ」

「にゃー」



ベッドの上で、私は膝の上で丸くなるクロを撫でた。

先ほどのやり取りで少し留飲の下がった私は、次にどうやってジークさんをギャフンと言わせようか、ニヤけながら考えるのだった。

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