乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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皇室図書館でお勉強(1)

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私がジークさんに説教した翌日から、周りの私への対応が変わった。

侍女さんや執事さん、警備の騎士さんたちが揃って皆優しいのだ。

ただ優しいのでは無い、にこやかなのだ。 

昨日の私たちのやり取りを知っているに違いない。

うーん。

皆さんも、あの人格破綻者ジークさんに酷いことされてきたのかな?

きっと、色々恨み辛みがあったに違いない。

朝食後、部屋の扉の前まで来ると、侍女さんが慌てて声をかけてきた。



「お嬢さま、お部屋に居て頂くよう旦那さまから言い使っております」



そう来ると思った―。



「大丈夫です、あの方には許可をいただきました」



誰にも邪魔はさせん!

これからは自由に生きるのだ。

扉を押して開けると、直ぐ脇に控えていた騎士さんが寄ってきて頭を下げた。

何だ、この人も私の行く手を阻む気か?



「お嬢さま、旦那さまからは、お嬢さまがお出かけなさる際に護衛をするよう指示を受けております。どちらへお出かけですか?」



おおー。

ちゃんとジークさんから指示があったんだ。

良か、良か。



「図書館に行きたいのだけれど、ここからは遠いのですか?」

「帝都の図書館ですか?それとも皇室図書館でしょうか?」



おっ?

二つもあるのか。



「どちらが蔵書が多いのかしら・・・?」

「蔵書は帝都の図書館が多いのですが、学問的な専門書をお求めであれば皇城の図書館が宜しいかと思います」

「皇室図書館は私でも入れますか?」

「旦那さまの許可をいただいて参りますので、お部屋でお待ち下さい」



私は頷き一旦部屋のソファーで待機した。

少しして、左眼の奥がチクチクし始めたので構えていると、ノックも無しに部屋の扉が開き、振り返るとジークさんが先程の騎士さんを従えて入って来ていた。

私は眉を吊り上げ目を眇める。



「女性の部屋に入る時はノックをするよう教育を受けていらっしゃるのではありませんか?旦那さまのような教養のある方であれば、例え相手が私のような小娘であっても礼儀を尊重なさるのでは?」



ジークさんは眉間の皺を深くしたが、私が言い聞かせた通り溜息を我慢しているようで口を横に結んだ。

はっはー、こりゃ愉快。

思わずにんまりしてしまう。



「皇室図書館に行きたいそうだな」

「はい」

「・・・これを持っていけ」



ジークさんはそう言って、座っている私の膝に小さなブローチの様なものを放って寄越した。

黒地に金のドラゴンが施された徽章だ。



「随分とお行儀が悪いのですね」



ここはいつも溜息を吐く場面だ。

さあ、どうする?

しちゃったらぐーパンチだもんねー笑。

左手を握り込む。

だか、残念、彼は私の嫌味を無視して続けた。



「俺の紋章だ。おま・・・そなたが俺の庇護下にいる事を知らしめる物だ。無くすな」



ちっ、『お前』って言いかけたのに。

そう言うと、ジークさんは踵を返して部屋から出て行った。

殴れなかったのは残念だが、地味に仕返しできて楽しいわ。

騎士さんに向き直り、にっこり微笑む。



「では、皇室図書館に参りましょう。貴方のお名前を伺っても?」

「ダイと申します」

「私はルナです。宜しくお願いします、ダイさん」

「お嬢さまのお名前をお呼びする事は許されておりません」

「では他の方に代わっていただくか、ひとりで参ります。『お嬢さま』という、その他大勢扱いするような方に警護して頂きたくありません。『ルナ』という個人に付き添って頂きたいのです」



こんな所で私のアイデンティティーを無視されてたまるか。

囚人その1みたいな呼び方しろってか?

やっぱりあの腹黒美人、ヤな奴だな。

私が視線を外さずダイさんを見据えると、彼は仕方なさそうに目を伏せて、私の前でアレをやってしまった。

そう、アレ。

溜息です。

その瞬間、私は左拳をダイさんの真正面に向けて繰り出した。

驚いた彼が咄嗟に右手で防御の体制をとったところで、私は自分の左手を引っ込めた。



「それと、もう一つ、私の前でその忌々しい溜息を吐いたらぶん殴ります。覚悟がおありでしたら何度でもどうぞ?」



ダイさんに冷ややかな視線を向けながら、にっこり微笑む。

ダイさんは姿勢を正しながら青い顔をした。

ふふふ、私何だか悪役令嬢みたいじゃない?

あれ?

実は、ヒロインと思い込んでいた間抜けな悪役令嬢の話だったりして?

ジークさんがいない時はダイさんで憂さ晴らしだ。

私は密かに、もう一人サンドバッグを見つけた悦びに浸った。







皇室図書館は皇城の正門から外回廊を東に回った最奥にある建物で、私が収監されている離宮からはかなり離れている為、馬車でお出かけだ。

馬車留めで馬車を降りると神殿のような外観の建物が目に入った。

ふーん、ここが皇室図書館かー。

思ったよりも大きい。

帝都の図書館はもっと大きいのかな?

一度行ってみたいな。

周りは緑に覆われているが、高木は無く見晴らしが良い。

皇城に攻め込まれた時、敵が登って建物内に侵入できないようにする為かしら?

ダイさんに促され、神殿様式の階段を上る。

入り口は広く向かって左手にカウンターがあり、司書さんと思しき男性が座っていた。



「こんにちは。初めて利用させていただくのですが、規則などを教えていただけますか?」



少し年若そうな司書さんに声をかけると、司書さんはゆっくりと立ち上がりお辞儀をした。



「皇室図書館の司書を務めております、マーシャル・エリオットと申します。まず立ち入り前の認可証をお作りしますので、家紋をお見せいただけますか?」



例の徽章を見せればいいのかな?

私は左胸に刺していたブローチ型の徽章を外してマーシャルさんに渡した。

メガネをかけた優しそうなお顔のマーシャルさんだったが、私が渡した徽章を見て少し顔を曇らせた。

あれ?

この徽章じゃあここに入れないの?



「あの、何か・・・?」

「ああ、いえ、珍しい紋章でしたので・・・」



ジークさんの家門は、その生い立ちから恐れられているのかな?



「直ぐにお作りします。そちらに掛けてお待ちください」



言われた通り、待つこと数分。

マーシャルさんが紙を携えてやって来た。



「お待たせ致しました。徽章をお返しいたします。こちらが認可証になります。次回いらっしゃる際はこちらをお持ちください。それでは中をご案内します」



マーシャルさんはそう言って、徽章と認可証を渡してくれた。

広いフロアの真ん中には閲覧用の長机と椅子があり、天井まで伸びる書架は全て壁際に配置されている。

見上げると天井近くに館内をぐるっと一周する回廊があり、ガラス扉の付いた書架がずらっと横並びに並んで見える。

2階のようだが階段が何処にも見当たらない。

その階の本は読んじゃダメってやつかな?

フロアに目を戻すと、数人が机に数冊の書物を置いて静かに本を読んでいる。

乙女ゲーって、大体ヒロインが読書好きって設定で、攻略対象者と図書館で出会ってイチャコラが始まるんだよねー。

私、本嫌いです。

恋愛小説みたいな興味あるものは仕事もそっちのけで読みまくっていたが、歴史書やら自伝やら英雄譚やら興味ないものはトコトン嫌い。

私は漫画派です。

ここには漫画ないのかなあ。



「カウンター横の黒い棚の書籍は持ち出し禁止です。館内での閲覧をお願いします。2階は禁書になります。皇族の許可無しには閲覧できません」

「私は閲覧出来ますか?」



ジークさんは父が皇帝だと言っていた。

この司書さんはここで沢山の貴族の相手をしている筈。

その彼が、この紋章をどのように認識しているのか興味がある。



「・・・お嬢さまのお持ちの紋章は、私自身初めて拝見しました。確かに、こちらの家門のお許しがあれば閲覧は可能です」



おおー、認められましたよジークさん。

あ、でもジークさん自身は皇族って言われるの、嫌なのかもね。

まあ、使える権限は最大限使わせて頂きますよ、私、小市民なので。



「では、早速、禁書を閲覧させて下さい。当然、持ち出し禁止ですよね?」

「あ、はい。そうです。御用命の書物を仰って頂ければお持ち致します。騎士さまはこちらでお待ちください。お嬢さまはこちらへどうぞ」



早速私が禁書に手を出すと思っていなかったのか、マーシャルさんは少し焦った様子だった。

案内されたのはカウンターの後ろの扉だ。

マーシャルさんが扉を開けると奥行きはそれ程無さそうな空間で、司書さんたちの控え室かと思ったら床に魔法陣が描かれていた。

おう?

もしや、あの2階までこれで飛ぶのか?

マーシャルさんは私と一緒に魔法陣の中央に立つと、首に下げていたメダルを掲げて何かを呟いた。

そういう詠唱?ってやつ、何言ってるのかさっぱり分からん。

メダルから仄暗い青い光が四散し胃袋が浮いたと思った瞬間、周りの景色が変わった。

次に下半身に重力を感じ、鳩尾が重くなった。

うへっ、気持ち悪い。

転移魔法って初めて経験した。

一瞬、無重力を感じる、ジェットコースターが上から落下するあの瞬間ですよ、これ。

ジェットコースターは割と長く落ちるから、この不快感を回復する時間もあるのだけれど、この移動は短時間で直ぐ両足に重力を感じるので辛い。

戻る時は2階から飛び降りたい・・・泣。

目の前は先程の小部屋と似ているが、壁も床も白無垢の木で出来ているようだった。

一つしかない扉を開けると、2階の回廊に続いていた。

マーシャルさんに促され回廊に出ると、私の背丈ほどのガラス張りの書架が壁際にズラッと並んでいた。



「どの禁書をお読みになりますか?」

「皇族の血筋について書かれたものを全て読みたいのですが」

「・・・皇族の、ですか」

「ここには置いていないのですか?」

「いえ、そういう訳ではありません」

「マーシャルさんはお読みになった事がおありでしょう?」

「いえ、私は・・・」



司書なのだから、何が置いてあるか把握してるでしょう?

それとも、出し惜しみする気か?

出してくれないなら、端から一冊ずつ出させたるー。

時間も無いし、とっとと作業を始めるぞ。



「ご存知無いようなので、一番端から全て読みます。ガラス扉を開けてくださる?」



にっこり笑ってマーシャルさんに指示する。

そうして、また、マーシャルさんも私の前でアレをやってしまったのです。

そう、溜息です。

私は反射的に左手を握り込み、彼の右頬の寸前で拳を止めてみせた。

ひっ!と、マーシャルさんは身体を仰け反らせ、驚愕の目で私を見た。



「私、殿方が私に向かって嘆息なさる姿に我慢なりませんの。次に同じ事を私の前でなさったら、お顔と首が離れてしまうかもしれませんわね」



ダイさんにも見せた悪役令嬢の微笑みを、マーシャルさんにも見せてやった。

マーシャルさんは分かりやすいくらい震え出して、床に尻餅をついてしまった。

さあ、早く望みの本を私の目の前に持って来い!

そう顔に張り付けて凄むと、理解したのかマーシャルさんは慌てて立ち上がり、心当たりの書籍があると思しき書架のガラス扉を胸元のメダルで叩いていった。

最初から意地悪しないで持ってくりゃ良いのに。

マーシャルさんが目の前に持ってきた分厚い本は、ざっと3冊。

え、こんなに少ないの?

眉を釣り上げて彼を睨む。



「こ、これだけですよ、本当に!」

「禁書棚の書籍は全部で何冊ですか?」

「1039冊です」

「その中でたった3冊だけですの?」

「はい!そうです!」

「貴方が嘘をついていないと、どうして断言出来るのですか?」

「う、嘘をつく理由がありません」

「それは私がお聞きしたい事ですわ。先程、貴方は私に禁書を読んだ事が無かったかのような発言をなさいました。そんな方を信じろと?」



マーシャルさんは今にも泣き出しそうだ。



「では、この3冊を読みます。それが終わったら、ここにある禁書全てを読みます。長いお付き合いになりそうですわね」



ふふふーと楽しそうに笑えば、マーシャルさんは青白くなって固まった。



「司書さまもご存知ない皇族の血筋の記載が見つかるかも知れませんね」



こりゃー楽しみだなー笑。

私は固まっているマーシャルさんから本を引ったくると、意気揚々と回廊の角にある閲覧用のソファーに腰を下ろした。

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